トヨタがKINTOをテコ入れ 新車サブスクリプションサービスはそんなにおいしいビジネスか
2024.09.11 デイリーコラム家は賃貸でも気にしないのに……
トヨタの「KINTO(キント)」をはじめ、ホンダの「楽まる」や日産の「ClickMobi(クリックモビ)」など、自動車メーカー系の新車サブスクリプションサービス(サブスク)が増えている。KINTOに至ってはトヨタだけではなくスバルのクルマも対象となり、今後は某社や某社などトヨタと資本関係のあるメーカーがスバルに追従するのではないかと筆者は予想している。
サブスクといえば一般的には「利用料を払えば使い放題」というイメージだが、クルマの場合はちょっと違う。「一定の料金を払っている間はいろんなクルマを利用できる」のではなく、「毎月均一の利用料で自分専用のクルマを利用できる」というのがクルマのサブスクの基本だ。要はリースである。
そんなクルマのサブスクに対して事情通は「現金で買ったほうが安い」とか「最後に車両を戻さないといけないのがダメ」(契約によっては一部例外あり)、「カスタマイズが自由にできない」さらには「自分名義にならないのが許せない」と意見を言いがちで、それらは大体合っている(KINTOは任意保険料込みなので保険の契約内容によってはトータルの出費が新車購入より安くなることもある)。
ただ、それは不動産の永遠のテーマである「買い物件 VS 賃貸物件」みたいなもの。賃貸物件に住みながら「クルマのサブスク(リース)なんてダメだ」という人は、きっとクルマに対して特別な感情を持ちすぎなのではないだろうか……とひそかに感じているところだ。
拡大 |
ユーザーにとってのメリット
ところで、ユーザー側から見たサブスクのメリットといえばなんといっても「クルマに関わる月々の出費(燃料代や有料道路代は除く)が定額」ということだろう。サブスクやリース以外では、現金一括購入だろうとローンだろうと残価設定ローンだろうと、自動車税や車検、定期点検などの出費がある。しかしサブスク&リースなら、それらを含めた月々の利用料となっているため毎月の負担が均等。さらに、企業や個人事業主なら減価償却なんて考えずにまるっと経費扱いにできることも大きなメリットである。
加えてKINTOでは年齢などの条件にかかわらず負担額が変わらない任意保険まで含めたプランだから、若い人や年配の人など任意保険が高額になりがちな利用者は自分で保険を掛けるよりもトータルで安上がりになることが多い。それもメリットといえる。
そもそもクルマのサブスクやリースは「条件に当てはまればメリットがある」というものであり、自分がその条件に当てはまらないのなら、使わなければいいだけ。自分にメリットがないからといって否定するものではないだろう。それは不動産の「賃貸物件 VS 買い物件」でも同じでしょ? 多様な選択肢があるのは、いいことなのだ。
拡大 |
メーカーにとっては一粒で二度おいしい
さて、長い前置きとなったが、今回のテーマは「新車サブスクサービスはメーカーにとってそんなにおいしいビジネスか?」というもの。
販売側にとってメリットがあるかといえば、やっぱりあるだろう。
ひとつは、定期的に良質な車両が戻ってきてそれを使った中古車ビジネスができるということ。これはメーカーというよりも販売店サイドのメリットとなるが、サブスク車両(残価設定ローンもそう)は多くが3年もしくは5年で返却される。しかも走行距離は増えすぎていないし(大体距離の上限が設定されている)、メンテナンスもばっちりだ。そんな上質なサブスクアップ(!?)車両を中古車として販売できるから、一粒で二度おいしいというわけだ。
もうひとつは、一般的なローンに比べるとグレード間の価格差(毎月の支払額の差)が小さくなるから、上級グレードを選ぶユーザーが増えること。自動車メーカーにとっては単価の高い車両を選んでもらったほうがもうけは増すわけで、高い商品を選んでもらうのはメリットがある。
筆者自身も(サブスクではなく残価設定ローンだが)、以前購入した車両は「月々の支払いが3000円しか違わない」というのがガソリンエンジンじゃなくてディーゼルエンジンを選んだ決め手となったし、今乗っている車両は「月々の支払いが3500円しか違わないなら、無理だと思っていたひとつ上のグレード」となりシートベンチレーションやサンルーフが標準装備として追加された。どう考えても、メーカーの戦略にすっかりはまっている自分がいる……(笑)。
拡大 |
方法よりもたくさん出荷したいが本音
しかし、メーカー側の狙いとしてもっと大きいのは「いろんな所有方法(利用方法)を用意して、クルマの販売を増やす」ということだろう。
日本ではバブル崩壊以降、多少の波はあれど傾向として新車販売台数は減り続けている。そのうえ昨今は人口減に加え、生活に自動車が必要な地方の人口が減りつつ自動車が生活必需品ではない都市部に人口が集中することで“クルマ離れ”はますます進むだろう。自動車販売台数が再び上昇する可能性は、限りなくゼロに近いのだ。
