スバル・クロストレック プレミアムS:HEV EX(4WD/CVT)
独自戦略で挑む 2025.02.04 試乗記 2.5リッターの水平対向4気筒エンジンにハイブリッドシステムを組み合わせた「e-BOXER(ストロングハイブリッド)」と機械式4WDを採用する「スバル・クロストレックS:HEV EX」に試乗。雪壁がそそり立つ、青森・酸ヶ湯に至る冬道での印象を報告する。トヨタが開発した「THS」を応用
待ってました! と話題沸騰(?)のストロングハイブリッドシステムを搭載したスバル車第1弾=クロストレックe-BOXERが発売され、公道をドライブできるときがやってきた。
いやいや、e-BOXERを採用したクロストレックって前からあったでしょ!? とツッコミも入りそうだが、スバルが発表するリリースはもちろんのこと、オフィシャルウェブサイトにも確かにこのe-BOXERという表記が用いられている。
一方で、今後も併売されるというトランスアクスル後端に小型モーターを組み込んだマイルドハイブリッドシステム採用車も、e-BOXERという名称である。それゆえスバル自身が混同を避ける意味もあってか、今度のモデルではe-BOXERという表記の後にわざわざ(ストロングハイブリッド)という文字を加えるか、(S:HEV)という略号が用いられている。つまりクロストレックには、異なる2種のe-BOXERが存在することになったのだ。
さらに、冒頭で「ストロングハイブリッドの第1弾」と記したことについても注釈が必要。というのも、米国市場に向けては現地のZEV規制に対応すべく、最大27kmという距離のEV走行を可能としたプラグインハイブリッドモデルがすでに2018年に発売されているため。
周知のとおり、この両者に採用されたストロングハイブリッドシステムは、提携先であるトヨタが開発した「THS」のメカニズムを応用したものである。スバルがプレスリリース上でストロングハイブリッドシステムを「クロストレック(日本市場向け)に初採用」と表記していたのにはこうした理由もあった。
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2.5リッター化も燃費面の不利はほとんどない
とはいえ横置きエンジンとの組み合わせを前提としたTHSがベースとなるだけに、水平対向エンジンをコアとした縦置きパワーユニットを特徴とするスバル車用のハイブリッドトランスアクスルは必然的に専用のアイテムとなる。それは、かつて産業機器向けの内燃機関「ロビンエンジン」を製造していた埼玉県の北本工場に新設された設備で生産が行われるという。
発電用と駆動用のモーター、さらに、そこにエンジンの動力を分配するプラネタリーギアを用いた動力分割機構を用いるという基本構成は、THSの場合と同様。ただし、スバルのこだわりの最たる部分と思えるのがトランスアクスル後端に電磁式の電子制御カップリングを用いたAWD機構を内蔵することである。トヨタがTHS搭載の4WDモデルで「E-Four」と称する後輪の駆動力をモーターで発生させる電気式メカを用いるのに対して、スバルのそれはプロペラシャフトによって後輪に駆動力を伝える機械式となる。
これまで機械式を採用しながら今後は電気式に移行すると宗旨替えを表明したホンダのようなメーカーもあるなか、スバルもこの先電気式を採用する可能性を否定はしない一方で、現状では「路面状況に合わせて後輪へ駆動力を瞬時に伝え、あらゆる路面でスバルらしい優れた走行安定性を発揮する」と機械式の強みをアピールする。
同時にもう一点、ハードウエア上の大きな特徴となっているのが、既存の2リッターエンジンではなく新開発した2.5リッター直噴ユニットを組み合わせること。
水平対向ゆえに搭載上の制約もあってやみくもにストロークを延長するわけにはいかず、既存の2リッターユニットと同じ90mmというストロークのままボアを10mm拡大することで1995ccから2498ccへと排気量が大きくなった新エンジンは、吸気バルブ遅閉じによるミラーサイクルを用いる高効率設計。排気量拡大によって常用時のエンジン回転数を下げられることから燃費面の不利はほとんどなく、重量増も問題にならないほど小さいとはエンジニア氏の弁。ただし日本では、排気量にリンクして変わる自動車税額のアップだけはちょっぴり惜しい部分ではある。
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ワンタンクでの航続距離は1190km超え
テストドライブを行ったのは、2グレードが用意されるうちの上級グレード、プレミアムS:HEV EX。フル液晶メーターや渋滞時のハンズオフアシスト/カーブ前速度制御などからなるより高度な運転支援システム「アイサイトX」を採用するのは既存モデルも含めてクロストレックのなかではこのモデルのみ。ただし、内外装ともに2グレード間での見た目の差は少なく、既存のマイルドハイブリッド仕様と比べてもホイールのデザインや一部加飾のカラーが異なってルーフトリムがブラックとなる程度だ。
ストロングハイブリッドならではの装備としてはラゲッジスペース内にレイアウトされる最大1500Wまで使用が可能なAC100Vコンセントが挙げられるが、こちらはメーカーオプション。ラゲッジスペース容量はVDA計測法による後席使用時が既存モデルの315リッターに対して279リッターとなるものの、実際にはわずかにフロア高が増しただけでその違いは目立たない。ただ、フロアボードを上げた際に現れるサブ収納スペースは、容量1.1kWhというリチウムイオンバッテリーの搭載により14リッターから1リッターへと減ってしまっている。
