BMW R1300GSアドベンチャー(6AT)
すべての瞬間に“歓び”を 2025.01.18 試乗記 BMWが発表した、究極のアドベンチャーモデル「R1300GSアドベンチャー」。30リッターの大容量燃料タンクに、先進のライディングアシスト機能、電子制御トランスミッションなど、フラッグシップにふさわしい装備が満載された一台を、ライターの後藤 武が試した。先進装備がてんこ盛り
BMW R1300GSアドベンチャーは、威圧感があるくらいに大きなバイクである。シートから見ても30リッタータンクの大きさはかなりのもの。ところが跨(またが)ってみると、予想外に軽い。横から見ると角張って見えたタンクは体にフィットするし、押し引きやバイクを起こすときも見た目ほどの重さを感じない。こんなに軽いのかと思ったくらいである。車重が従来モデルから12kg軽くなっていることに加え、アダプティブ車高制御機能によって、静止しているときはシート高が30mm下がり、足つき性が向上しているからだろう。
アダプティブ車高制御機能は、足つき性と走行性能を両立させたシステムだ。走りだして速度が50km/hに到達すると車高が上り、25km/hになるとまた下がる。走っていてもほとんど感じ取れないくらいおだやかに昇降しているのだが、その効果は絶大だ。またセンタースタンドをかけるときは「コンフォートリフトアシスト」が作動。前後サスが伸びて車高を上げてくれるので、スタンドをかけるのも容易になる。
ライダーをサポートする装備はこれだけではない。「アクティブクルーズコントロール」は前方の車との車間距離を一定に保つよう自動で車速をコントロールし、障害物を検知したらアラートを出す機能も装備。坂道で停止したときは、フロントブレーキを握ると車体がホールドされて発進を容易にしてくれるし、ウインカーのキャンセラーも付いているので消し忘れもなし。さらにはコーナリング中に行き先を照らす「ヘッドライト プロ」など、先進の電子装備を「これでもか」というくらいに満載している。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ビッグツインの理想形
今回は都心部でのみの試乗ということで、このバイクの魅力が分かるのかとも思ったが、逆だった。混み合った場所での試乗だったからこそR1300GSアドベンチャーの素晴らしさが見えてきたのである。
4mmビックボアで3mmショートストロークになったエンジンは、排気量が1264ccから1300ccへとスケールアップ。パワーも136PS/7750rpmから145PS/7750rpmへと引き上げられた。先代から変わらず全域トルクフルな特性だ。特にどこかでパワーが盛り上がっていくような感じではなく、レブリミットまでどの回転域でも同じような力強さで加速してくれる。ストリートでフルに回し切ることなど到底できないくらいにパワフルだが、低速から中速にかけてとても楽しいエンジン特性なので、使いきれないストレスは皆無。トルクの塊のようなフラットツインはライダーの意思に対して、タイムラグなく自由自在にマシンを加速させてくれる。ある意味でビッグツインの理想形とも思えるようなエンジンに進化している。
ライディングモードは「エコ」「レイン」「ロード」「ダイナミック」「エンデューロ」「ダイナミック プロ」「エンデューロ プロ」の、実に7種類。モードに応じてスロットルやトラクションコントロール、ABS、電子制御サスペンション、車高調整機能、自動変速などの制御が切り替わるが、今回はもっぱらロードモードで走っていた。このモードでは、3種類あるスロットル制御は中間のマッピングとなるが、パワー感はまったく問題なし。ダイナミックモードにするとレスポンスがよくなって元気に走れるのだが、都心部だと渋滞路などで低速走行する場合はギクシャクしてしまう。レインモードにするとレスポンスがずいぶんマイルドになるので、街なかであれば晴れであろうとレインを使うのも手だろう。スロットルを開ければ十分すぎるくらいのパワーがあるので、このモードで乗っていても存外に楽しめる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
高い完成度を誇る「ASA」の自動変速
R1300GSアドベンチャーで新しく採用された機能のひとつが、「ASA(オートメイテッドシフトアシスタント)」だ。電子制御トランスミッションのひとつで、「D」モードにすると速度や回転に応じて自動的にシフトアップ、シフトダウンを行ってくれる。
乗り方に応じて最適なシフトパターンを選んでくれて、必要ならライダーがシフトペダルを操作することも可能。とはいえ、トルクフルなエンジンとの相性はよく、ほぼマシン任せで快適に走れる。実際、シフトペダルを操作したのは街なかをキビキビと走るときくらい。スタートでスロットルを開け気味に飛び出し、法定速度に到達したら高いギアにシフトしてクルーズ状態にしたいのだが、最初にスロットルを大きめに開けると「スポーティーに走るのだ」と判断されて高めの回転を維持しようとするのだ。こういう場合はシフトペダルを使ってシフトアップをしていたが、そうした際にも、クラッチレスでシフトができるから不便は感じなかった。
