ヒョンデ・インスター ラウンジ(FWD)
こう見えて実用的 2025.06.10 試乗記 韓国ヒョンデの新型電気自動車(BEV)「インスター」が日本に上陸。日本の軽自動車にほど近いボディーサイズでありながら、その内部には日本の軽自動車がはだしで逃げ出すほどの豪華装備が詰め込まれているのだ。ロングドライブで使い勝手を検証した。何よりもラブリー
ヒョンデ・インスターは見た目がラブリーである。第1にサイズが小さい。全長×全幅×全高=3830×1610×1615mm、ホイールベース=2580mmと、トヨタの最小SUVの「ライズ」より165mm短くて85mmも幅が狭く、5mm低い。小さきものは、いとうつくし。と清少納言もいっている。
全幅が異様に狭いのは、「キャスパー」という韓国の軽自動車をベースにしているからだ。キョンチャと呼ばれる韓国版の軽は、排気量1000cc以下、全長×全幅×全高=3600×1600×2000mm以下と、ニッポンの軽よりひとまわり大きい。とはいえ、世界で販売するには小さすぎる。ということで、BEV化にあたってホイールベースを180mm、全長は230mm延ばしている。SUVのスタイルではあるものの、純然たる前輪駆動で最低地上高も145mmとフツウ。日本の軽同様、背が高いのが特徴で、定員は4人ながら、後席居住空間も十分な広さを確保している。
ラブリーな印象を受ける第2の理由は、フロント下部のふたつのLEDヘッドライトのサイズと位置にある。大きな目が顔の下のほうに付いている。というのはヒトを含む動物の赤ちゃんの特徴で、「赤ちゃん=カワイイ」と感じる本能を私たちは備えている。ハローキティとかミッフィーとかがキュート、と感じるのと同じ理由なわけである。
おまけに私たちニッポンの庶民にとって、2ボックスのプロポーションは軽自動車でなじみがある。知らないひとより、知っているひとに親近感を覚えるのは当然である。韓流スターたちの世界的活躍によって、ヒョンデのポジションは日本でも確実に変わりつつあるように思う。
さくらの幸せを祈ってるけど……
内装もイッポヨである。デザインも質感も日本の軽よりよさげで、ちょっと悔しいような思いを抱く。液晶メーターのデザインもシャレてるし、インストゥルメントパネル周辺も機能的で使いやすい。右ハンドルは当然としても、ウインカーレバーを左から右に移し、ETCの車載器を収める場所をちゃんと用意するなど、日本向けの改良が施してあることに感心する。
グレードは「カジュアル」「ヴォヤージュ」「ラウンジ」の3つが設定されている。カジュアルのみ、モーターの最高出力が97PS、駆動用バッテリーの容量が42kWhで、ヴォヤージュとラウンジはそれぞれ115PSと49kWhというリッパな値を誇る。試乗車は最上級のラウンジである。
瞠目(どうもく)すべきは一充電走行距離だ。15インチのヴォヤージュも17インチのラウンジも、WLTCモードで458kmを主張している。これがどれだけ衝撃的な数字かというと、例えば「日産リーフ」は150PSの40kWh仕様で322km、上級版の218PS、60kWh仕様で450kmである。価格面でも期待を裏切らず、今回の試乗車のラウンジで357万5000円。入門用のカジュアルは284万9000円と、300万円を切っている。日産リーフより100万円以上も少ない予算で手に入る。
ちなみに「日産サクラ」の一充電走行距離は180km(WLTCモード)、最高出力は64PSで、電池容量は20kWh。価格はおよそ260万円から。さくら、あんちゃん、おまえの幸せを祈ってるよ。という寅さんのセリフが浮かんでくる。それをいっちゃあ、おしまいだよ。
小さいのに乗り心地がいい!
