ミツオカM55ゼロエディション(FF/6MT)
時代がミツオカに追いついた 2025.07.16 試乗記 「ミツオカM55(エムダブルファイブ)」を目の前にすると気持ちが高ぶるのはなぜだろうか。それはミツオカのオリジナルデザインが、1970年代、すなわち世の中がエネルギーに満ちあふれていた高度成長期の空気を感じさせるからだ。初年度限定モデル「ゼロエディション」の仕上がりをリポートする。デザインモチーフはなんだ?
このクルマが初公開された2023年は、ミツオカにとって創業55周年にあたる年だった。ミツオカの“M”と“55”周年を組み合わせた車名のとおり、M55はその記念モデルとなる。
ミツオカによると、M55は「1968年創業のミツオカと同じく、55年の人生(発表当時)を歩んだ同世代の方々がメインターゲット」なんだとか。そんなM55のモチーフは1970年代のGTだそうである。「(メインターゲット層が)子供のころに憧れたクルマはアメリカ文化の影響を受けているものが多く、当時の夢と希望の象徴だったGTカーをつくりたい」との思いが、企画のキッカケだったという。
そういわれると、M55は往年のアメリカンマッスルカーというか、それに多大な影響を受けた1970年代の国産GTを想起させる。ドンピシャ1968年生まれの筆者にとって、こうしたクルマは近所や親せきの“とっぽい”お兄ちゃんやお姉ちゃんが乗っていたイメージだ。
いつものミツオカの例にもれず、M55でも特定のモデル車はない……というのが公式見解だ。となると、おのずと犯人探しならぬ、モトネタ探しで盛り上がるのが、いつものミツオカである。筆者の11コ下である編集部藤沢君は「ケンメリでしょ?」という。それは当時のTVCFから“ケンとメリーの~”と呼ばれた4代目「スカイライン」のことだ。その発売は1972年。
丸目4灯ヘッドライトと2分割風グリルは、なるほどケンメリっぽくもあるが、丸みを帯びたアゴのラインから、筆者の脳裏には1973年発売の初代「バイオレット」の影がちらついてはなれない。また、ケンメリのテールは、その後のスカイラインの代名詞となる丸型4灯だが、M55はちがう。M55のリアウィンドウから楕円テールにかけた造形には、筆者は1974年発売の「チェリーF-IIクーペ」が見える。
まあ、M55がなにに見えるかは人それぞれなのだが、ひとつだけ確かなのは、この時代の日産はとても輝いていたということだ(涙)。
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車体の前後を再デザイン
現在は2026年生産の「ファーストエディション」が予約受け付け中(生産予定台数は250台)というM55だが、今回の試乗車は2025年生産のゼロエディションである。2024年11月に限定100台で抽選販売を開始したゼロエディションは10日間で受け付けが締め切られた。
すでにご承知の人も多いように、M55のベース車は「ホンダ・シビック」である。ゼロエディションは全車6段MT。2024年に新規登録済みの未使用車がベースと明記されていたことから想像できるように、厳密には2024年秋のマイナーチェンジ以前のモデルとなる。マイチェン前のシビック(のMT車)には廉価版の「LX」と上級版の「EX」があった。速度計がアナログとなるメーターパネルや手動式のフロントシート調整、後席の空調吹き出し口がない……といった特徴から、ゼロエディションのベースは前者だとわかる。
M55はそんなシビックをベースに、エクステリアの前後エンドを専用につくりかえることで、1970年代GT風に見せている。ミツオカのデザイナー氏は以前のインタビューで「ベース車の存在が先か、商品企画が先か……は、どちらともいえない」と語っておられたが、このシビックならではのファストバッククーペ風のルーフラインが、M55のインスピレーションを与えたのかもしれない。
フロントセクションでは、フェイス部分も含めたバンパー全体とボンネットフードが専用なのは一目瞭然である。しかし、よくよく観察すると、シビックそのままのドアのプレスラインを引き継ぐフロントフェンダーも専用パネルのようだ。リアはバンパーに加えて、バックドアにリアエンド部品を追加している。バンパーに組み込まれている先進運転支援システムのセンサー類も移植されており、先進安全性能も基本的にベース車から後退させないのはミツオカの美点だ。
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筆舌に尽くしがたい乗り味
この種のコスメティックカスタムのなかでも、ミツオカが飛びぬけて品質が高いのは、フロントフードやフェンダーが普通の量産車と同じくスチールパネルでつくられているからだ。カスタムカーの定番素材である繊維強化樹脂(FRPやCFRP)パネルは、量産車のスチールプレス部品と比較すると、良くも悪くも軽々しい。しかし、M55のフロントフードやフェンダーは、まるで最初からこうだったかのように車体全体となじんでいる。
