アウディA7スポーツバック3.0TFSIクワトロ(4WD/7AT)【海外試乗記】
期待のニュータイプ 2010.09.24 試乗記 アウディA7スポーツバック3.0TFSIクワトロ(4WD/7AT)アウディの最新モデル「A7スポーツバック」が欧州でデビュー。5つのドアをもつラクシャリークーペは、どんなクルマに仕上がった? イタリアはサルデーニャ島でテストした。
「A8」は引き立て役!?
クーペのカッコよさとセダンの快適性やプレステージ、そして、アバント(ステーションワゴン)の実用性を1台で実現する「A5スポーツバック」をアッパーミドルクラス市場に投入したアウディが、同じコンセプトでつくりあげたラクシャリー5ドアモデルが「A7スポーツバック」だ。果たして看板どおりのクルマなのか、イタリアのサルデーニャ島で実力を試した。
初めて目にしたA7スポーツバックは、写真で見るよりもはるかにハンサムなクルマだった。確かにドアは前後に2枚ずつあるが、流れるようなルーフラインがもたらす独特のたたずまいはセダンよりもクーペに近い。とくに斜め後ろからの眺めはクーペと見紛うほどスタイリッシュだ。
往年の「アウディ100クーペS」をほうふつさせる、ルーフラインとリアピラーのデザインには伝統を感じるが、もちろん古臭さとは無縁。フロントマスクは低めのノーズや鋭いヘッドライトのデザインが、アウディのミドシップクーペ「R8」をイメージさせて、強い存在感を示す。
あくまでも個人的な意見だが、ひとあし先にフルモデルチェンジしたフラッグシップサルーン「A8」が比較的コンサバなスタイルで登場したのは、A7スポーツバックの個性を際立たせるためではないだろうか? そんな疑いを抱かせるほど、A7スポーツバックのエクステリアは斬新で魅力的なのである。
見どころ満載
ラクシャリークラスのクーペを持たないアウディにとって、このA7スポーツバックはある意味その役割を担うモデルということになる。だから、A8に迫る上質なインテリアや最新の情報機器が与えられているのは当然のこと。
一方、A7スポーツバックのボディは、A8のアルミスペースフレームではなく、独自のスチールモノコック構造を採用している。もちろん軽量化に余念はなく、ボンネットをはじめ、フロントフェンダーやドアパネルなど、ボディの20%以上にアルミを用いている。その結果、全長4969mm×全幅1911mm×全高1420mmの余裕あるサイズに、3リッターV6エンジンとフルタイム4WDを搭載した「A7スポーツバック3.0TFSIクワトロ」の車両重量は1785kgで、ひとまわり小さい現行「A6アバント」とほぼ同じ重量に抑えられた。
A7スポーツバックを特徴づけるものの中で、忘れるわけにいかないのがテールゲートだ。この5番目のドアにもアルミのアウターパネルが用いられているが、これだけ大きいと電動テールゲートが標準装備となるのは当然だろう。
荷室が広いことは一目瞭然(りょうぜん)で、通常の状態で約120cmの奥行きを確保。VDA法により計測した荷室容量は535リッターで、リアシートを倒せば1390リッターまで拡大できるのもうれしい。さらに、ただ広いだけでなく、大きく開くテールゲートのおかげで荷物の出し入れがラクなのもスポーツバックのありがたいところである。気になるリアシートは実用的な広さを誇り、大人でも十分快適な移動が可能だ。
パワートレインについては、ヨーロッパではガソリン2種類、ディーゼル2種類のエンジンが用意されており、このうち日本導入が予定されているのは、スーパーチャージャー付き3リッターV6ガソリンの3.0 TFSIだ。現行のA6にも搭載されるこのエンジン、A7に搭載するにあたって10psのパワーアップが図られ、300ps/5250-6500rpm、44.9kgm/2900-4500rpmのスペックを誇る。これに、デュアルクラッチギアボックスの7段Sトロニックとフルタイム4WDのクワトロが組み合わされる。
クワトロは、センターデフに“クラウンギア”を用いた最新世代が採用され、コーナリング時にESPが内輪を軽くブレーキングすることでアンダーステアを軽減する“トルクベクタリング”機構も標準で搭載される。
