ATのシフトポジションはなぜ“P-R-N-D”の並びなのか?
2025.10.28 あの多田哲哉のクルマQ&A近年のAT車ではスイッチ式のシフトセレクターが増えてはいるものの、シフトレバータイプのセレクターの多くは、ポジションの配列が“P-R-N-D”になっています。そこにはどんな必然性があるのでしょうか?
これは実は、JIS(日本産業規格)で決まっています。そういう配列にしなさいと明記されているわけではないのですが、例えば「前進と後退はニュートラルポジションをはさんで分ける」とか、「パーキングのポジションは端っこにする」といった規定はあって、それらを織り込むと、必然的にP-R-N-Dの並びに落ち着くわけです。
その昔、例えば「フォルクスワーゲン・ゴルフI」にATが搭載されたころの時代は、そういう配置にしたほうが機械的につくりやすかったとも聞きます。でも今のATは電気的な信号を使って操作しますので、そうしたレイアウトは、どのように変えたところで技術的には問題ありません。ボタンやスイッチにしようが、ステアリングホイール付近にレイアウトしようが、自由です。
そうなるまでには「高級車はゲート式に限る」みたいな時代もあって、シフトの誤操作防止やトランスミッションの保護のためにも、シフトレバーの通り道をあえてギザギザした溝にしていた例もありましたね。
しかし、そうしたリスクも、いまや電気的な進化のおかげでなくなりました。それでも同様のポジションが採用され続けるのは、単にその並びに慣れてしまっただけでしょう。振り返れば、「プリウス」で新しいシフトパターンを導入した際、未来的だし操作やすいという声が寄せられた一方で、(従来とは異なる操作方法のシフターが)高齢者による暴走事故のひとつの原因になっている! なんていわれたこともありました。実際問題、いったん定着したものを変えていくのは大変だ、という面はあります。
とはいえ、今後、シフトの並びと位置は時代に合わせて変わっていくでしょう。やはり、操作性を優先した結果、ステアリングホイールの近くに集約されていくことになるはずです。

多田 哲哉
1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。