今回の試乗車では、典型的な1970年代アイテムであるリアウィンドウルーバーや、知る人ぞ知る富山TAN-EI-SYA製の専用鍛造ホイールも目につくが、これらを標準装備とするのはゼロエディションのみである。
そんなエクステリアと比較すると、インテリアは基本的に後付け部品のみの軽微な仕立てとなるのも、いつものミツオカだ。ステアリングホイールの専用バッジのほか、現在はオプションあつかいとなっている本革シートカバーも、ゼロエディションでは標準装備である。そこかしこにあしらわれたカーボン加飾パネルはディーラーオプションという。本革シートカバーのステッチパターンやハトメ加工もいかにも1970年代風だが、金属メッシュをあしらった現行シビックのダッシュボードと絶妙にマッチしているのが面白い。
走りのメカニズムには、いつものミツオカと同じく、いっさい手が入っていない。よって、少なくとも市街地で静かに転がしているときのM55は、それはもう筆舌に尽くしがたいほどに、シビックそのままだ。とはいえ、それが一台のクルマとして良いか悪いかといわれれば、シビックなので走りはいい。乗り心地は、とてもしなやかで接地感も濃い。マイチェン前の「RS」ではないシビックなので、エンジンの回転落ちは確かに鈍いが、十分にパワフルだし、MTはあつかいやすい。
時代を先取りしてきたミツオカ
高速に乗り入れても、眼前のフロントフードが安っぽく振動したりしないのは、ミツオカでいつも感心するところだ。そのほかにも、外観変更に起因するとおぼしき風切り音や異音の類いがまるでないのも、さすがのミツオカ品質である。それにしても、これだけ大きいフードパネルが、少なくとも視覚的にはピタリとして動かないのは、これがスチール製だからだろう。ちなみに、撮影中に手で持ち上げてみたフロントフードは、これまでに経験したなかでも1、2を争うほどに重かった。
市街地での走りはシビックそのものだったM55も、高速道路の特別区間で100km/hを明確に超える車速になると、ステアリング反応が少し鈍く、フィールが希薄になってくる。M55のフロントエンド形状を見ると、高速ではそれなりの揚力が発生しているであろうことは、素人目にも想像がつく。とはいえ、日本の制限速度内なら大きな問題ではない。
そうして走りを気にしはじめると、交差点やカーブでのフロントのロールも、ベースのシビックより少し大きいような気もしてくる。これだけ重いパネルが車体前端の、しかも高い位置に載っていれば、それもしかたない。そうした上屋が大きめに動くクセは、見方を変えればクラシカルな味わいともいえ、M55の1970年代テイストには奇跡的に似合っていなくもない。これもミツオカの高度なねらいだとしたら大したものだが、おそらく偶然だろう。
いずれにしても、アフター品などを使えば、ドライビング面での“味変”はスタイリング以上に簡単なはずだが、そこにはあえて踏み込まないのもミツオカ流である。試乗リポートでこんなことを書いては元も子もないが、新車で走りがダメなクルマなど、今やほぼ存在しない。そうなると、クルマ選びの根拠としては、いよいよデザインの比重が増す。そう考えると、ミツオカ創業55年にして、時代がミツオカに追いついてきた……のか。さすがのミツオカもこの種のオリジナルカーを手がけはじめたのは、1980年代に入ってかららしいけど。
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=光岡自動車)
テスト車のデータ
ミツオカM55ゼロエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4735×1805×1415mm
ホイールベース:2735mm
車重:1360kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:182PS(134kW)/6000rpm
最大トルク:240N・m(24.5kgf・m)/1700-4500rpm
タイヤ:(前)235/40R18 95Y XL/(後)235/40R18 95Y XL(グッドイヤー・イーグルF1アシメトリック2)
燃費:--km/リッター
価格:808万5000円/テスト車=846万4500円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション 専用インテリアカーボンパネルセット(37万9500円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:830km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:362.7km
使用燃料:32.9リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.0km/リッター(満タン法)/12.0km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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