そんな状況において、1台でも多くのクルマを売りたい自動車メーカーの策のひとつが「気軽にクルマを所有できる環境づくり」であり、サブスクもそのひとつと考えればいいだろう。サブスクのメリットは、まとまった出費や突然の出費がないことであり、だからクルマ生活を始めるのが気軽。これまでの購入方法ではハードルが高かった人も、「それなら」となることだろう。そんなユーザー側のメリットをフックに、クルマ利用を始めてもらおうというのがメーカー側の狙いなのだ。
自動車メーカーとしては「ぜひサブスクを使ってほしい」のではなく「販売(利用)方法のいろんな選択肢を用意して、1台でも多くのクルマを出荷したい」ということである。
(文=工藤貴宏/写真=トヨタ自動車/編集=藤沢 勝)
拡大 |

工藤 貴宏
物心ついた頃からクルマ好きとなり、小学生の頃には自動車雑誌を読み始め、大学在学中に自動車雑誌編集部でアルバイトを開始。その後、バイト先の編集部に就職したのち編集プロダクションを経て、気が付けばフリーランスの自動車ライターに。別の言い方をすればプロのクルマ好きってとこでしょうか。現在の所有車両は「スズキ・ソリオ」「マツダCX-60」、そして「ホンダS660」。実用車からスポーツカーまで幅広く大好きです。
-
GRとレクサスから同時発表! なぜトヨタは今、スーパースポーツモデルをつくるのか? 2025.12.15 2027年の発売に先駆けて、スーパースポーツ「GR GT」「GR GT3」「レクサスLFAコンセプト」を同時発表したトヨタ。なぜこのタイミングでこれらの高性能車を開発するのか? その事情や背景を考察する。
-
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ 2025.12.12 日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。
-
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る 2025.12.11 マツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。
-
業界を揺るがした2025年のホットワード 「トランプ関税」で国産自動車メーカーはどうなった? 2025.12.10 2025年の自動車業界を震え上がらせたのは、アメリカのドナルド・トランプ大統領肝いりのいわゆる「トランプ関税」だ。年の瀬ということで、業界に与えた影響を清水草一が振り返ります。
-
あのステランティスもNACS規格を採用! 日本のBEV充電はこの先どうなる? 2025.12.8 ステランティスが「2027年から日本で販売する電気自動車の一部をNACS規格の急速充電器に対応できるようにする」と宣言。それでCHAdeMO規格の普及も進む国内の充電環境には、どんな変化が生じるだろうか。識者がリポートする。
-
NEW
GRとレクサスから同時発表! なぜトヨタは今、スーパースポーツモデルをつくるのか?
2025.12.15デイリーコラム2027年の発売に先駆けて、スーパースポーツ「GR GT」「GR GT3」「レクサスLFAコンセプト」を同時発表したトヨタ。なぜこのタイミングでこれらの高性能車を開発するのか? その事情や背景を考察する。 -
NEW
第325回:カーマニアの闇鍋
2025.12.15カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。ベースとなった「トヨタ・ランドクルーザー“250”」の倍の価格となる「レクサスGX550“オーバートレイル+”」に試乗。なぜそんなにも高いのか。どうしてそれがバカ売れするのか。夜の首都高をドライブしながら考えてみた。 -
NEW
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション/ルークスX【試乗記】
2025.12.15試乗記フルモデルチェンジで4代目に進化した日産の軽自動車「ルークス」に試乗。「かどまる四角」をモチーフとしたエクステリアデザインや、リビングルームのような心地よさをうたうインテリアの仕上がり、そして姉妹車「三菱デリカミニ」との違いを確かめた。 -
ホンダ・プレリュード(前編)
2025.12.14思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「ホンダ・プレリュード」に試乗。ホンダ党にとっては待ち望んだビッグネームの復活であり、長い休眠期間を経て最新のテクノロジーを満載したスポーツクーペへと進化している。山野のジャッジやいかに!? -
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】
2025.12.13試乗記「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】
2025.12.12試乗記「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。


































