BYDシールAWD(4WD)
お金では買えないもの 2024.08.10 試乗記 中国BYDの最大の武器は圧倒的な低価格。新型車「シール」でもそれは同じで、システム出力530PSの「シールAWD」が572万円というのは思わず二度見するレベルだ。ドライブした印象をリポートする。中国製BEVの総代
Dセグメント系FFセダンにほど近い車格が物語るとおり、シールは「ATTO 3」と並び、BYDの世界戦略車として開発された。欧州では先に販売されており、いくつか目にした外誌のインプレッションでもおおむね高評価だ。米国では展開されていないのはお察しのとおりで、欧州を含め、何かと政争の標的となってしまうのは致し方ないところだろう。言い換えれば中国製電気自動車(BEV)の総代として、その破壊力を警戒されているということでもある。
ならば……というわけでもないだろうが、近年はアジアパシフィックや南米、アフリカなどへも進出の手を広げ、乗用車カテゴリーのBYDブランドは約60カ国で展開されている。日本もそのうちのひとつなわけだが、シールはATTO 3、そして「ドルフィン」に次ぐ第3のモデルとしてこの6月に発売された。
モデルラインナップは1モーターのRWDと2モーターのAWDの2つを用意。搭載するバッテリーはともに容量82.56kWhのBYD自慢のブレード形状LFP=リン酸鉄系リチウムイオンバッテリーとなる。RWDはWLTCモードで640kmの航続距離を誇る一方、AWDは0-100km/h加速3.8秒といかにもBEV的な動力性能が自慢となるだろうか。ポルシェに当てはめれば「911カレラ4S」級の瞬発力が得られるAWDがある一方で、十分以上の動力性能と航続距離が期待できるRWDが528万円から手に入るというのがシールの強みだ。
ライバルに劣らぬ品質感
ちなみに現在打ち出されているデビューキャンペーンや公的補助金も用いれば400万円台半ばからアプローチできるうえ、ETCやドラレコプレゼント等のサービスも加わるとさらに初期費用は圧縮される。これらの競争力の原資がかの地の国家的な優遇や生産能力の過剰に端を発しているという意見はよく分かるが、それだけでは説明がつかない事態が起きているのもまた確かだ。少なくともATTO 3やドルフィンのスタティックなクオリティーをみるにつけ、個人的にはそういう危惧を抱いていた。
それはシールもしかりだ。意匠はともあれ、内装造作のマテリアルの配分や仕上げの質感、がっちりした建て付けなどは同級のモデルに劣らない。あるいは、ドアの開閉音やウェザーストリップの取り回しなどでは勝るところもある。BEVがゆえ、ひときわ気を使うだろう静粛性に関しては前席側に合わせガラスを用いるなどつくり込みも入念だ。例えるなら「カムリ」より「クラウン」系に近い、そのくらいの出来栄えと言っても過言ではない。
そのうえで、後席の居住性はBEV専用車台の利を感じさせるものになっている。前後席間の長さとフラットな床面を生かして、足を投げ出し気味に座らせるラウンジのような開放感は、着座姿勢こそ好みが分かれるだろうが、これからのサルーンのあり方を示しているともいえるだろう。ちなみにシールは、後席の安全性もテストされるユーロNCAPで5スターを獲得している。
乗り手がオッさんなもので……
運転環境はおおむね整っていて悪癖は見当たらないが、老眼のオッさんにはメーターパネルのアイコンやフォントが小さくて見にくいことが気になった。画面をダークモードにすればいささか改善されるが、ノートPC並みに巨大なセンターコンソールの画面に比べると、表示そのものの明快さを望みたくもなる。
デフロスターやハザードなど緊急性の高いものを除く、ほぼすべての機能設定はセンター画面に収められた。空調の吹き出し口の向きも画面内で操作することになる。画面はフローティング構造で縦型にも切り替えられるあたりはATTO 3やドルフィンと同じだが、支点とする指を置く場所がなく、操作性は良くはない。ただし操作レスポンスにはまったくストレスがなく、深い階層にもすいすいとたどり着くことができる。オッさん的にはある程度スイッチを残しておいてくれたほうがありがたいのだが、ユーザーの年齢層が若いだろう中国ではさほどネガにならないのだろうか。
オッさん泣かせという点でいえば、年を重ねるとともになぜか聞く頻度が増えるAMラジオがシールには装備されていない。BEVの電磁波環境とAMラジオの周波数帯域が干渉しやすいがゆえだが、一方で中国あたりではラジオの視聴ニーズもすでにネットアプリに代替されているのではないだろうか。日本でも「radiko」のようなサービスを利用すればいいわけだし、ワイドFMに対応している局ならば問題なく聴けるが、ことさら災害の多い国でもあるがゆえ、AMラジオはやっぱり車載しておいてほしい装備ではある。
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高速域の煮詰めが今ひとつ
タウンスピードの領域では、走りの印象は丸く優しいものだった。駆動マネジメントもきれいに整えられており、パワーの出方にも唐突感がない。ブレーキもバイト感が穏やかで微妙な速度調整も柔軟に受け付けてくれる。転がり感的にはタイヤのケース剛性がちょっと強めに表れるが、サスのセッティングが柔らかめにしつけられているおかげで、乗り心地も優しく感じられる。
が、高速域になるとバネものの柔らかさとタイヤの硬さを可変ダンパーでさえ取り持てていないがゆえの動きが表れ始める。具体的に最も気になるのはバウンドの量が大きくその収まりも悪いことだ。高速道路の大きなうねりではリアサスが伸びて駆動が一瞬抜け、接地で再び蹴られるという状況を幾度か経験した。不整路面ではリア側の追従が追いつかず揺すりが大きくなるのはBYDの他のモデルにも共通して感じられる。B~Cセグメントの量販モデルとすれば納得できなくもないが、Dセグメントのサルーンとあらば期待外れということになるだろう。
これはまったくの臆測になるが、おそらく欧州向けのシールにはもっと引き締まったサスセッティングがあてがわれているのではないだろうか。でなければ、アップダウンの激しいカントリー路やアウトバーンのような環境に適合できるとは思えない。法定速度域の低い日本仕様には快適性を重視したセッティングを採用しているとあれば、クルマとしてのつじつまは合う。が、そうなると0-100km/hが3.8秒の動力性能はさすがにトゥーマッチだ。
現状、シールを検討するのであればリアシングルモーターをお薦めする。乗り心地やスタビリティー、ハンドリングなどのトータルバランスはそちらのほうが明らかに優れている。自動車マーケットを爆速で突き進んできたBYDだが、さすがにうるさ方が客筋となる大型サルーンのようなカテゴリーでは、クルマのダイナミクスづくりの経験不足が否めなかったかというのが、偽らざる印象だった。
(文=渡辺敏史/写真=山本佳吾/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
BYDシールAWD
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4800×1875×1460mm
ホイールベース:2920mm
車重:2230kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:誘導式モーター
リアモーター:永久磁石同期式電動モーター
フロントモーター最高出力:217PS(160kW)
フロントモーター最大トルク:310N・m(31.6kgf・m)
リアモーター最高出力:313PS(230kW)
リアモーター最大トルク:360N・m(36.7kgf・m)
システム最高出力:530PS(390kW)
タイヤ:235/45R19 99V XL/(後)235/45R19 99V XL(コンチネンタル・エココンタクト6 Q)
交流電力量消費率:165Wh/km
一充電走行距離:575km(WLTCモード)
価格:572万円/テスト車=572万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:1514km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:325.2km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:4.9km/kWh(車載電費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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