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「カローラ」につづき新型「RAV4」もハイブリッドに一本化 加速するトヨタの電動化戦略の背景と進度を探る

2025.07.10 デイリーコラム 佐野 弘宗
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「カローラ」をHEVに一本化し値下げも実施

2025年5月21日の新型「RAV4」のワールドプレミア(参照)に持ち込まれたバリエーションは、ハイブリッド車(HEV)およびプラグインハイブリッド車(PHEV)のみで、純ガソリン車の姿はなし。その事実をメディアはこぞって「完全電動化!」と取り上げた。

また、それと前後して、2025年5月9日に「カローラ」(セダン)と「カローラ ツーリング」「カローラ スポーツ」の3モデル(参照)が、同月23日には「カローラ クロス」(参照)が、それぞれ一部改良を機に純ガソリンエンジン車を廃止。と同時に、継続販売されてきた先代カローラ(=「アクシオ」と「フィールダー」)の今秋をもっての生産終了も発表。これで「GRカローラ」以外のカローラはすべてHEVとなり、結果としてカローラシリーズのスタート価格がグッと上がってしまう……と、一部で批判と不安の声が聞かれた。さらに、このカローラの件と新型RAV4を合わせて「トヨタはついに純エンジン車から手を引く?」と、ちょっとした騒ぎとなったわけだ。

ここでまず確認しておくが、RAV4とカローラの完全電動化は、今のところはあくまで日本市場にかぎった話である。なにせカローラは150以上、RAV4は180もの国と地域で販売される超グローバル商品である。クルマの電動化が世界的に進みつつあるといっても、さすがに現時点で純エンジン車をなくすことはできない。カローラは今も海外に純エンジン車が残されているし、新型RAV4にしても「仕向け地によって純エンジン車を設定する」と開発担当者も認めている。

ただ、新型RAV4のワールドプレミアの地となった日本では、冒頭のとおり、HEVとPHEVのみでのスタートが確定しているとか。従来型の2リッター直4ガソリン車は、RAV4の国内販売全体の4~5割を占めてきたから、それを廃止するのはかなりの英断だったはずだ。

カローラについては「お客さまに受け入れていただけるクルマであることを前提にし、カーボンニュートラル社会の実現に向け、HEV一本化を決定しました」とトヨタ広報が語るとおり、新しいセダンとツーリングの最廉価グレード「X」を値下げすることで、今回のカローラショック(?)をソフトランディングさせる手当ても講じている。新しいセダンXとツーリングXの車両本体価格を、ともに従来の「ハイブリッドX」の約14万円安となる227万9200円(セダン)、235万円9500円(ツーリング)としたのだ。その新価格は、近く生産終了予定のアクシオとフィールダーのHEVと数百円~数万円の差しかないのだから驚く。

トヨタは2025年5月9日、「カローラ」シリーズに一部改良を実施。カーボンニュートラルの実現に向けて純ガソリンエンジン車を廃止し、ラインナップをハイブリッドに一本化した。写真は「カローラ ツーリング」。
トヨタは2025年5月9日、「カローラ」シリーズに一部改良を実施。カーボンニュートラルの実現に向けて純ガソリンエンジン車を廃止し、ラインナップをハイブリッドに一本化した。写真は「カローラ ツーリング」。拡大
先代モデルの継続販売車両である「カローラ アクシオ」の生産が終了すると、12代目「カローラ」(写真)がトヨタのエントリーセダンの役割を担うことになる。
先代モデルの継続販売車両である「カローラ アクシオ」の生産が終了すると、12代目「カローラ」(写真)がトヨタのエントリーセダンの役割を担うことになる。拡大
2025年5月8日に行われた、2024年度の決算報告発表会見に登壇したトヨタ自動車代表取締役社長の佐藤恒治氏。「マルチパスウェイ」をかかげ、電気自動車に加えて燃料電池車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、水素エンジン車など多彩なパワートレインのラインナップで脱炭素=カーボンニュートラル社会を目指す。
2025年5月8日に行われた、2024年度の決算報告発表会見に登壇したトヨタ自動車代表取締役社長の佐藤恒治氏。「マルチパスウェイ」をかかげ、電気自動車に加えて燃料電池車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、水素エンジン車など多彩なパワートレインのラインナップで脱炭素=カーボンニュートラル社会を目指す。拡大
2025年5月21日に世界初公開されたトヨタの新型「RAV4」。1994年に登場した初代モデルから数えて今回の新型が6代目にあたる。発表時点でのラインナップはハイブリッド車とプラグインハイブリッド車のみで、国内仕様に純ガソリン車は設定されていない。
2025年5月21日に世界初公開されたトヨタの新型「RAV4」。1994年に登場した初代モデルから数えて今回の新型が6代目にあたる。発表時点でのラインナップはハイブリッド車とプラグインハイブリッド車のみで、国内仕様に純ガソリン車は設定されていない。拡大
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燃費の企業平均目標値は25.4km/リッター

