フォルクスワーゲンTクロスTSI Rライン(FF/7AT)【試乗記】
狙うはナンバーワン 2024.10.01 試乗記 日本の道路環境にフィットする「ポロ」クラスのコンパクトSUVとして人気を博した「フォルクスワーゲンTクロス」がマイナーチェンジ。内外装の質感アップと充実した装備の採用をセリングポイントに掲げる、ジャーマンSUVの進化を確かめた。時代はポロからTクロスへ
フォルクスワーゲンのエントリーモデルといえば、全長4mそこそこのコンパクトハッチバック車、ポロが長年その役目を果たしてきた。ところが、2020年1月にフォルクスワーゲン最小のコンパクトSUV、Tクロスが発売になると、SUVブームも手伝ってポロを超える人気モデルに浮上。ときには主力の「ゴルフ」を上回る販売台数を記録するなど、いまや日本のラインナップになくてはならない存在になった。
Tクロスは輸入車のなかでも目立つ存在で、2020年から3年連続で輸入SUV登録台数ナンバーワンに輝いている。ドイツ本国でマイナーチェンジが発表された2023年には2位にランクダウンしたが、代わりにトップに浮上したのが、ひとあし先にマイナーチェンジした「フォルクスワーゲンTロック」で、街なかでTクロスやTロックをよく見かけるのも合点がいく。
そんなフォルクスワーゲンにとって重要なモデル、Tクロスのマイナーチェンジ版が待望の日本上陸を果たし、ついに試乗できる日がやってきた。フォルクスワーゲンはこれまで多くの人からTクロスが選ばれた理由を、「日本にジャストフィットのサイズ、ポップなデザイン、求めやすい価格」とみているが、最新版のTクロスもこうした特徴を維持しながら、さらに魅力的なクルマに進化しているという。
真っ先に気になったのが価格である。フォルクスワーゲンに限らず、輸入車の価格は上昇が続いており、マイナーチェンジともなれば大幅値上げはあたりまえ。Tクロスについてもそれを覚悟していたが、ふたを開けてみると予想したほど高くなかった。
たとえば、エントリーグレードの「TSIアクティブ」では、同一車線内全車速運転支援システム“Travel Assist”やハイビームアシストなどを追加しながら、価格は1万7000円アップに抑えている。一方、今回試乗した最上級グレードの「TSI Rライン」は、LEDマトリクスライト“IQ.LIGHT”や前席シートヒーターといった魅力の装備を標準化しつつ、これまで標準装着だった一部安全装備をメーカーオプション化することで、10万3000円安を実現したのには正直驚いた。
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デジタル化はほどほどに
マイナーチェンジだけに、ウリであるコンパクトなボディーサイズは維持されている。全長は、TSIアクティブと「TSIスタイル」が25mm、TSI Rラインは10mm延びてそれぞれ4140mmと4135mmになったが、前者2モデルの全幅は以前と同じ1760mm、後者も変わらず1785mmをキープしている。全高も1580mmで変わらないが、あと30mm低かったら日本の多くの機械式駐車場で困らないだけに、現状維持はちょっと惜しい気もする。
エクステリアデザインは、マイナーチェンジの前後で一見変わらないように思えるが、試乗車のTSI Rラインを旧型と見比べてみると、フロントフォグランプが廃止され、フロントバンパーのデザインが見直されたことで、とてもすっきりとした印象に変わっている。
それ以上にうれしいのが、インテリアデザインのリニューアル。ダッシュボードがステッチ付きのソフトパッドで覆われたことで、コックピットが格段に心地よい雰囲気に変わったのだ。加えて、センターディスプレイが流行のタブレットスタイルになり、見やすくなったのも見逃せない。
一方、エアコンの設定パネルは、以前と同じデザインのままセンターディスプレイ下に置かれていて、温度調整などが直感的かつダイレクトに操作できるのは助かる。現行「ゴルフ」がセンターディスプレイに操作を集約しすぎて不評を買ったが、このTクロスのようにやりすぎないのが使いやすくていいのだ。
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ブラッシュアップされた1リッター直3ターボ
日本仕様のTクロスにはこれまでどおり、全グレードに1リッター直3ターボエンジンが搭載されている。エンジンのスペックもほぼ同じで、最高出力が116PS、最大トルク200N・mを発生する。厳密には最高出力の発生回転数が、5000-5500rpmから5500rpmに変わっているが、同時に乗り比べたとしても私には違いを感じ取る自信がない。
組み合わされるのはデュアルクラッチギアボックスの7段DSGで、このクラスの他のSUV同様、駆動方式はFWD。こちらもマイナーチェンジ前と同じである。
それだけに、正直なところ旧型からの進化は期待していなかったが、実際に運転してみると着実にブラッシュアップされていることに気づく。走りだすと、動き出しがより軽やかに感じられる。2000rpm手前あたりまで、ややアクセル操作に対して反応が鈍いところもあるが、街なかを走らせるにはおおむね十分な性能を有している。こうした場面で、以前は3気筒エンジン特有のノイズや振動が気になったのだが、最新版ではエンジンがスムーズさを増し、ノイズや振動もだいぶ抑え込まれたぶん、これまで以上に快適なドライブが楽しめるようになった。
一方、アクセルペダルを思い切り踏み込むと、エンジン音は高まるが、加速は十分。3500rpmを超えたあたりからはそれなりに勢いがあり、いざ追い越しや高速道への流入といった場面で、もたつく心配はない。
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乗り心地もまろやかに
エンジン同様、着実に進化したのがTクロスの乗り味だ。マイナーチェンジ前は、足まわりに硬さが残り、とくに18インチタイヤ装着車では乗り心地に不満を抱いた記憶がある。ところが最新版では、215/45R18サイズのタイヤが装着されるこのTSI Rラインでも、十分に快適なレベルに仕上がっている。細かいことを言えば、タイヤにややザラついた感じがあったり、路面によっては多少バタついたりすることもあるのだが、以前ほどは気にならなくなった。
それでいて、高速走行時の挙動は落ち着きがあり、フラットさもまずまずといったところだ。別の機会に17インチタイヤ装着車を試すこともできたが、そちらはさらに乗り心地がマイルドになり、カタログでは語られない進化に感心するばかりだ。
Tクロスの見どころのひとつに、見た目から想像する以上に広い室内がある。後席は前後スライドが可能で、一番広い状態はもちろんのこと、狭い状態でも私のドラポジならば膝の前には拳1個ぶんの隙間が確保されるほど。ラゲッジルームも後席を畳まない状態で約600〜750mmの奥行きが確保され、このクラスとしては十分なスペースといえる。
マイナーチェンジにより、デザインも走りも洗練されたTクロス。フォルクスワーゲンのエントリーモデルとして、さらに頼もしくなったTクロスが、2025年、輸入SUVナンバーワンの座を奪還する可能性は高いのではないだろうか。
(文=生方 聡/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
フォルクスワーゲンTクロスTSI Rライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4135×1785×1580mm
ホイールベース:2550mm
車重:1260kg
駆動方式:FF
エンジン:1リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:116PS(85kW)/5500rpm
最大トルク:200N・m(20.4kgf-m)/2000-3500rpm
タイヤ:(前)215/45R18 89V/(後)215/45R18 89V(ピレリ・チントゥラートP7)
燃費:17.0km/リッター(WLTCモード)
価格:389万5000円/テスト車=425万1290円
オプション装備:Discover Proパッケージ(16万5000円)/セーフティーパッケージ(8万8000円)/“beatsサウンドシステム”パッケージ(6万6000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<テキスタイル>(3万7290円)
テスト車の年式:2024年型
テスト車の走行距離:625km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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