第114回:「i-MiEV」でスポーツした、クールで熱い夏の休日
2010.09.17 エディターから一言第114回:「i-MiEV」でスポーツした、クールで熱い夏の休日
スラローム競技によるタイムトライアル「ジムカーナ」への参戦チャンスを三菱自動車からいただいた。しかもクルマは「i-MiEV」! 生方聡とwebCG本諏訪、二人のジムカーナ初心者が、気合いを入れて戦った、その結果は?
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EVでジムカーナ!?
それは1本の電話で始まった。『webCG』編集部の本諏訪君、通称「モティ」からのコールである。
モティ(以下「モ」):ウブさん、9月5日の日曜なんですが、僕と一緒にジムカーナに出ませんか?
生方(以下「生」):おー、いいね、いいね! クルマは?
モ:i-MiEVです。少し前に小沢コージさんからリポートをいただいたあのシリーズです。
生:それは面白そう。ジムカーナの経験、ほとんどないけどいいかなぁ?
モ:大丈夫です、僕もありませんから(笑)。
i-MiEVでジムカーナか……。電気自動車(EV)というと“エコ”という切り口で語られることが多いし、それが本来の存在意義であるのは重々承知しているが、もちろんEVの魅力はそれだけではない。たとえば、EVの発進加速は、エンジン車では味わえないくらい力強く気持ちがいい。いまから約20年前に「IZA」というEVで、僕はそれを知ってしまった。EVが重い、高い、航続距離が短い、すぐに普及するわけがないといわれ続けながらも、愛想が尽きなかったのは、EVの走りにシビレてしまったからだ。走りがよければ競争したくなるのは当然の結果で、アメリカでは20年以上前からEVのレースが行われていて、それを見に1993年にはわざわざアリゾナまで足を運んだことがある。日本でもJAF公認のレースが開催され、僕自身も1997年に改造型のEVフォーミュラで富士スピードウェイを駆け抜けた経験を持つ。
そんな、EVにはただならぬこだわりがある僕だから、モティの誘いを二つ返事で引き受けたのは当然のこと。JAFのモータースポーツライセンスが切れていて慌てて取り直した、という裏話があったのはさておき、実は自分がジムカーナにあまり縁がないことがわかった。日本のモータースポーツの総元締めであるJAFによれば、「ジムカーナは舗装された路面に任意に設定されたコースを競技車両が1台ずつ走行し、タイムを競うモータースポーツ」であり、「ジムカーナはモータースポーツの基本」だという。参加するにはJAF発行のモータースポーツライセンスが必要だが、サーキットを使う多くのレースに必要なのが「国内A級ライセンス」であるのに対し、ジムカーナは座学だけで取得できる「国内B級ライセンス」で参加可能(もちろんAライセンスでも大丈夫)。クルマもノーマルでOK! モータースポーツの基本は、実に身近な存在なのだ。
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というわけで、とんとん拍子で進んだジムカーナの話だが、まったく不安がないわけではない。「小沢コージの勢いまかせ!!」によれば、参加するJMRC神奈川ジムカーナ部会のイベントは、コースの難解さでは定評があるらしい。ジムカーナの経験がほとんどないモティと僕が、見事ゴールにたどり着けるのか? しかもここだけの話、モティは編集部(いや、業界)きっての方向オンチといううわさである。ミスコースで二人とも記録なし、という状況だけはなんとしても避けなければ……。
ジムカーナの朝は早い