こうした事実から読み取れるのは、マルチパスウェイを掲げるトヨタは(出遅れているとされる)新型電気自動車(BEV)を出しつつ、いっぽうで純ガソリン車の選択肢も残しながらも日本ではHEV押しの姿勢をいよいよ明確化していることだ。その背景には“2030年度燃費基準”があることは間違いない。

“企業平均で25.4km/リッター”という厳しい目標値で話題となった同基準の概要が明らかになったのは、2019年のことだ。当時は未来の話と高をくくっていたら、気づけば残り約5年である。国産車の平均モデルライフが6年前後と考えると、少なくとも今後出てくる新型車はすべて対応しているべき時期だ。

国土交通省は毎月、現在販売されている新車(BEVやPHEVを除く)の2030年度燃費基準達成状況をまとめた『自動車の燃費性能に関する公表』を公開・更新しているが、それを観察するとかなり興味深い……というか、かなり不安になる現状がみえてくる。

ちなみに、大きく取り上げられている25.4km/リッターという数字は、ご承知のように、2020年から日本にも導入された企業別平均燃費基準(いわゆるCAFE)の目標値である。個々のクルマには、それとは別の重量などで分類された目標値がある。

2030年度燃費基準は、その数値レベルが明らかになった当初から「電動化しないとクリアできない」とささやかれたが、現在の達成状況をみると、それは明らかだ。

たとえば、今の国産乗用車でもっとも燃費が良いといわれている「ヤリス」のハイブリッドは、すでに新燃費基準を10~33%も上回る燃費達成率となっているが、1.5リッター純ガソリン車となると、同じヤリスでも達成率はとたんに69~78%(つまり未達成)に下がる。これは他車も同様で、「シエンタ」や「ヤリス クロス」もハイブリッドはほぼ全車が新基準を達成しているが、純ガソリンエンジン車は全滅。カローラも今回の一部改良とアクシオ/フィールダーの生産終了で、遠からずHEVのみとなって全車が新燃費基準達成車になると思われる。

トヨタで感心するのは、「ノア」「ヴォクシー」、従来型RAV4に「ハリアー」「クラウン」「アルファード」「ヴェルファイア」といった大型モデルでも、HEVであればほぼほぼ新燃費基準を達成していることだ。従来型RAV4のハイブリッドも一部で未達だが、フルモデルチェンジでは当然のごとく全車達成の運びということになるのだろう。

こうして大量に売れる主力機種できっちり新燃費基準を達成しておけば、「GR」や「ランドクルーザー」などの(低燃費ならぬ)高燃費車を一定数販売しても、トヨタは2030年のCAFE基準もクリアできる……と思われる。

