フォルクスワーゲンTクロスTSIスタイル(FF/7AT)
トレンドど真ん中 2024.12.10 試乗記 マイナーチェンジで顔つきが垢(あか)抜け、インパクトのあるリアビューも組み合わされたフォルクスワーゲンのコンパクトSUV「Tクロス」。その中間グレードにあたる「TSIスタイル」に試乗し、多くのユーザーに支持される理由を探ってみた。安全装備は全グレード共通
試乗車として提供されるのは、最上位グレードであることが多い。しかもオプションがてんこ盛りで、車両本体価格の3割増し、4割増しになっていることもザラである。豪華装備はもちろんありがたいのだが、できれば素のモデルに乗ってみたいとも思う。今回はフォルクスワーゲンのコンパクトSUV、Tクロスのエントリーモデルだと聞いていたので、楽しみにしていた。
スペックシートを確認すると、車両本体価格は359万9000円と書いてある。これは、2番目のグレード「TSIスタイル」ではないか。行き違いがあったようだ。エントリーグレードは「TSIアクティブ」で、329万9000円。最上位グレードの「TSI Rライン」は389万5000円で、それぞれ約30万円の差がつけられている。試乗車は「Discover Proパッケージ」と「セーフティーパッケージ」のオプションが付けられており、総計で385万2000円。ラインナップの中では真ん中よりちょっと上というポジションだ。
Tクロスのパワーユニットは1種類。1リッター直3ターボエンジンに7段DSGの組み合わせだ。駆動方式はFFのみで、4WDの設定はない。ということは、グレードの差は装備によるものということになる。全車共通なのは、安全装備や運転支援システムだ。プリクラッシュブレーキやレーンキープアシスト、同一車線内全車速運転支援システム“Travel Assist”などである。安全性に関してグレードで差をつけないというのは、正しい姿勢だろう。
内外装には違いがある。LEDマトリックスヘッドライト"IQ.LIGHT"やダイナミックインジケーター付きのLEDテールランプ、シートヒーターが装備されるのはスタイルとRラインだけ。レーンチェンジアシストシステム"Side Assist Plus"やデジタルメータークラスター"Digital Cockpit Pro"などをセットにしたセーフティーパッケージとインフォテインメントシステム"Discover Pro"のオプションは、どのグレードでも選ぶことができる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
先進性と使い勝手のよさを両立
いずれの装備もどうしてもなかったら困るというものではないようで、TSIアクティブでも特に不便はなさそうだ。好みが分かれるのは足まわりだろう。ホイールのサイズがアクティブは16インチ、スタイルは17インチ(デザインパッケージで18インチも選択可能)、Rラインは18インチで、偏平率も異なる。
Tクロスは2020年1月に日本での販売がスタートし、2024年7月に初めてのマイナーチェンジを受けた。内外装に手が入れられ、安全装備などの見直しが行われている。エクステリアではバンパーが新デザインになり、顔つきが垢(あか)抜けた。最もわかりやすい変化は、テールランプがX形状になったこと。車名の“クロス”を表現している。3Dの複雑な造形で、インパクトがあってアイコニックだ。
内装はフォルクスワーゲンらしく過剰な装飾のない実用的な仕立て。ダッシュボードやドアトリムはソフトな質感で高級感がある。センターディスプレイをタブレットタイプにしたことで、アップデート感が生まれた。タッチパネルになっていて画面を介して各種操作を行えるが、その下には物理スイッチも残すハイブリッドスタイルだ。先進性を意識しながら使い勝手にも配慮している。
走りだしてすぐに感心するのは、サイズ感の絶妙さだ。コンパクトハッチ「ポロ」のSUV版という受け止め方をされているわけで、日本の道路事情では実に扱いやすい。前方を見極めるためにはシート位置を高めにしたほうがいいが、狭い道でもストレスなく運転することができる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
実用性だけではない
全長4140mm、全幅1760mmというディメンションは、「ホンダ・ヴェゼル」や「トヨタ・ヤリス クロス」よりほんの少し小さめだ。やはりこのくらいのサイズが日本では受け入れられやすい。Tクロスがデビュー当時に「TさいSUV」という駄じゃれキャッチコピーを掲げていたことを思い出した。全長はマイナーチェンジで25mm伸びているが、コンパクトであることに変わりはない。
