日産とホンダの経営統合破談と日産が決算会見で発表した新型車導入計画を分析する
2025.02.20 デイリーコラムまさに世紀のドタバタ劇
日産自動車と本田技研工業は去る2025年2月13日、「2024年12月23日に締結していた両社の経営統合に向けた検討に関する基本合意書を解約し、経営統合に関する協議・検討を終了」することを発表した(参照)。これで昨年末から年またぎで日本中を大騒ぎさせた日産とホンダの経営統合バナシは、わずか1カ月半強で正式に破談となった。まさにドタバタ劇だ。
思い返せば、年末の共同発表会見のときから、日産とホンダの株式時価総額にはかなりの差があるにもかかわらず、小さいほうである日産・内田 誠社長が「どちらが上、どちらが下ではない」と強調した。かと思えば、大きいほうのホンダ・三部敏宏社長は「ホンダと日産が自立した会社として成り立たなければ、経営統合は成就しない」とか「今回はまだ検討を開始する段階であり、経営統合を決定したわけではありません」と、周囲を先走りさせないようにする慎重な態度をくずさなかった。
共同会見での両社長のこうした態度も、今から考えるとなんとも意味深にみえるが、いずれにしても、実現していたら日本の自動車史に残る出来事となったであろう経営統合劇は、あっという間になかったことになった。その理由は各メディアが独自の見解で分析しているが、あらかたは、以下のような流れとみる向きが多い。
日産の再建策を「なんとも遅く、物足りない」とみたホンダが、このままの対等合併ではらちが明かないと、日産にホンダの傘下に入る子会社化を持ちかけた。ところが、あくまで対等な経営統合を考えていた日産としては、さすがにそれは飲めないと、物別れに終わった……。
経済メディアの多くがそう報じているのだから、なるほど、おおまかな流れはそのとおりなのだろう。しかし、ちまたでいわれているように「あまりに経営陣がダメダメの日産に、ホンダが三くだり半を突き付けた」という単純な構図かどうかはわからない。
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日産は新たなパートナーシップを模索
まず、今回の統合バナシはあまりに唐突にはじまり、あまりに短期間で終わった感がなくはない。ホンダも、日産が示したリストラ策が物足りないのなら、まずは突き返して再精査してもらう猶予があってもよかったのではないか。また、なんだかんだいって日産も歴史ある老舗である。それをなんの根回しもなく、いきなり「子会社になれ!」では、さすがの内田社長も社内をまとめきれないのは、容易に想像がつく。筆者は経営については素人だが、“大人同士のお付き合い”としては、ホンダの態度に違和感がなくはない。
もしかして、今回の経営統合バナシは、ホンダの意思とは別のところ(たとえば、経産省とか?)からはじまり、三部社長は最初から破談をねらっていたのかもしれない。あるいは、統合にまつわるホンダ社内の反発が強すぎて、三部社長も強気に出るしかなかったのか。いずれにしても、真相は当事者にしかわからないが、そんなことを思ってしまった。
冒頭の「経営統合に関する協議・検討の終了」が発表された2025年2月13日は、日産の2024年度第3四半期決算発表の日でもあった。そこでは、日産の同期の営業利益は昨年11月の上半期決算よりさらに悪化して、2024年度の最終損益は約800億円の赤字になる見込みであることが示された。また、内田社長はこの難局を単独で乗り切ることのむずかしさを素直に認めて、「新たなパートナーシップの機会を模索する」とも表明した。
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雨降って地固まるか?
そのうえで、今回の決算発表では、今後の具体的な商品計画も示された。それによると、来るべき2025年度には、プラットフォームから新しい中国戦略車となるセダンの「N7」を発売、「ローグ(日本名エクストレイル)PHEV」の北米投入に加えて、次期「リーフ」に新型コンパクトBEV、新型軽自動車の発売計画も明かされた。
まあ、ローグPHEVは「ただの『三菱アウトランダー』のOEMでは?」という説がもっぱらだが、なにもしないよりはマシであり、なにはなくとも(その不振が日産の経営を大きく損なっている)北米と中国という2大市場へのテコ入れに加えて、軽自動車など日本市場にとっても明るい話題が含まれているのが目をひく。
さらに2026年度になると、今の北米市場には不可欠といわれるフルハイブリッドSUVの「ローグe-POWER」がいよいよ投入される。聞くところでは、そのパワートレインは、今のe-POWERが苦手とする高速燃費も大幅に向上させた第3世代なんだとか。加えて、次期「エルグランド」と目される新しい大型ミニバンも、2026年度に準備されているようだ。
日産にあえて味方すれば、今回示された再建策と新商品計画は「遅い、生ぬるい」といわれつつも、その方向性自体は間違っているようにはみえない。どこかからの資本を受け入れるなりして、今の難局さえ乗り越えれば、日産が息を吹き返すポテンシャルは十分にある。
……と、そんなことを書いている真っただ中、英フィナンシャルタイムズが「日産の内田社長が退任すれば、ホンダは交渉再開の意向」と報じた。その真偽は明らかではないが、それ以前から進められていた次世代ソフトウエアデファインドビークル(いわゆるSDV)や電動パワートレイン、バッテリーなど、日産とホンダの協業の検討は今後も続けられるという。今回のドタバタを経たことで、逆にこれまでにない新しい協業のカタチが生まれることも期待してみたい。
(文=佐野弘宗/写真=日産自動車、本田技研工業/編集=櫻井健一)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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