インスターは、運転してもラブリーだった。BEVなので、静かで、乗り心地がよいのだ。その根本のところには、韓国のキョンチャが日本の軽より、ひとまわり大きいことがあるように思う。ご存じのように、日本はエンジンの排気量が660cc以下で、全長×全幅×全高=3400×1480×2000mm以下で、韓国より200mm短くて120mm幅が狭い。排気量も340cc小さい。キョンチャのほうが余裕がある。1リッターのパワーとトルクに耐えられるボディーが与えられている。120mm幅広いのに、居住空間は日本の軽とそう変わらない印象で、それはおそらく、ドアやピラーに厚みがあるからではあるまいか。
サスペンションは前:ストラット、後ろ:トーションビームという小型FWD車によくある構成ながら、乗り心地には1リッターのガソリン小型車以上の落ち着きがある。足まわりのセッティングは日本専用だそうで、ちょっとソフト方向に振っているという。といって、フワフワではない。重たい電池を搭載するBEVは車重が当然重い。インスター ラウンジは1400kgある。これは「フォルクスワーゲン・ゴルフ」のガソリンモデルよりちょっと重い。この重さが乗り心地面でよい方向に働いている、と解せられる。
前述したように試乗車のラウンジは17インチ仕様で、205/45という偏平サイズのクムホを標準装着している。この韓国製のタイヤもいい働きをしている。サイズから想像されるようなゴツゴツしたところがまるでない。185/60ぐらいの感じで、首都高速の目地段差なんかを乗り越えていく。ロードノイズも静かで上質感がある。
モーターの最高出力は115PS、最大トルクは147N・mと、ガソリンエンジンでいうと1.5リッター並みの数値にすぎない。ところが、電気モーターはいきなり最大トルクを発生する特性だからだろう、発進加速も中間加速も十分速く感じる。走行モードを「スポーツ」に切り替えると、痛快に速い。それでいて、前から引っ張られているFWD感があまりないのはトルクの出し方がうまいから、にちがいない。
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同じ値段で2倍走れる
ブレーキは制動力の立ち上がりが遅いように感じた。ブレーキのペダルより、ステアリングホイールに設けられた回生ブレーキの強弱を切り替えるパドルに頼ったほうがよい。街なかではワンペダルでドライブするほうが楽チンだし、EVドライブらしくて賢明に思える。ま、なんにせよ、ブレーキは早めがよい。
ステアリングフィールは好みが分かれるかもしれない。高速走行時の操舵感が個人的にちょっと重すぎるような……。まだヒュンダイと呼ばれていた2000年代の「サンタフェ」なんかと同じだ、と思った。もっとも、街なかではごく軽く、高速では直進安定性を確保すべく重くなるのは速度感応式の電動アシストではフツウのことだし、シティーカー、もしくは実用車としてはこれで正しいのだろう。でなければ、ヒョンデがこれほど短期間に年産700万台超の、世界3位の大メーカーに成長できるはずもない。
韓流ドラマを見ていると、財閥が支配するモーレツな競争社会のなか、主人公の若者たちはモーレツに勉強し、不眠不休で働いて、幼なじみとゲーセンでデートし、マッコリと焼酎をしこたま飲んで記憶をなくし、翌朝、「チンチャ・チンチャ・オットケヨ?」と反省しつつ、「ケンチャナヨ、ケンチャンスミダ」と励ましあい、その繰り返しでもって、「サランヘヨ」と恋を成就させてゆく。
チャッカンマン。ヒョンデ・インスターとなんの関係があるヨ? コリアン・ドリーム・イムニダ。日本の軽BEV並みの価格で、一充電走行距離はその約2倍。実用性のかなり高い小型BEVが初めて登場した。といってよいのではあるまいか。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=ヒョンデ モビリティー ジャパン)
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テスト車のデータ
ヒョンデ・インスター ラウンジ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3830×1610×1615mm
ホイールベース:2580mm
車重:1400kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:115PS(85kW)/5600-1万3000rpm
最大トルク:147N・m(15.0kgf・m)/0-5400rpm
タイヤ:(前)205/45R17 88V/(後)205/45R17 88V(クムホ・エクスタHS52 EV)
一充電走行距離:458km(WLTCモード)
交流電力量消費率:119Wh/km
価格:357万5000円/テスト車=357万5000円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:416km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:412.7km
参考電力消費率:6.8km/kWh(車載電費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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