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ハーレーダビッドソン・ブレイクアウト(6MT)

進化するアイコン 2025.08.18 試乗記 後藤 武 ロー&ロングな、ハーレーダビッドソンの本流ともいうべきスタイルを守り続ける「ブレイクアウト」。日本でも圧巻の人気を誇る一台は、2025年モデルでどんな進化を遂げたのか? 排気量1923ccのVツインを搭載した、優雅で豪快なクルーザーの魅力に触れた。
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人気のスタイルを変える必要はない

先日話をした20代の女性ライダーが、「いつかハーレーに乗りたい」と言っていた。「ハーレーっていってもいろいろあるけど、どれ?」とラインナップを見せたところ、指さしたのがブレイクアウト。若いライダーには、これぞハーレーといったロー&ロングなスタイルや、幅広いリアタイヤの迫力がグサッと刺さるらしい。「いつかこれ(ブレイクアウト)に乗りたいなあ」と目を輝かせる様子に、やっぱり日本で絶大な人気を誇る車種なんだなあと思った次第である。

そんなブレイクアウトが、2025年モデルで大きく進化を遂げた。基本的なイメージはそのままだが、大きく変わったのは「ミルウォーキーエイト117」の“カスタム”エンジンを搭載したことである。外観ではライトやメーター周辺のデザインが若干クラシカルな雰囲気になり、新色のグラフィックが採用された程度だが、人気モデルであれば外観の変更はこれくらいにとどめておいたほうがいいという判断だろう。

実はこの試乗の前、同じハーレーのクルーザーファミリーに属する「ローライダーST」にも乗っていた。こちらもミルウォーキーエイト117を搭載しているが、現在、このエンジンには3つの仕様違いがあり、ローライダーSTに搭載されるのは最もパワフルな“ハイアウトプット”で最大出力114HP、最大トルク173N・m。それに対してブレイクアウトの“カスタム”は、103HPと168N・mだ。

その数値から「ブレイクアウトのほうがおとなしいのかな」と思って走りだしたが、実際は違った。スムーズにレブリミットまで回るローライダーSTに対し、ブレイクアウトは低回転から実に力強く加速する。Vツインの鼓動感も強くダイレクトである。これは、最大トルクを3000rpmという低い回転数で発生するから。いっぽうのローライダーSTは4000rpm。最高回転数が低いエンジンで、この1000rpmの差はメッチャデカい。

ロー&ロングなスタイルと、豪快な加速性能が魅力のカスタムクルーザーとして、2012年に登場した「ブレイクアウト」。今日の日本では、ハーレーの販売台数で常に「ローライダーST」と1位を争う人気機種となっている。
ロー&ロングなスタイルと、豪快な加速性能が魅力のカスタムクルーザーとして、2012年に登場した「ブレイクアウト」。今日の日本では、ハーレーの販売台数で常に「ローライダーST」と1位を争う人気機種となっている。拡大
2025年モデルより採用された、改良型の「ミルウォーキーエイト117」エンジン。3種類の仕様があり、「ブレイクアウト」の“カスタム”仕様と2024年モデルのエンジンを比べると、最高出力、最大トルクの値に大きな変化はないが、最大トルクの発生回転数が500rpm低められ、より力強いトルク特性となった。
2025年モデルより採用された、改良型の「ミルウォーキーエイト117」エンジン。3種類の仕様があり、「ブレイクアウト」の“カスタム”仕様と2024年モデルのエンジンを比べると、最高出力、最大トルクの値に大きな変化はないが、最大トルクの発生回転数が500rpm低められ、より力強いトルク特性となった。拡大
タイヤにはミシュランと共同開発した「スコーチャー11」を採用。240/40R18という、極太のリアタイヤが目を引く。
タイヤにはミシュランと共同開発した「スコーチャー11」を採用。240/40R18という、極太のリアタイヤが目を引く。拡大
燃料タンクに施された、ほのかな“ゴーストフレーム”に注目。5種類あるカラーリングのなかでも、試乗車には+28万6000円の有償ペイント「ミッドナイトファイアーストーム」が用いられていた。
燃料タンクに施された、ほのかな“ゴーストフレーム”に注目。5種類あるカラーリングのなかでも、試乗車には+28万6000円の有償ペイント「ミッドナイトファイアーストーム」が用いられていた。拡大