7段DSGの変速はスムーズで、実に軽快に走る。ノイズや振動はしっかり抑えられていて、3気筒エンジンということを意識することはなかった。乗り心地は上々である。路面の衝撃を柔軟に受け止め、車高の高さからくる不快な揺れも感じなかった。SUVを運転していることを忘れてしまう。街なかを走っているぶんには、欠点は見当たらない。言い換えると特筆すべきこともないのだが、クセがないことはこういうクルマにとっては美点である。
最高出力は116PSで、1260kgの車重には必要十分である。唐突にターボが効き始めるようなこともなく、アクセル操作に対する反応はナチュラルだ。実用車として申し分のないキャラクターなのだが、ワインディングロードに乗り入れると意外な姿を見せた。もちろん絶対的な速さはないけれど、活発な走りが楽しい。ドライブモードを選べるのはRラインだけである。スポーツ走行では手動変速のためにシフトセレクターを横に倒すという懐かしい動作が必要になる。
タイトなコーナーでも大きなロールを見せることはない。ステアリングを切ると素早く反応し、狙ったとおりのラインをたどる。一度でピタッと決まるハンドリングが楽しさの源泉なのだ。基本性能の高さが、スポーティーな走りにつながっている。まじめなクルマづくりをしていることで、実用性だけでなくドライビングファンも生み出しているのだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
兄貴分より広いラゲッジスペース
パッケージングの巧みさもTクロスの価値だ。後席には大人がゆったりと座れるスペースが確保されていて、頭上にも余裕がある。兄貴分の「Tロック」はひとまわり大きいボディーサイズだが、ラゲッジスペースは445リッターでTクロスの455リッターのほうが大きい。Tロックはビジュアル重視でクーペ的なスタイルを持ち、後方に向かってルーフを下降させているのだ。
Tロックのキャッチコピーは「人生をもっとロックに」で、Tクロスは「遊び心とクラフトマンシップがクロスした」というもの。絶妙にキャラづけを変えている2台だが、どちらも売れ筋である。Tクロスは2020年から2022年にかけて輸入SUV登録台数No.1で、2023年はTロックが代わって王座についた。ひと頃に比べると日本での販売台数が伸び悩んでいるフォルクスワーゲンだが、コンパクトSUVのジャンルでは確固とした存在感を示している。
しっかりとしたつくりで信頼性があり、性能の割に価格が安いことがフォルクスワーゲンの魅力とされてきた。Tクロスもその伝統を受け継いでいるわけだが、驚くほど安い、というわけではない。カタログモデルのデビュー時にはアクティブが278万円、スタイルが303万円で、お買い得感が強かった。資材の高騰や円安の影響で国産車も輸入車も価格が上昇したのがこの数年である。Tクロスも4回の価格改定を行い、50万円ほど高くなってしまったわけだ。
メーカーだけに責を負わせるのはフェアではないが、残念ではある。ただ、長年にわたってフォルクスワーゲンの象徴的存在だった「ゴルフ」は、349万9000円、ポロなら286万2000円からという価格設定だ。SUVは大きくて見栄えも使い勝手もいいとはいえ、どうしても値段が高くなってしまう。それでも、多くのユーザーはSUVを望んでいるわけだ。Tクロスがトレンドのど真ん中に位置する今という時代にマッチしたモデルであることは確かである。
(文=鈴木真人/写真=花村英典/編集=櫻井健一/車両協力=フォルクスワーゲン ジャパン)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
フォルクスワーゲンTクロスTSIスタイル
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4140×1760×1580mm
ホイールベース:2550mm
車重:1260kg
駆動方式:FF
エンジン:1リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:116PS(85kW)/5500rpm
最大トルク:200N・m(20.4kgf-m)/2000-3500rpm
タイヤ:(前)205/55R17 91V/(後)205/55R17 91V(ピレリ・チントゥラートP7)
燃費:17.0km/リッター(WLTCモード)
価格:359万9000円/テスト車=388万9290円
オプション装備:"Discover Pro"パッケージ(16万5000円)/セーフティーパッケージ(8万8000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<テキスタイル>(3万7290円)
テスト車の年式:2024年型
テスト車の走行距離:2151km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:374.9km