「M」モードでは基本的にすべてのシフト操作をライダーが行う。シフトペダルはセンサースイッチ的に使われているため、一般的なクイックシフターとはフィーリングが異なる。特に違いを感じるのは低速で低いギアを使っているとき。シフトのショックを小さくするのが難しい領域だ。R1300GSアドベンチャーではこのようなとき、点火のカットをしている時間が長めになって、回転が落ちてきてからギアが入る。意識的にタイムラグがつくられているのである。シフトダウンではブリッパーが作動し、回転を合わせてギアが落ちる。
多様なサポート機能でライダーをアシスト
面白いのは、速度が遅いときにシフトアップしようとしたときで、ペダルを操作しても反応してくれない。適切な速度ではないと判断された場合は、シフトアップされないのだ。また、シフトダウンせず減速していくと勝手にギアを落としてくれるなど、ライダーの操作をサポートする機能が組み込まれている。これらの機能は便利なのだが、気になったのは、ときたま停止した際にニュートラルに入ってしまうこと。停止時にギアを入れるためにはフロントブレーキを握らないといけない。この点が煩わしく感じたのは、ASAの便利さに慣れてしまったからかもしれない。
ちなみにDモード、Mモードとも変速のショックは少なからずあるのだけれど(特に低いギア)、これはシフト操作が行われているのが伝わってくる感じで不快なものではなかった。
静止状態からのスタートではクラッチのつながり方はスムーズ。ただし、低回転のスロットルレスポンスがマイルドになっていて、スロットルを開けていくと途中からトルクが盛り上がってくるために(モードによって若干変化する)、超低速でバイクが傾いているとき、スロットル操作で車体をコントロールしようとするときは、若干操作が難しいと感じたこともあった。基本的に超低速で車体が傾いているときは、スロットルを少し開けた状態をキープし、リアブレーキでマシンをコントロールするようにしていたほうが操作はしやすい。これはクラッチのない車両すべてに通じることだ。
ちなみに、先に登場しているホンダのDCTに比べると、Dモードでの変速フィーリングに大きな違いがあるような印象は受けなかった。ASAの場合はMモードでの変速を緻密に制御し、ライダーをサポートする機能が追加されているようなイメージである。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
どんな速度域でも楽しい
フロントにテレレバー、リアにパラレバーというサスペンションシステムは、従来モデルからさらに進化した電子制御サスペンションを組み合わせている。テレレバーはフロントブレーキをかけてもまったくノーズダイブしないので、急減速時でもマシンが前のめりにならず(減速中でも路面からの入力に対しては柔らかく反応する)、急制動しているときでも安定性が高いことに加えて、マシンをコントロールしやすい。
この結果、フロントサスペンションはハードブレーキングでかかる強い力に耐える必要がなくなり、乗り心地やコーナリング性能だけを考えたセッティングにすることができる。だから、乗り心地は素晴らしく快適だ。急減速も何度かテストしたが、ABSの制御は緻密で挙動が乱れるようなことは一度もなし。フロントの沈み込みがないかわり、リアが若干リフトするのだけれど、この現象も以前から比べるとずいぶん少なくなったように感じる。
エンジンの進化や電子制御システムなどにどうしても目がいってしまうが、R1300GSアドベンチャーの魅力はハンドリングではないかと個人的には思う。直進中は非常に安定しているのに、ライダーが入力すれば間髪入れず、忠実に反応して大きな車体が一瞬でバンク。コーナリング中はハンドルの力を抜いてもまったくラインが変わらず、一定の弧を描くようなドッシリした安定感がある。このハンドリングは昔からGSの美点だったが、それがより完成されてきた。
さらに印象的だったのが、低速で走っているときの安定感が素晴らしいこと。ゆっくり走っていてもバイクがフラフラしにくいのである。ちょっと横から押されてもバランスを崩さないのではないかと思うくらいにドッシリしている。これだけでも渋滞のストレスが低減されるし、加えてASAでシフト操作から開放されるものだから、渋滞をまったく苦痛に思わなかったほどだ。
今回、R1300GSアドベンチャーを借りて2日間、都内を走ってみた。全開にできるシチュエーションはほとんどなく、コーナリングするのも交差点くらい。それでもとても面白かったのは、このバイクがどんな速度域でも操ることの楽しさを感じさせてくれたからだった。てんこ盛りの電子装備や高いスペックより、R1300GSアドベンチャーの一番の魅力はそこにあるのかもしれない。
(文=後藤 武/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資/車両協力:BMWジャパン)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2280×1560×1012mm(※)
ホイールベース:1534mm
シート高:(シートアジャスター:低)840-870mm/(シートアジャスター:高)860-890mm(※)
重量:284kg
