トヨタがハースと提携し再びF1の舞台に! その目的と背景にあるものは?
2024.10.17 デイリーコラムトヨタがF1に復帰! ではない
TOYOTA GAZOO Racing(以下、TGR)とMoneyGram Haas F1 Team(以下、ハース)が2024年10月11日、富士スピードウェイ内に新設された富士モータースポーツフォレスト ウェルカムセンターにおいて、提携合意の発表を行った。
提携の内容は既報のとおり、FIA フォーミュラ1世界選手権(以下、F1)において車両開発や日本の若手ドライバー・エンジニア・メカニックの育成などの領域に関するもので、チームに携わるスタッフが経験を積み、成長する環境を整え、自動車産業の発展に貢献することを目指すというもの。正式発表前に会場で顔を合わせたなじみの報道関係者数人とは、「トヨタがF1に電撃復帰か?」「水素エンジン車での競技車両についての発表では?」「市販電気自動車に逆風が吹いている今だからこその逆張りで、満を持してフォーミュラEに参戦か?」など、勝手な妄想を繰り広げた。
TGRとハースの提携をより具体的に紹介すれば、モータースポーツ界の次代を担うTGRの育成ドライバーやエンジニア、メカニック、つまりトヨタの人材がハースF1チームに加わり、テスト走行や開発へ参加するという内容となる。発表会場に展示されたハースのF1マシンを前にGAZOO Racing Companyの高橋智也プレジデントは「このマシンに、TOYOTA GAZOO Racingのロゴが貼られています。“トヨタがF1に復帰!”と思われた方がいらっしゃるかもしれませんが、そうではありません」とトヨタのF1復帰を明確に否定した。
高橋プレジデントは「People」「Pipeline」、そして「Product」の3つの要素が、レーシングマシンとその延長線上にある市販車両の開発には重要だと説明。トヨタの「ものづくりの力」を生かしてF1マシンの空力開発に携わることを意味するのがPeopleというキーワードで、極限の使用環境下を想定したシミュレーションを行い、F1クオリティーのカーボン部品の設計・製造を行える技術とその技術を持った人材の育成がPeopleの意味するところであるという。
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TGRの持つモノづくりの強みをF1で発揮
Pipelineは、レース中の走行データなどの膨大な情報を多拠点で共有し、即座に解析、レース戦略へとタイムリーに活用するノウハウやインフラのことを指す。データの活用術をF1の実戦から学び、それと同時に吸い上げたデータを有効活用できるノウハウを持った人材を育成することが目標となる。こうしたF1の現場で培った知見を市販車の開発や製造にフィードバックできる人材が育てば、その先にあるProductにつながり、トヨタのクルマがより魅力的で競争力のあるものになると説明される。
さらに高橋プレジデントは「F1でのドライバー、エンジニア、メカニックの活躍は、子どもたちにとって、夢、憧れ、目標となります。将来の自動車産業を担う子どもたちに、そのような希望をTGRが示すことは非常に重要なことだと考えています」とも語った。TGRが人材育成をF1という世界最高峰レースの現場で推進し、強みを学び、市販車の開発に生かすと同時に、その様子を見た子どもたちが憧れる世界をつくることが目標だ。
会見の場に立ったハースの小松礼雄代表は、「(ハースは)一番若いチームで、規模としても一番小さい。今回の話は、今年の2月ごろにありました」と切り出した。「6月のカナダGP前に東京で初めて豊田会長にお会いし、そのときは、これが初対面だとは思えないほど話が弾みました。(私と豊田会長は)思いが本当に一緒なんです。すごく情熱があり、これからどうしていきたいか、日本の若い人たち、モータースポーツ界にどうやって夢と未来を提供していくのかについて語り合いました。TGRができるモノづくりは、現在のうちにはないものです。すぐに“(一緒に)やりましょう”となりました」と述べた。
また、ハースの小林代表は、「最先端技術のかたまりであるF1を戦うわれわれに最新のノウハウはありますが、スタッフの数が足りない。設備も少ない。最も重要なのは人です。モノをつくるのはもちろん、シミュレーションソフトウエアをつくるのも人ですし、使うのも人です」と言う。そこにTGRの持つモノづくりの強みが加わればチーム力が大きくアップするとの考えを明らかにした。
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小松代表の豊田会長に対する印象は?
レーシングドライバーたちと話していると「やっぱり、みんな“世界一速いクルマに乗りたい”と思っていると感じます」と語ったのは、モリゾウことトヨタ自動車の豊田章男会長だ。「ですが、私は“F1をやめた人”。多くのドライバーは、私の前でF1に乗りたいという気持ちを素直に話すことはできなかったと思います。そうした“わだかまり”みたいなものが、ずっとありました。今年の1月に(社長を後進に譲り)やっと“普通のクルマ好きのおじさん”に戻れて、“普通のクルマ好きのおじさん”の豊田章男は(トヨタの)F1撤退で、日本の若者が一番速いクルマに乗る道筋を閉ざしてしまっていたことを、心のどこかでずっと悔やんでいたのだと思います。ただ、あえて付け足しますが、トヨタの社長としては、F1撤退の決断は間違っていなかったと、今でも思っております」と心情を吐露。
「しかしF1の会場に行ったとき、(トヨタでF1をやめた人間なのに)ウエルカムな雰囲気で迎えられ、余計に世界への道や若い人たちが夢を追え、勉強ができる場所がどこかにないかとも思っていました」と今回の提携につながる気持ちを語った。
豊田会長はさらに、「ドライバーだけの道筋をつくればいいわけじゃない。クルマをつくるエンジニア、レース活動を支えるメカニック、そのほかに多くのスタッフがいて、モータースポーツは成り立っています。ハースは、非常にコンパクトなチーム。コンパクトなチームなのに、大恐竜(大きな規模のチーム)と戦っています。そういうチームだからこそ、学べることはあるのではないかと思い、今回その第一歩を踏み出しました」とコメントした。
会見の途中で豊田会長が小松代表に向かって「実際(会ってみるまで)、僕はどんなイメージでした? 官僚的で嫌なヤツ?」と質問する場面も。小林代表からは「トヨタは僕のなかですごく堅苦しい、大きな会社だと思っていました。(モータースポーツの)文化をつくっていかなきゃいけないのに、日本のメーカーは行ったり来たりしていて、そういうことは本当にやめてほしいという話もしたんですけど(笑)、それを初対面で話せてしまう方でした」とのエピソードも飛び出した。
日本人チーム代表が率いるハースを通じてトヨタが再びF1の舞台に上がる。それは実に興味深く、夢が広がるハナシではないか。
(文=櫻井健一/写真=トヨタ自動車、webCG/編集=櫻井健一)
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櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
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