イベント当日の9月5日。“Team webCG”の選手二人は朝6時に編集部に集合、一路、富士スピードウェイを目指す。休日の早朝だけに、東名の下りはペースが遅く、そのせいか車内にはのんびりしたムードが漂っている。しかし、サーキットに着くと、これでもかっ! というくらい集まったやる気満々の車両(ランエボ、インプレッサ、MR2、インテグラ・タイプRなどが目立つ)を見て、がぜんテンションが高まった。この日はJMRC神奈川ジムカーナシリーズと関東ミドルシリーズとが併催になったため、いつもの約3倍! なんと150を超えるエントリーとなっていたのだ。そのうちの10人が「KEVクラス」と呼ばれるEVクラスの参加者である。
さっそく参加受付を済ませ、受け取った書類を確認すると、本日のコース図が出てきた。
「なんじゃこりゃあ!?」
スタートからゴールのあいだに置かれるパイロンは11個。これらを縫うように描かれるラインがあまりに複雑なのだ。そもそもコース図上でたどるだけでも一苦労。そんな難解なコースを、短時間で頭に叩き込めというのか! 無理、覚えられない……。このときばかりは、ジムカーナに参加したことを後悔、モティを残して逃げ出そうと思ったほどだ。しばらくぼうぜんと立ち尽くしていると、「まもなくコースオープンです」のアナウンスが耳に入る。走行前に徒歩でコースを確認する「慣熟歩行」の時間である。
コースに出てみると、コース図と実際のパイロンの位置関係が微妙に違っていて、ますます頭が混乱する。モティの表情も険しい。本当は(方向オンチの)モティにアドバイスする立場の僕なのに、申し訳ないが精神的にそんな余裕なし。1周したところで、コースは全然頭に入らない。そこで僕は歩くのをやめ、コース図と実際のコースをにらめっこすることにした。一方、モティはコースを3周した。
慣熟歩行が終わると、モティが紙にパイロンの位置を写していた。
モ:これでコースを確認するので、見ててもらえますか?
生:オーケー。それじゃスタート!
モ:サー、サー……(コースをなぞる音)
生:いいぞっ!
モ:サー、サー……
生:もう一息!
モ:ゴール! どうですか、あってました?
生:パーフェクトだよ。
最後は走ってコースを確認したというモティ、その努力は報われそうだ。まずはひと安心だ。そうなると問題は僕である。モティに促されて僕も紙上で“疑似走行”してみたが、モティほど速く進めないし、何度か“ミスコース”しそうになった。これは立場上、かなりマズイ状況である。
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“ふつう”のi-MiEVで限界に挑む
ところで、今回のジムカーナに使うのは、ふだん三菱が取材用に貸し出している、いわゆる“広報車”のi-MiEVである。ジムカーナに参加するにあたっては、フロアマットや不要な車載品を降ろしてはいるが、車両自体はノーマルのままで、とくにジムカーナ用に改造しているわけではない。さすがにコースを走ればタイヤは傷むが、それ以外はあまりお金をかけなくても参加できる(勝てるかは別)というのが、ジムカーナのいいところだ。しかも、サーキットを走るのに比べると、クラッシュの心配も少ない。実際、この日のクラッシュは150人中1件だけ。この安心感が初心者にはうれしい。
そうこうしているうちに、1回目の走行が近づいてきた。Team webCGは、1台のi-MiEVを二人で使用する「ダブルエントリー」で挑むことに。だからボディに2枚のゼッケンが貼ってある。40番がモティで、43番が僕だ。先に走るのはモティ。
生:ミスコースさえしなければ、どんなに遅くてもタイムは残るから、1本目は慎重に行こうぜ!
モ:わかりました!
僕よりもモティのほうが落ち着いている。どうやら本番に強いタイプらしい。
ほどなくモティの40号車がスタート。スピードは控えめだが、そのぶん実に丁寧でスムーズにパイロンをクリアしていく。パイロンの手前で迷うそぶりもない。あ、あともう少し。そうそう。そこを回ればゴールだ。うぉー、完走だ! 方向音痴のモティだが、実はビリヤードの名手という一面を持っている。
生:ビリヤードってテーブル上の状況を常に俯瞰(ふかん)でとらえてるの?
モ:そういわれると、そうですね。
生:その能力が、コースの把握に役だったのかな?