こうして、荷室容量以外には大きなハンディキャップのないパッケージングを実現できたのに加えて、既存モデル比で15リッター増しとなる63リッターの燃料タンクを新採用するのも見逃せないポイント。これらは、水平対向エンジンの低全高という特徴に加え、吸気系や補器類のデザインを工夫することでインバーターやDC-DCコンバーターなどからなるPCU(パワーコントロールユニット)をエンジン上に配置したことが貢献している。
ちなみにWLTCモードによる18.9km/リッターというカタログ燃費から単純計算するとワンタンクでの航続距離は1190kmを超え、同様の計算で760km弱にとどまるマイルドハイブリッド仕様のデータをはるかにしのぐ。ユーザーとしては、給油の頻度が減ったことにストロングハイブリッド化のメリットを強く実感することになりそうだ。
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AWDを磨いて差異化戦略を貫く
日常的な緩加速シーンではまずエンジンパワーに頼らずバッテリーからの持ち出し電力によるEV走行で静かにスタート。その後、いつしかエンジンが始動して速度を増していく……という作法はTHSの文法どおり。従来以上の制振材・遮音材の多用で「シリーズのトップグレードにふさわしい静粛性」がうたわれるものの、エンジン始動後はそのノイズがそれなりに耳に届くので、静けさは従来型と同等というのが率直な印象だ。
今回のテストドライブでフルアクセルを試せるようなシーンはなかったが、加速の能力に関して不満を抱くようなシーンは皆無。ただし、THS特有のラバーバンド感とは決別できておらず、アクセル操作と加速感のリンク度という点ではむしろこれまでのマイルドハイブリッド型e-BOXERが勝ると思えることも。THSに頼らない開発が許されたとしたら、こうしたフィーリングでスバルの開発陣が満足できたのかとちょっと本音も聞いてみたくなる。
THSベースの構造ゆえ、このモデルでも後退時の出力は駆動用モーターのみで発生させ、エンジンパワーは加担しない仕組みだ。おあつらえ向きにカメラマン氏のリクエストで急な雪山をバックで上るという場面にも遭遇したが、「X-MODE」に頼るまでもなくそこでの登坂能力は十分な余裕が感じられるものだった。エンジン単体が4000~4400rpmの範囲で209N・mという最大トルクを発生するのに対し、駆動用モーターのそれは走りだしの瞬間から270N・mという大きさ。もちろん、このあたりはスバル車にふさわしい踏破性を考えての設定でもあるのだろう。
実は今回のテストドライブは、ほぼ海抜ゼロの青森市街を起点に標高約900mという豪雪地帯として知られる酸ヶ湯に到着するまでの約40km区間で行った。酸ヶ湯周辺には当然かなりの積雪があったものの、青森市内は折からの暖かさで、走行した幹線道路は完全にドライという状態だった。
全区間が上り坂基調のため燃費計上のデータは参考にするのも困難だったが、カタログ値を見る限り本家のTHSを搭載する「RAV4」などと比べ、燃費では優位には立てない状況である。
とはいえ「会社の規模が小さいわれわれは、効率だけでなく水平対向エンジンとシンメトリカルAWDを磨いて差異化戦略をとっていく」と、最高技術責任者(CTO)である藤貫哲郎氏も明確にしている。このモデルを端緒として、待ち続けられていたスバルハイブリッドの本格戦略がようやくスタートしたのである。
(文=河村康彦/写真=佐藤靖彦/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
スバル・クロストレック プレミアムS:HEV EX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4480×1800×1575mm
ホイールベース:2670mm
車重:1660kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.5リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:160PS(118kW)/5600rpm
エンジン最大トルク:209N・m(21.3kgf・m)/4000-4400rpm
モーター最高出力:119.6PS(88kW)
モーター最大トルク:270N・m(27.5kgf・m)
タイヤ:(前)225/55R18 98Q M+S/(後)225/55R18 98Q M+S(ヨコハマ・アイスガードiG70)
燃費:18.9km/リッター
価格:405万3500円/テスト車=424万0500円
オプション装備:ボディーカラー<クリスタルホワイト・パール>(3万3000円)/本革シート<グレー>+アクセサリーコンセント<AC100V/1500W>(15万4000円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:8235km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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