日産アリアB9 e-4ORCEリミテッド(4WD)【試乗記】
薄味のプレミアム 2023.03.31 試乗記 日産がリリースした100%電動のSUV「アリア」。そのラインナップのなかから、大容量バッテリー+4WDの上級モデル「B9 e-4ORCE」に試乗。デザインもインターフェイスも走りも“未来的”な電気自動車(EV)に欠けているものとは何か?最上級のなかの最上級
最新の発表で、2030年度の新車に占める電動車のモデルミックスを、50%から55%以上へと上方修正した日産(インフィニティブランドを含む)。2026年度の見通しについても、中国市場は従来の40%から35%へと下げたようだが、欧州は75%から98%に、日本は55%から58%に変更しており、全体としても従来の40%から44%へと上方修正している。電動化は、着実に進んでいるというわけだ。
そんな日産の電動車におけるフラッグシップモデルであるアリアの、そのまたフラッグシップとなるB9 e-4ORCEに試乗(厳密には発売記念モデルの「B9 e-4ORCEリミテッド」)。横浜の自宅から街なかを抜けて東名高速道路へ突入し、ワインディングロードを一回りしてwebCG編集部にたどり着く、定番のコースでその内容を確かめてみた。
アリアB9で誰もがまず注目するポイントは、91kWhというバッテリーの容量と、それがもたらす航続距離の長さだろう。ただ、今回の試乗車は4WDモデルのe-4ORCEだから、その車重も2230kgと重たく、航続可能距離はFWDモデルの640kmに対して560kmとなっている(ともにWLTCモード)。
しかも、これを借り受けたときはほぼ満充電の状態にもかかわらず、チャージまでの走行可能距離が401kmと表示されていた。単純計算してカタログ値の約72%という数値は、俗に言う「実走行距離はおよそ7掛け」というセオリーとほぼ等しいのだが、この数字は先に試乗したドライバーの踏み方を反映したものなのだろうか? 試乗車がスタッドレスタイヤを履いていたことから考えると、雪上試乗に使われた車両であることも予測でき、この数字がどう変化するのかも興味深い試乗となった。
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デザイナーズマンションのよう
B9 e-4ORCEを走らせてまず感じるのは、“軽さ”だ。車重が2230kgもあると言っていたのに軽いって何なんだよ? と思うかもしれないが、色んな意味でこのクルマには、軽やかさを感じる。
シートはつくりがほどよく堅牢(けんろう)で、SUVだから着座位置も高く、見晴らしがいい。センタートンネルのないフロアは視覚的にも圧迫感がなく広々としていて、とても爽やかな気分になれる。
ここらへんはおさらいになってしまうが、12.3インチモニターをセンタースクリーンと連結させて大きく見せる手法もトレンドを追えているし、無機質なEVに木目調のダッシュパネルを合わせ、さらにスイッチ類をLED灯でシームレスに埋めこむやり方は、登場から2年経過した今でも新しい。シームレスタッチのスイッチ類は、一見操作がやりにくそうに見えるが、実際にはLEDライトの視認性は高い。そしてハプティックスイッチが指先にフィードバックを与えるから、狙いさえ定まればブラインドタッチも可能だ。ダッシュパネルはピアノブラックではないから滑りにくく、指紋も付きにくい。そして指先にクリック感が伝わると、わかっていても「おぉ!」っとなる。
こうした、デザイナーズマンションのようなモダンテイストの室内空間と、モーターライドの組み合わせは、非常に親和性が高い。特に試乗車はe-4ORCEだったから、アクセルレスポンスのよさはもちろん、加減速に伴う前後ピッチも上手に抑えられていた。
e-4ORCEは前後の加速度をモニタリングしており、例えば加速時には、フロントのモーターが適度に車体を引っ張ってスクォートを抑制する。減速時はリアモーターの回生ブレーキを利かせてノーズダイブを抑え、常にフラットな姿勢となるよう心がけてくれるのだ。さらにコーナリング時の横Gに対しては、内輪ブレーキ制御も加わる。街なかでは実にスイスイと、軽やかに走ってくれるのだ。
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スポーティーすぎやしないか?