トヨタは2025年2月14日、「カローラ アクシオ」(写真)および「カローラ フィールダー」、「トヨタ教習車」(カローラ アクシオベース)について、2025年10月末をもって生産を終了すると発表した。現行型アクシオとフィールダーのデビューは2012年で、2018年に「カローラ スポーツ」を皮切りに12代目カローラが登場した後も生産が続けられている。
トヨタは2025年2月14日、「カローラ アクシオ」(写真)および「カローラ フィールダー」、「トヨタ教習車」(カローラ アクシオベース)について、2025年10月末をもって生産を終了すると発表した。現行型アクシオとフィールダーのデビューは2012年で、2018年に「カローラ スポーツ」を皮切りに12代目カローラが登場した後も生産が続けられている。拡大
「カローラ アクシオ」と同様に2025年10月末に生産が終了する「カローラ フィールダー」(写真)。これによってトヨタのラインナップから、貴重な5ナンバーのセダンとステーションワゴンが姿を消すことになる。
「カローラ アクシオ」と同様に2025年10月末に生産が終了する「カローラ フィールダー」(写真)。これによってトヨタのラインナップから、貴重な5ナンバーのセダンとステーションワゴンが姿を消すことになる。拡大
「乗用自動車のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等(平成25年経済産業省・国土交通省告示第2号)」が2020年4月1日に施行された。これによって乗用車の2030年度の燃費基準推定値は、25.4km/リッターとなった。2016年実績の19.2km/リッターと比べ、実に32.4%の改善ではあるが、その厳しい目標値は実現可能かどうかの議論も含め、大きな話題となった。
「乗用自動車のエネルギー消費性能の向上に関するエネルギー消費機器等製造事業者等の判断の基準等(平成25年経済産業省・国土交通省告示第2号)」が2020年4月1日に施行された。これによって乗用車の2030年度の燃費基準推定値は、25.4km/リッターとなった。2016年実績の19.2km/リッターと比べ、実に32.4%の改善ではあるが、その厳しい目標値は実現可能かどうかの議論も含め、大きな話題となった。拡大
2023年3月15日に発売された新型「プリウス」のプラグインハイブリッド車(PHEV)は、システム最高出力が従来型比で約2倍の223PSとなる新開発の「2.0Lプラグインハイブリッドシステム」を搭載。電気自動車とPHEVも新燃費基準の対象に加わるが、これらはいずれも燃費ではなく、電力量1kWhあたりの走行距離が“電費”として計算される。
2023年3月15日に発売された新型「プリウス」のプラグインハイブリッド車(PHEV)は、システム最高出力が従来型比で約2倍の223PSとなる新開発の「2.0Lプラグインハイブリッドシステム」を搭載。電気自動車とPHEVも新燃費基準の対象に加わるが、これらはいずれも燃費ではなく、電力量1kWhあたりの走行距離が“電費”として計算される。拡大

スバルには新燃費基準達成車は存在せず

トヨタの次に優秀なのがホンダで、少なくともいわゆる「e:HEV」の搭載車にはすでに新燃費基準を達成しているものが多い。具体的には「フリード」と「フィット」「ヴェゼル」「シビック」のe:HEV車と「オデッセイ」「アコード」である。「ZR-V」と「ステップワゴン」のe:HEV車はぎりぎり未達だが、達成率は90%を超える。ただし、4WD車でも達成しているのが、現時点でフリードだけなのは気がかりだ。

日産で新燃費基準を達成しているのは「ノート」と「ノート オーラ」の一部車種だけだが、「セレナ」や「エクストレイル」などの「e-POWER」搭載車は90%の達成率となっている。また、マツダの新燃費基準達成車は、「CX-60」の「XDハイブリッド」の一部だけだが、CX-60と「CX-80」の多くは達成率90%前後に集中。しかもPHEVもある。この2社もギリギリで希望が持てなくもない。

スズキには現時点で(トヨタ・ノアのOEMである「ランディ」のHEV以外に)新基準達成車はなく、実際に乗って燃費の良さに心から感心した「スイフト」のマイルドハイブリッドMT車ですら達成率は91%と、やはりマイルドハイブリッドは新燃費基準の決定打にはなりえないことがわかる。ただ、いまだに新基準達成車が存在しない軽自動車(以下、軽)にあって、大半が80%以上の達成率となっているスズキは、ダイハツやホンダ、日産よりは先行している。ただ、軽で新燃費基準を達成するには、やはりストロングハイブリッドが必須っぽい。

さらに厳しいのはスバルで、自社生産での基準達成車が今のところ存在せず、最新の「クロストレック」や「フォレスター」の「S:HEV」ですら達成度は85~87%にすぎず、それ以外は50~60%台である。この現状を今後数年でリカバーできるか……は不透明だ。