このほかにも、LEDヘッドライトやタッチパッドを用いたナビゲーションシステム、アクティブセーフティ機能を高める「アウディプリセーフ」、車両のダイナミック性能を切り替える「アウディドライブセレクト」など、最新のテクノロジーが標準またはオプションとして用意される。
快適なスポーツモデル
このように見どころ満載のA7スポーツバックだが、そのすべてを紹介しているときりがないので、このへんで運転席に移ろう。今回試乗したのは、日本導入予定の仕様に近いA7スポーツバック3.0TFSIクワトロで、オプションのアダプティブサスペンション(エアサス)が付いたタイプと、コイルスプリング仕様でありながら標準よりも20mmローダウンしたSラインスポーツパッケージ装着車のふたつを試すことができた。ちなみに、どちらのモデルにも、265/35R20サイズのタイヤが装着されていた。
インテリアの美しさ、質感の高さには定評のあるアウディだが、このA7スポーツバックではまたレベルを高めた印象だ。メーターパネルにはアナログの速度計と回転計が立体的に配置され、その間に7インチのカラーディスプレイが収まるデザイン。これとは別に8インチモニターがセンターパネルに用意され、カーナビ(Google Earthも利用できる!)や車両のセッティングなどの情報が表示される。これを操作するのが、アウディ独自のマンマシンインターフェイスのMMIである。
まずはエアサス仕様のモデルから乗る。アウディドライブセレクトの車両セッティングを標準のオートにして発進した。
走り出してまず気づくのは、クルマの動きが実に洗練されていることだ。3.0 TFSIは相変わらず低回転から力強く、A7スポーツバックを軽々と加速させるが、A6で見せたアクセル操作に対する過剰なほどのレスポンスは姿を消し、実に自然にトルクを生み出す。スーパーチャージャー式ながら、回してもトルクの頭打ち感がほとんどないのもこの3.0 TFSIの好ましい部分で、つい高回転をキープしてスポーティなドライブを楽しんでしまった。
絶妙な走りのバランス
足まわりの動きもとてもしなやかだ。これまでのアウディはスポーティさをアピールすべく、ともすると硬すぎて乗り心地を損なうことがあった。しかし、このA7スポーツバックは快適な乗り心地とフラットな身のこなしをうまい具合にバランスさせている。ペースを上げるとボディの上下動が気になってくるが、その場合はエアサスをダイナミックモードに切り替えればいい。ダイナミックでも硬すぎることはなく、少し硬めの乗り味がむしろオートよりも好ましいくらいだ。
オプションのリアスポーツディファレンシャルは装着されていなかったが、ハンドリングは終始軽いアンダーステアにしつけられており、走り出してしまえばボディがひとまわり小さく感じられる。電動パワーステアリングのフィーリングも良好。不満を覚えたのは、リアまわりのボディ剛性が多少不足気味なことくらい。スポーティさと快適さのバランスは絶妙である。
一方、スポーティなSラインも上々の仕上がりだ。エアサス装着車のダイナミックモードと同じか少し硬めにセッティングされたSラインスポーツサスペンションだが、むやみにハードなわけではなく、シャキッとした動きを示しながら、しなやかさを失わないのが実にいい。ブラックを基調としたインテリアや美しいアルミパネルも、このクルマのスポーティな雰囲気を一層引き立てていて、自分なら絶対にSラインにしようと思うほどだ。
好みの話はさておき、デザインはいうまでもなく、パワートレイン、サスペンションともに、とてもスポーティかつ洗練された仕上がりを見せるA7スポーツバック。豪華ではあっても退屈に思える高級車が多いなかで、この新しい5ドアスポーツクーペはとても輝いて見える。そうなると、A8やA6のユーザーが一気にA7に流れるのではないかと心配になるが、まあ、それ以上にメルセデスやBMWからの乗り換えが増えれば、アウディとしては“してやったり”というところだろう。とくにこのクラスで苦戦している日本市場では、一発逆転をもたらすルーキーとして、大いに期待が持てそうだ。
(文=生方聡/写真=アウディジャパン)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースレポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。