エンジン:1300cc 水冷4ストローク水平対向2気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:145PS(107kW)/7750rpm
最大トルク:149N・m(15.2kgf・m)/6500rpm
トランスミッション:6段AT
燃費:20.4km/リッター(WMTCモード)
価格:333万5000円~368万4000円
※「GSスポーツ」仕様の数値。

後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。
-
BMW iX M70 xDrive(4WD)【試乗記】 2026.3.23 BMWが擁するSUVタイプの電気自動車「iX」。そのハイパフォーマンスモデルが「iX M70 xDrive」へと進化を遂げた。かつて、BMWの志向する次世代モビリティーの体現者として登場した一台は、今どのようなクルマとなっているのか? その実力に触れた。
-
BMW i5 eDrive35LエクスクルーシブMスポーツ(RWD)【試乗記】 2026.3.21 BMWの「5シリーズ ロング」は知る人ぞ知る(地味な)モデルだが、実はエンジン車のほかに電気自動車(BEV)版の「i5 eDrive35L」も用意されている。まさに隙間産業的にラインナップを補完する、なんともニッチな大型セダンの仕上がりをリポートする。
-
日産リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2026.3.20 民生用電気自動車のパイオニアである「日産リーフ」が3代目へとフルモデルチェンジ。シャシーや電池、モーターなどすべての要素を刷新し、もはやスペック上は何の不安もない水準にまで進化している。360km余りのドライブで実際のところを確かめた。
-
モト・グッツィV7スポルト(6MT)【レビュー】 2026.3.18 イタリアの名門、モト・グッツィのマシンのなかでも、特に歴史を感じさせるのがロードスポーツの「V7」だ。ファンに支持される味わい深さはそのままに、よりスポーティーにも楽しめるようになった最新型の実力を、上級グレード「V7スポルト」に試乗して確かめた。
-
トヨタRAV4 Z(4WD/CVT)/RAV4アドベンチャー(4WD/CVT)【試乗記】 2026.3.17 「トヨタRAV4」が6代目へと進化。パワートレインやシャシーの進化を図ったほか、新たな開発環境を採用してクルマづくりのあり方から変えようとした意欲作である。ハイブリッドの「Z」と「アドベンチャー」を試す。
-
NEW
今やジャパニーズBEVもよりどりみどり 国産6ブランドのBEV&PHEVにまとめて乗った
2026.3.25デイリーコラム「ニッポンのBEVはまだまだ」のイメージをぬぐうべく、国産6ブランドがタッグを組んで計8モデル(一部はPHEV)を集めたメディア向け試乗会を実施。各社が目指す未来を学ぶとともに、最新モデルの仕上がりをチェックした。 -
NEW
第106回:さよならワグナー(前編) ―メルセデス・ベンツのデザインを変えた傑物の去就―
2026.3.25カーデザイン曼荼羅長年にわたりメルセデス・ベンツのデザインを指揮してきたゴードン・ワグナー氏が、ついに退任! 彼はドイツが誇る高級車ブランドになにをもたらしたのか? カーデザインの識者とともに、希代の傑物の足跡とメルセデスデザインの今昔を振り返る。 -
NEW
スズキGSX-8T(6MT)【レビュー】
2026.3.25試乗記昨今のネオクラシックブームに乗り、いよいよスズキからも新型車「GSX-8T」が登場。しかし実車に触れてみると、既存のライバルとはちょっと趣の異なるマシンとなっていた。スタイリッシュないでたちとスズキらしい実直さが融合した、独創の一台を報告する。 -
「空力性能」を追求すると、最終的にどのクルマも同じ形になってしまうのか?
2026.3.24あの多田哲哉のクルマQ&Aスポーティーな車種に限らず、空力性能の向上は多くのクルマの重要課題。しかし、それを突き詰めれば、どれも同じような形になってしまうのではないか? 元トヨタのエンジニア、多田哲哉さんはこう考える。 -
日産セレナe-POWERハイウェイスターV(FF)【試乗記】
2026.3.24試乗記販売台数ではトヨタ勢に差をつけられながらも、日産の屋台骨として奮闘する「セレナ」。現行型の登場から3年、マイナーチェンジで磨きがかかった最新の「e-POWERハイウェイスターV」に試乗すると、人の感性に寄り添う開発陣のこだわりと良心が見えてきた。 -
第56回:走行16万kmでも電池の劣化なし! -20℃でもエアコンが効く! 新型「日産リーフ」のスゴイところを聞く
2026.3.23小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ航続距離が伸びたり走りの質がよくなったりで話題の3代目「日産リーフ」だが、本当に見るべき点はそこにあらず。小沢コージが開発エンジニアを直撃し、ジミだけど大きな進化や、言われなかったら気づかないような改良点などを聞いてきました。


























