モ:それはないと思いますよ(笑)。
それにしても、あっぱれモティ! こうなると僕も負けてはいられない。バトンタッチされたクルマの運転席に陣取り、センターパネルに貼ったコース図をもう一度確認する。そうそう、トラクションコントロールをオフにしないとね。ついでにエアコンもオフだ(あとで聞いたら、ガソリン車と違い、このi-MiEVはエアコンがオンでもタイムは落ちないらしい)。
そして、いよいよ僕がスタート。ぶっつけ本番で乗るi-MiEVだが、シフト操作が不要なので、運転に集中できるのがせめてもの救いだ。さっそく最初のターンが迫ってきた。ミドシップとはいえアンダーが強いから確実にブレーキング。そして、ステアリングを切り込んでいく。重心が低いので安心して曲がれるが、たしかにアンダーは強い。自慢の加速を生かして次のターンを目指す。本当はもっとアグレッシブに行きたいけれど、今回はミスコースしないことだけを考える。万が一ミスコースすると黒旗が振られるはずだが、視界に入るオフィシャルに動きはない。このままなんとかいけそうだ。そしてスタートから1分48秒後、ついにゴール! チェッカーフラッグを受けた瞬間、あまりのうれしさに涙が出そうになった。
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新チーム結成へ
1回目の走行が終わり、掲示板をチェックすると、43番の僕がトップで、40番のモティが3位。
モ:とりあえず、二人とも表彰台ですね!
生:安心はできないけどな。2回目はもう少しタイムを縮めたいよね。僕は1分40秒を切るのが目標。
モ:僕はまだ全然踏めてなかったし、あと5秒は簡単にタイムアップできると思います。1本目の後半でミスコースした塚本奈々美(ベストカーチーム)さん、前半は僕より速かったから、このままじゃ抜かれるかもしれません。
生:なにか秘策はあるの?
モ:後半のタイトコーナーで、サイドブレーキを引いてみます!
生:えっ、サイドブレーキターンできるの?
モ:わかりません。でも、(パリダカで優勝した)増岡 浩さんがやってみろって。
なんて大胆なモティ! 一方、僕の戦略は、1本目はミスコースばかりに気を取られて、走る・曲がる・止まるの基本がおろそかになってしまったから、タイトコーナーではアンダーを抑え、高速コーナーでは目一杯踏んで、コツコツとタイムアップを狙うつもりだ。コースをすっかり覚えた(はずの)二人は、この頃には、すっかり緊張がほぐれていた。
しかし、甘い期待とはうらはらに、Team webCGの野望はあっけなく打ち砕かれることになる。
まずはモティ。1本目よりも勢いよくコースに出て行く姿にたくましさを覚えたのもつかの間、20秒もたたないうちにミスコース。すぐに黒旗が出されてしまう。僕は僕で、1本目よりも確実にコーナリングスピードが上がり、いよいよ中盤というところでまさかの黒旗。いったいどこでミスしたのかわからないまま、コースを去ることになったのだ。それでも、モティは3位をキープ。トップ争いは、2位の竹平素信選手(ベストカーチーム)が追い上げを見せ、タイムでは僕を上回ったものの、痛恨のパイロンタッチで5秒のペナルティを食らったため、かろうじて僕が逃げ切るかたちとなった。
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なんとか表彰台に立った二人だが、うれしさよりも悔しさのほうが強くこみ上げてきた。
生:完走したら、二人とも絶対タイムアップできたのになぁ。
モ:サイドブレーキターン、試したかった……。
生:もう1回走りたいよ。
モ:ホント、くやしいですね……。
生:僕たち“黒旗ブラザーズ”。
モ:リベンジしましょう
生:よし、Team webCG改め、Team Blackflags(黒旗)結成だ!(苦笑)
正直なところ、僕(たち)の腕前はガソリン車で参戦している人たちにはまだまだ水をあけられているが、道具が何であれ、勝負にかける意気込みや、負けたときの悔しさは変わらない。EVジムカーナで火がついてしまった二人のモータースポーツ熱。華麗なサイドブレーキターンを決め、他のクラスの強豪たちにタイムで迫る日は来るのか? Team Blackflagsのリベンジはここから始まる(かもしれない!?)
(文=生方聡/写真=荒川正幸)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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