トヨタ・ノアSi G's バージョン・エッジ 8人乗り(FF/CVT)【試乗記】
やるな トヨタ 2010.09.16 試乗記 トヨタ・ノアSi G's バージョン・エッジ 8人乗り(FF/CVT)……364万9200円
「操る楽しさ」を掲げるミニバン、「ノア G's」に試乗。ベースモデルの親しみやすさと、G'sらしい走りへのこだわりは、どんなレベルで融合した?
メーカー純正チューンドカー
ミニバンの走りが退屈だったのは、もはや昔のハナシ。「低重心プラットフォームによる、安心・快適で質の高い走り」(日産エルグランド)、「統一感のあるリニアなドライビングフィール」(マツダ・プレマシー)といった具合に、いまや多くの新車が走りの良さを売りものにしている。そして実際に運転してみても、それなりに“手ごたえ”を感じさせるクルマが増えた。これじゃあ、スポーツセダンの立つ瀬なしってもんである。
そんな中でも「ノア」と「ヴォクシー」のG's(G SPORTS)は、その成り立ちが非常にユニークだ。クイックな操舵(そうだ)感を実現したければ、スプリングとダンパーを締め上げて、スタビライザーを強化して、グリップ力の高いタイヤを装着するのがなによりの近道。
しかしノア/ヴォクシーでは、なんとフロントドア開口部や床下のスポット溶接を増設するところまで立ち戻っている。しかる後にノーマル比で約30mmダウンの専用ローダウンサスペンションを装着するという、ラリーカーもかくやの凝った内容なのだ。
さらに今回試乗した、よりチューニング度の高い「バージョン・エッジ」という仕様では、サスペンションとタイヤの性能をフルに引き出すためにフロアの前後に補強材が装着され、同時に走行安定性の改善を目的にフロア下にさまざまな空力パーツが追加されている。ミニバンにかぎらず、ここまでこだわった量産車はそうあるものではない。
もっとも、ここまでイジってしまうと、ミニバンにおける主役の快適性は保たれているのか、ちょっと心配になる。ミニバンにおける主役とは、ドライバー以外の乗員たちのことだ。
こんなミニバン、ほかにない
赤い“霜降り”模様のシート表皮はG'sの専用。ピアノブラック仕上げのセンターパネルと、ステアリングとシフトノブに施された赤いステッチも専用である。派手だ、という意見もあるかもしれない。しかしこの内装から中身のこだわりようが想像できるかどうか、という意味においては、決して派手すぎないモディファイだろう。ピアノブラックから、まさか“スポットの増し打ち”など連想しないだろう。
走り出すと、やはりサスペンションが標準タイプと比べて締まっていることがすぐにわかる。ロール剛性が高く、操舵とともにボディがゆらゆらと傾くこともない。シャキッとしている。しかし、不思議なことに乗り心地が悪くないのだ。目地段差を通過してもガツンと角のある突き上げを伝えてくることもないし、開口部の多いワゴンボディがブルッと震えを残すこともない。いや、「ない」「ない」と回りくどい言い方などせずストレートに言ってしまうと、相当に乗り心地がいい。これにはちょっと感心させられた。
ステアリングはとても正確で、切り始めからレスポンスがクイック、かつダイレクトだ。S字コーナーで、この手の車高が高いクルマにしては異例なほどヨーダンピングがよく、山道におけるフットワークが軽い。しかもピーク値だけが突出した速さ、みたいなものではなく、ドライバーがクルマの挙動を把握しやすく、いうなれば“クルマとの対話”が立派に成立するので、運転していてとても楽しい。こんなミニバン、ほかにはちょっとない。やるなトヨタ、の感あり。
みんな納得の乗り心地
スポーティなクルマの乗り心地の評価というのは簡単ではない。クルマを操るドライバーと、乗せられるだけのパッセンジャーでは心地よさの尺度にズレがあるぶん、意見がしばしば割れるからだ。
そこで今回はパッセンジャーが主役のクルマなので、リアシートや助手席のインプレッションも積極的に行ってみたが、G'sは両者の意見が割れない貴重なクルマだと感じた。ロールの抑制が効いているので、上半身の移動量が少なく、リアシートで揺られていても、なにやらだいぶ楽なのである。
また、高速道路でも無駄な挙動が少ないおかげで、ボディがフラットに保たれ、とても快適。要は、しっかり作り込まれたスポーティカーであれば、ドライバーとパッセンジャーの間で乗り心地の評価は割れないようである。
安全技術や情報技術も大切だけれども、トヨタにはこういうクルマ好きを増やすであろう“最新技術”を、今後もどんどん投入してほしいものだ。
(文=竹下元太郎/写真=荒川正幸)

竹下 元太郎
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