街なかでも存分に楽しめる

普通に街を流して走っている時点で、最大トルクの発生回転数に近いところを使っているので、追い越し加速や、交差点での立ち上がり加速の力強さは抜群である。“240サイズ”のリアタイヤが路面に押し付けられ、309kgの車体が前へと押し出される。

「スポーツ」モードにするとレスポンスが鋭くなるのでギクシャクするかと思ったけれども、スロットルのマネジメントがうまく設定されているので、扱いにくさは皆無。飛び出し感だけが倍増するのだ。それでも、フラットなハンドルでお尻もシートでシッカリホールドされているから、ドカンと加速してもライダーの体勢が乱れることはない。まるでドラッグマシンを操っているような気分。夢中になってアチコチ走り回っていたので、試乗の終了予定時刻を過ぎているのに気がつかなかったほどだ。この面白さは反則レベルである。

もちろん、速さだけでいえばほかに速いマシンはいくらでもあるのだが、ほとんどのバイクは速度違反を気にしながらスロットルを開けることになる。それに比べて、街なかでもスピードメーターの針を気にすることなくエンジンの性能を引き出せるブレイクアウトはストレスフリー。これが実に気持ちいい。

ハンドリングに関しては、低重心と長いホイールベース、寝かされたキャスター、フロントの21インチタイヤのおかげで、直進時の安定感が高い。コーナーを攻めるマシンではないけれど、この手のクルーザーとしてはかなり乗りやすく、低速でバンクさせてもハンドルが切れ込んでくるようなこともない。こういうバイクに乗ると、決まって「曲がらねー」などと言うライダーがいるのだが、そんなことはない。浅いバンク角でも倒し込むタイミングや倒し込む速さ、ライン取りが的確であれば、気持ちよく曲がることができる。直線的に立ち上がれるラインを描けるようになれば、早いタイミングでスロットルを開けられるようになり、1923cc Vツインエンジンの楽しさが倍増する。それこそが、ブレイクアウトの正しいコーナリングなのである。

ちなみに試乗中、交差点からの立ち上がりで、加速しながら意識的にマンホールのフタを踏んだら、トラクションコントールが介入。リアタイヤがわずかに滑っただけで、姿勢を崩すこともなかった。こういうポジションのバイク(比較的バイクの後ろのほうにドッカリと座っている)で突然リアタイヤが大きく滑ると、瞬間的に体全体が横方向に大きく移動して対処が難しくなるから、トラクションコントロールの存在は実にありがたい。