いずれにしても、2030年度燃費基準のリミットまで約5年となった現時点で、いまのラインナップを大きく変えなくても、基準達成がはっきりみえているのはトヨタ、そしてギリギリおまけして(軽を除く)ホンダくらい。新燃費基準達成へのロードマップについて、トヨタ広報は「“敵は炭素”という考えかたのもと、商品面でもCO2削減に資する電動化を進めております」と答えるのみだが、今回の新型RAV4とカローラの電動化は、トヨタにとって達成に向けての(価格戦略も含めた)ラストスパートという雰囲気すらただよう。

個々のクルマが燃費基準に達していない場合、環境性能割などの税額が引き上げられるのだろうが、問題はCAFEだ。欧州ではCAFE基準を達成できないメーカーには、場合によって数百億円単位の罰金が科せられる(現在は猶予中)が、日本では今のところ、未達メーカーへの厳しいペナルティーは明らかにされていない。これまで燃費基準では国内の全メーカーとも真面目に取り組んできたので、いわば性善説に基づいているらしい。

しかし、2030年のCAFE基準については、トヨタ(と、まあホンダ)以外のメーカーは、このままでは厳しいとしか思えないのは筆者だけか。いや、実際には、われわれ素人には気づかれないように、各社とも着々と対策が進んでいるんですよね、きっと。

(文=佐野弘宗/写真=トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車、スバル/編集=櫻井健一)

2024年6月に登場したホンダのコンパクトミニバン「フリード」。パワートレインは、ホンダ独自の2モーターハイブリッドシステム「e:HEV」と、純ガソリンエンジンの2種類をラインナップする。e:HEVは、最高出力106PSの1.5リッター直4エンジンに同123PSのモーターを組み合わせている。
2024年6月に登場したホンダのコンパクトミニバン「フリード」。パワートレインは、ホンダ独自の2モーターハイブリッドシステム「e:HEV」と、純ガソリンエンジンの2種類をラインナップする。e:HEVは、最高出力106PSの1.5リッター直4エンジンに同123PSのモーターを組み合わせている。拡大
2023年12月に登場した「日産ノート」のマイナーチェンジモデル。発電用の1.2リッター直3ガソリンエンジンと、駆動用の電気モーターを組み合わせたシリーズハイブリッド「e-POWER」を搭載する。現状では「ノート」と「ノート オーラ」の一部モデルで新燃費基準を達成している。
2023年12月に登場した「日産ノート」のマイナーチェンジモデル。発電用の1.2リッター直3ガソリンエンジンと、駆動用の電気モーターを組み合わせたシリーズハイブリッド「e-POWER」を搭載する。現状では「ノート」と「ノート オーラ」の一部モデルで新燃費基準を達成している。拡大
スバルが「ストロングハイブリッド」と呼ぶ電動パワートレイン「e-BOXER」を搭載する「クロストレックS:HEV」。ストロングハイブリッドシステムは、最高出力160PSの2.5リッター水平対向4気筒エンジンと、駆動用および発電用の2つのモーターとフロントデファレンシャルギアなどをひとつにまとめたトランスアクスルなどで構成されている。
スバルが「ストロングハイブリッド」と呼ぶ電動パワートレイン「e-BOXER」を搭載する「クロストレックS:HEV」。ストロングハイブリッドシステムは、最高出力160PSの2.5リッター水平対向4気筒エンジンと、駆動用および発電用の2つのモーターとフロントデファレンシャルギアなどをひとつにまとめたトランスアクスルなどで構成されている。拡大
2025年5月にトヨタが北米で発表した新型電気自動車(BEV)「bZ Woodland(ウッドランド)」。ボディーサイズは全長×全幅×全高=4830×1860×1620mm、ホイールベース=2850mmで、ベースとなるBEV「bZ4X」のホイールベースはそのままに、全長を拡大し広い荷室を実現した。トヨタはHEVだけでなく、BEVのラインナップ拡充も推進している。
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佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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