使用燃料:25.9リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:14.5km/リッター(満タン法)/14.8km/リッター(車載燃費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
BYD ATTO 3 EX AWD(4WD)【試乗記】 2026.11.3 BYDの「ATTO 3」がビッグマイナーチェンジで「ATTO 3 EX」に進化。EXは「EXTEND」「EXPLORE」「EXPERIENCE」を示すとのことだが、それはともかく、前輪駆動から後輪駆動に変わり、パワーも大幅にアップするなど、電気自動車(BEV)としての基本構造がまるで別物になっている。新たに追加された4WDモデルを試す。
-
トヨタ・アクアGRスポーツ(FF/CVT)【試乗記】 2026.11.2 「アクア」のビッグマイナーチェンジに遅れること10カ月。“最新のトヨタ顔”に変身したスポーツコンバージョンモデル「アクアGRスポーツ」が登場した。専用チューニングが施されたボディーや足まわりの仕上がりを、ワインディングロードに連れ出して確かめた。
-
ベントレー・コンチネンタルGT S(4WD/8AT)【試乗記】 2026.10.31 ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」にハイパフォーマンスバージョンの「S」が登場。すでにトップパフォーマンスモデルの「スピード」が存在するなかで、果たしてSはどんなポジションを担うのだろうか。試乗を通じて検証した。
-
日産フェアレディZ NISMO(FR/9AT)【試乗記】 2026.10.28 「日産フェアレディZ」のマイナーチェンジモデルが登場。改良の主眼はZが受け継いできたヘリテージのさらなる深化と性能の強化だという。もはやお値段1000万円(!)に迫らんとする「NISMO」の9段ATモデルを試す。
-
ダイハツ・ミラ イースtuned by D-SPORT Racing(FF/5MT)【試乗記】 2026.10.27 ダイハツのベーシックな軽乗用車をもとに、ラリーやレース向けの競技車両に仕立てた「ミラ イースtuned by D-SPORT Racing」。軽量ボディーをロールバーで固め、力強いターボエンジンを搭載した一台は、クルマの楽しさを学べる教科書のような一台となっていた。
-
NEW
「ルノー カングー ジャンボリー2026」の会場から
2026.11.5画像・写真山梨・山中湖畔に約1400台もの「ルノー・カングー」が集結! 日本で愛され続けるフレンチMPVのファンミーティング「ルノー カングー ジャンボリー2026」の様子を写真で紹介する。 -
NEW
日産がピックアップトラック「フロンティア プロ/ナバラ プロ」をグローバル市場で発売 日本上陸は?
2026.11.5デイリーコラム日産が中国を設計・開発・生産の拠点とする新たなグローバル戦略をスタートさせた。その第1弾モデルが、新型ピックアップトラック「フロンティア プロ/ナバラ プロ」だ。豪州向けに右ハンドル仕様も用意されるが、果たして日本上陸の可能性は? -
NEW
アストンマーティンDB12 S(FR/8AT)【試乗記】
2026.11.5試乗記アストンマーティンのスポーツツアラー「DB12」が、より高性能な「DB12 S」に進化。エンジンもシャシーも空力も、すべてに手が加えられた名門の基幹車種は、いかなるモデルに仕上がっているのか? ブリティッシュスポーツの血統を感じさせる、その走りを報告する。 -
ポルシェの「ミッションS」にはどんなエンジンが積まれるのか
2026.11.4デイリーコラム「ポルシェ・ミッションS」はリアミドシップレイアウトの次世代スポーツカーだ。興味深いのは“「911」より上”とされる商品のポジションで、911といえば水平対向6気筒、ミッションSにはどんなパワートレインが積まれるのか。状況証拠をもとに検証した。 -
第135回:アウディデザイン水掛け論(後編) ―モアイ像か、怪物か アウディの未来を決める極限の選択―
2026.11.4カーデザイン曼荼羅「Q9」に「A2 e-tron」に「ヌヴォラーリ」と、方向性の異なるデザインを同時多発的に提案してきたアウディ。かつて先駆的な造形美で世界を瞠目させた彼らは今、どこへ向かおうとしているのか? カーデザインの識者と、フォーシルバーリングスの未来を考えた。 -
第348回:これでスーパーカーは完全に終わった!
2026.11.3カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。イーロン・マスクが宇宙ロケット技術をクルマに応用し空飛ぶクルマ「テスラ・ロードスター」を発表した。スラスターで姿勢を制御しつつ“飛行”する様子には度肝を抜かれ、「これでスーパーカーは完全に終わった」と思った。

















