3000rpmという低い回転数で168N・mの最大トルクを発生するエンジン特性により、「ブレイクアウト」の加速は豪快そのもの。「ローライダーST」よりむしろ強烈に感じられた。
3000rpmという低い回転数で168N・mの最大トルクを発生するエンジン特性により、「ブレイクアウト」の加速は豪快そのもの。「ローライダーST」よりむしろ強烈に感じられた。拡大
クルーザースタイルのモデルだけに、シート高は665mmと低め。彫りの深い形状により、加速時にはライダーのお尻をしっかりと受け止めてくれる。
クルーザースタイルのモデルだけに、シート高は665mmと低め。彫りの深い形状により、加速時にはライダーのお尻をしっかりと受け止めてくれる。拡大
きらびやかなクロームメッキがまぶしいプライマリーカバー。フットレバーはかなり前寄りの、フォワードコントロールのポジションとなっている。
きらびやかなクロームメッキがまぶしいプライマリーカバー。フットレバーはかなり前寄りの、フォワードコントロールのポジションとなっている。拡大
ライディングモードセレクターのスイッチは右のスイッチボックス下部に配置。「ロード/レイン/スポーツ」の3つのモードが用意される。
ライディングモードセレクターのスイッチは右のスイッチボックス下部に配置。「ロード/レイン/スポーツ」の3つのモードが用意される。拡大
高い直進性に寄与する、21インチの巨大なフロントホイール(タイヤサイズは130/60B21)。フロントフォークのレイク角は34°と、チョッパースタイルのクルーザーとしては一般的だが、シャシーやトレール量の調整により、本文のとおり気持ちのよいハンドリングを実現している。
高い直進性に寄与する、21インチの巨大なフロントホイール(タイヤサイズは130/60B21)。フロントフォークのレイク角は34°と、チョッパースタイルのクルーザーとしては一般的だが、シャシーやトレール量の調整により、本文のとおり気持ちのよいハンドリングを実現している。拡大
2025年モデルでは各部の意匠も変更。ヘッドランプは、レンズのふくらんだ縦型の異形デザインから、クラシックな丸型に変えられた。中身はもちろんフルLEDである。
2025年モデルでは各部の意匠も変更。ヘッドランプは、レンズのふくらんだ縦型の異形デザインから、クラシックな丸型に変えられた。中身はもちろんフルLEDである。拡大
メーターは小さな液晶タイプから、4インチ・丸型のアナログタイプに変更。下部には残燃料やライディングモードなどを表示する、LCDディスプレイが備わる。
メーターは小さな液晶タイプから、4インチ・丸型のアナログタイプに変更。下部には残燃料やライディングモードなどを表示する、LCDディスプレイが備わる。拡大
デザイン的にも大きな存在感を放っている、2バレルのマフラー。2 into 2の排気レイアウトでハイフローを実現している。
デザイン的にも大きな存在感を放っている、2バレルのマフラー。2 into 2の排気レイアウトでハイフローを実現している。拡大
昔ながらのスタイルとは裏腹に、乗れば確実に進化が感じられるハーレーダビッドソンの最新モデル。次はぜひ、クラッチレバーを軽くしてほしい。
昔ながらのスタイルとは裏腹に、乗れば確実に進化が感じられるハーレーダビッドソンの最新モデル。次はぜひ、クラッチレバーを軽くしてほしい。拡大

気になる点を挙げるとしたら……

試乗していて驚いたのは、サスペンションの動きのよさだ。特にリアショックである。これだけ車高が低いとストロークを大きく確保することが難しいので、ギャップの吸収性には限界がある。実際、以前のハーレーで車高が大きく落とされていたモデルは、ギャップを越えたときにお尻を突き上げられるような感じがあった。ところがこのブレイクアウトは、路面のショックを実によく吸収してくれる。

ブレーキについても、フロントのシングルディスクはそれほど高い制動力を発揮するわけではないが、日常での使用はもちろん、緊急時の急制動でも性能が不足するということはなさそう。バイクの性格を考えたら、これでよいのだろう。

伝統的なスタイルを踏襲しているから、写真を見ているだけでは伝わりにくいかもしれないが、実際にブレイクアウトで走ってみれば、「進化しているんだなあ」というのがよく分かる。しかも現代の道路事情、必要な環境性能などに対応させながら、昔からのテイストを取り入れ、ハーレーらしいフィーリングが練られている。

ただひとつ気になったのがクラッチレバーの重さ。普段、旧車に乗っているテスターのゴトーにとっては、どうってことない重さだが、前述の女性ライダーなんて、アシスト&スリッパークラッチの付いた現行モデルに乗っているのだから、その重さには驚くことになるだろう。エンジンや車体が進化しているだけに、クラッチだけ取り残されているのが、とっても残念に感じてしまった。

(文=後藤 武/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)

ハーレーダビッドソン・ブレイクアウト
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ハーレーダビッドソン・ブレイクアウト(6MT)【レビュー】の画像拡大

【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2375×940×--mm
ホイールベース:1695mm
シート高:665mm
重量:309kg
エンジン:1923cc 空油冷4ストロークV型2気筒OHV 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:103HP(77kW)/5020rpm
最大トルク:168N・m(17.1kgf・m)/3000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:5.6リッター/100km(約17.9km/リッター、EU 134/2014)
価格:345万1800円~373万7800円

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ハーレーダビッドソンが2025年モデルの「ブレイクアウト」「ローライダーST」を発表

後藤 武

後藤 武

ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。

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