ただなんと言うべきか、筆者にはその乗り味が、ちょっとばかり表面的なものに感じられた。全体的な雰囲気は実におしゃれでスマートなのだが、すべてのテイストがキムタクのように軽い。いや彼のことは嫌いじゃないけど、日産の電動フラッグシップの割に、どっしり感やしっとり感がないのだ。
高速巡航時も、その印象は変わらなかった。スタッドレスタイヤを履いていることを思えば直進安定性は高いし、操舵レスポンスもリニアでレーンチェンジも軽やかにこなす。また高速道路を走行していると割と簡単にブルーシグナルが点灯し、「プロパイロット2.0」がハンズオフ可能状態に入る。アダプティブクルーズコントロールと車線維持支援機能をアクティブにしているとステアリングの据わりはさらによくなるから、別に手放しする気もないのだけれど、すべてがスムーズで快適である。
しかし同時に、すべてが薄味に感じられるのだ。その理由は、単純に足まわりが、アリアの目指すキャラクターに対してちょっとだけ硬いのだと思う。それは決して乗り心地を悪くするような硬さではない。2230kgという車重を支えつつ、e-4ORCEの走りを高めるために、少しばかりスポーティーに振りすぎているのだ。
実際、足まわりのセッティングはかなり秀逸だ。後輪のモーターが安定性を高めたせいか、はたまたリアのダンピング剛性を見直したのか、デビュー当時に試乗した「B6」のFWDモデルと比べて、後輪のバタつきや突き上げ感はなくなっている。そしてロールも極めて少ないのだが、ゆえに“しっとり感”が生まれない。バッテリーを床下に敷くEVは、重心の低さが操作性のよさとして表れやすいはずだが、B9 e-4ORCEはその足まわり剛性とe-4ORCEの予測制御が、自然なロール感まで打ち消してしまっている気がする。
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ケレン味のない他車と比べると……
それだけに、ワインディングでの走りはすごかった。いや正直に言うと、やりすぎだとすら感じた。
このボディーサイズには到底不向きと思える曲率の高いカーブでも、B9 e-4ORCEはハンドルを切るだけで、こともなげにクルリと向きを変える。コーナリング中の制御も素晴らしく、意地悪くアクセルを踏み込んでも、4輪へトルクがきれいにスプリットされる。
こうしたシチュエーションではさすがに車体はロールやピッチを起こすが、それすらがほどよくバランスしている。気をつけないと重い車重を忘れるほどスピードが乗ってしまい、思わずアクセルを緩めたくらいだ。
しかし、果たしてこの走りがアリアに必要なのだろうか?
私が800万円に手が届く国産EVを買うとしたら、それよりもっとインテリアや外観に似合った質感が欲しい。「ノートe-POWER X FOUR」でも感じていたが、日産のエンジニアは電動4WD制御にかなりの自信を持っている。だから少しばかり、気合が入りすぎてしまっているのではないか。
例えば、テスラを抜いて電動車シェア世界一(PHEV、FCVを含む)となったBYDの「ATTO 3」などは、その足さばきが上質だ。自社製バッテリーとつくりのシンプルさから車体は1750kgと(EVとしては)すこぶる軽いのだが、それに合わせてしなやかなロール剛性が与えられている。
余談だが、室内の遮音性もかなり高く、純正オーディオながらアリアとは比較にならないほどその音質もいい。何が言いたいのかといえば、そのつくりは思った以上にまじめなのだ。
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長く付き合えるクルマとなってほしい
翻ってアリアB9 e-4ORCEだが、現状でも2つのモーターが織りなすラグのない加速感と、そのスッキリとした乗り味は、確かにユーザーにEVの未来感をイメージさせるだろう。「やっちゃえ」的なテイストで言えば、その爽やかな“軽さ”はCMどおりで、第一印象では高い満足度が得られると思う。
ただ、長く乗り続けたときにじんわりと染み入る何かが、このアリアには少し足りない気がした。試乗車は、今回の取材でようやく走行距離が1000kmを超えたというまっさらな新車だったから、実際には走り込むことでアシがなじみ、こんな指摘も筆者の取り越し苦労だった、となればよいのだけれど。
そんなことを思いながら編集部に車両を返す前、少し時間があったので代官山の蔦屋書店に寄った。駐車場に居並ぶクルマたちはどれも驚くほどおしゃれで、ドイツ御三家はもちろん「シトロエンC5 X」が平然と止まっていたり、ウインブルドングリーンメタリックの“996カレラ”がセンスよくたたずんでいたりする。エンスーなところではBMWの“マルニクーペ”もいた。そんななかでもアリアだと、まったく気後れしないどころか、その雰囲気に溶け込んでいる気がして、気分がよかった。そんなところが、いまの日産。いろいろ文句をつけた割には、そのヤッピーな感じを結構気に入っている自分が笑えた。
ちなみに、今回私が試乗した距離は244.9kmで、平均電費は4.1km/kWh。途中1回の急速充電を挟んだが、その時点でのトリップメーターの161.8kmに対して、液晶メーターに表示された走行可能距離は198kmだった。途中ワインディングロードを挟んだことも踏まえる必要はあるが、単純計算だと、実走行可能距離は最初に見た400kmよりさらに短くなったことになる。
まあ、まだまだEVは始まったばりだ。だとすれば、今はその過渡期ならではの体験を、大いに楽しんだほうが幸せなのかもしれない。
(文=山田弘樹/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
日産アリアB9 e-4ORCEリミテッド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4595×1850×1665mm
ホイールベース:2775mm
車重:2230kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:218PS(160kW)/5950-1万1960rpm
フロントモーター最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/0-4392rpm
リアモーター最高出力:218PS(160kW)/5950-1万1960rpm
リアモーター最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/0-4392rpm
タイヤ:(前)255/45R20 105Q XL/(後)255/45R20 105Q XL(ブリヂストン・ブリザックVRX3)
一充電走行距離:560km(WLTCモード)
交流電力量消費率:187Wh/km(WLTCモード)
価格:790万0200円/テスト車=807万7832円
オプション装備:ボディーカラー<暁:サンライズカッパーメタリック/ミッドナイトブラックパール2トーン>(8万8000円) ※以下、販売店オプション ウィンドウはっ水12カ月<フロント+フロントドアガラスはっ水処理>(1万1935円)/日産オリジナルドライブレコーダー<フロント+リア>(7万7697円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:989km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:282.8km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:5.3km/kWh(車載電費計計測値)
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山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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