クルマはなぜ6年前後でモデルチェンジされるのか?
2024.10.08 あの多田哲哉のクルマQ&A最近はバラつきもあるようですが、クルマのモデルチェンジはだいたい6年ごというイメージがあります。なぜこのスパンなのですか? 開発サイドの都合・理由というものがあれば知りたいです。
かつて、車検が新車購入から2年ごとに行われていた時代は、車検を2回とったら、つまり新車購入から4年が経過したら買い替える、というのが一般的でした(※1983年に、初回の車検の有効期間は2年から3年へと延長された)。
その当時は月賦販売が普通で、売る側は「新型に乗り換えても月々の支払いは変わりませんよ」と言っていた。ずーっと同じ金額を払いつつ4年ごとに新車になるというのは、セールスもしやすいし、お客さんだってうれしい、という時代でした。私のプライベートでもそれは当てはまり、父が4年ごとに、きちっ、きちっと買い替えていたのが思い出されます。
時代としても、4年もたてばクルマの性能のすべてが上がっていたころです。だから、ユーザーからの不満も出ない。セールスもカンタン。そうして固定客を捕まえれば、トップセールス間違いなしでした。
ところが、そんなパターンは崩れ、車種もどんどん増えていきました。同じ「カローラ」ばかり乗り換えずとも、もっと魅力的な車種が出れば、車検のタイミングとは関係なく買い替えるようになった。で、前述した意味もだんだんなくなり、モデルチェンジのサイクルは延びていきました。
たくさんのバリエーションを展開するには社内的なマンパワーも足りなくなり、4年ごとにというわけにはいかなくなります。「6年とか7年とか、一新するインターバルを広げていくなら車種を増やすことができる」という社内的な議論もあって、マンパワーとモデルチェンジのサイクルをてんびんにかけ、このくらい(6年ほど)でバランスしているのが今ですね。現実的には、もうちょっと延ばしてもいいと思います。マイナーチェンジ(=定期的な仕様変更)は法規制の変化に合わせて行う必要がありますが。
「モデルチェンジしました!」というのが商業的に大きな訴求要因となって、それでお客さんがディーラーに来てくれるというのも、たしかにかつてはありましたが、そういう効果は特別仕様車で十分期待できる状況になって、営業サイドからも「ボディーカラーを特別色にしたり、オプションを付けてお値打ちにしたりという訴求でもいい」という反応が得られるようになった。必ずしもモデルチェンジをしなくても、販売は維持できると。
そのような次第で、モデルチェンジの期間は延長傾向にあります。どうしても6年で、ということもない。今後、欧州車のように、さらに長いインターバルになっていく可能性だって十分あると思います。どのメーカーも、EVだの自動運転だのと対応しなければならないことが多いため開発にかかわるマンパワーは枯渇傾向にありますので、代替えのスパンは延びることはあっても短くなることはないでしょう。
クルマを開発する側からいうと、やはり、可能であればモデルライフは長くして熟成させたいという気持ちはありますね。そのほうがいいクルマができるという思いは、たしかにある。
繰り返しになりますが、ひと昔前は、たしかにフルモデルチェンジすることで劇的にクルマの質は向上したのです。だから、変える意味があった。しかし、今は、フルモデルチェンジといってもプラットフォーム(車台)から完全に改めるということはなかなかゆるされませんし、プラットフォームは車両とは別の開発陣が大・中・小とサイズを分けて取り組んでいる。その車台が変わらなければ、クルマの性能も正直それほど変わらない。見栄えだけちょこちょこ変えるなら、まぁ別にやらずとも……という気持ちですね。
実際、「〇年たったからって、なにもモデルチェンジしなくてもいいじゃないか」「無理やり変えろって言われても、どこを変えたらいいんだ!?」と思った車種は、これまでたくさんありました。そういうことがばかばかしいからこそ、さまざまな特別仕様車が編み出された。それで集客のめどがたつようになった今は、いいバランスに落ち着いている、といえるのではないでしょうか。
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多田 哲哉
1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。