BYDシール(RWD)
攻めの電動セダン 2024.08.07 試乗記 中国BYDの日本導入モデル第3弾となる「シール」のRWD車に試乗。従来の電気自動車(BEV)よりもリーズナブルな価格設定や、ガジェット感あふれるインテリアが自慢のDセグメント電動セダンは、どんな仕上がりなのか。ロングドライブに連れ出して確かめた。価格はドイツ製EVのおよそ6掛け
2022年7月に日本参入を発表したBYDは、猛烈な勢いで日本市場に攻め込んできている。参入会見の場で明かされた「2025年に100店舗以上」という正規ディーラー整備計画も、この2024年夏の時点で55店舗に達しているという。日本向け1号車としてCセグメントクロスオーバーの「ATTO 3」が2023年1月発売されて以降、同年9月にBセグメントハッチバックBEVの「ドルフィン」、そしてこの2024年夏にトップモデルとなるシールが加わり、わずか1年半ほどの間に、大・中・小の3モデルがそろった。
今回のシールは、欧米輸入車でも定番のDセグメントセダンで、これももちろんBEVである。シールの車体サイズからモーター出力、電池容量、一充電あたりの航続距離、0-100km/h加速、さらには後輪駆動と四輪駆動という選択肢……まで、その主要スペックは、たとえばBMWの「i4」とドンピシャといえるほど近い。
それでいて、試乗したRWD車で528万円というシールの本体価格は「i4 eDrive40」より346万円安い。4WDにいたってはシールが「i4 M50」より455万円も安い。さらに、最初の1000台は33万円安い特別価格(にETC車載器やドラレコ、メンテナンスプログラムなどもつく)で提供される。
まあ、クルマというもの、しかもこのクラスともなれば“安ければ売れる”わけでもないが、シールの価格設定は素直に驚くレベルにある。
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分かりやすく高級な雰囲気
シールはショートノーズ、ロングホイールベース、ビッグキャビン……という、いかにもBEV専用らしいプロポーションが特徴だが、エクステリアデザインも素直にカッコいい。BYDの現デザイン責任者は、アルファ・ロメオやセアト、ランチア、ランボルギーニを含むアウディグループでチーフデザイナーやデザイン部長などを歴任したドイツ人のウォルフガング・エッガー氏である。
シールのような加飾を排してカタマリで見せるデザインには車体の品質も不可分だが、シールはパネルのプレスも精緻で、パネル間のスキ間もせまく均一だ。BYDは日本の金型メーカー、TATEBAYASHI MOULDINGを2010年に傘下に収めており、その技術力がシールにも生かされていることは想像にかたくない。いかにも頑強そうな鋳造部品のドアヒンジなど、細部の設計もていねいだ。
シール=アザラシの名のとおり、エクステリアデザインは海洋生物をイメージしているというが、インテリアでも海洋生物というか、“水”を思わせる曲線を多用している。ATTO 3やドルフィンに続いて、シールでもインテリアデザインを描いたのは、メルセデス・ベンツ出身のミケーレ・パガネティ氏だ。
デザイン的意図か技術的限界かは分からないが、インテリアの樹脂部品は、ものによって、500万円以上のクルマとしては成形が甘い印象がなくはない。ただ、ダッシュやドアトリムにはレザーやスエードがはられて、グローブボックス内側には起毛処理も施される。シート表皮は高級なナッパレザーで、中央には15.6インチという巨大ディスプレイが鎮座(もちろん、BYDのお約束である電動回転式)しており、分かりやすく高級な雰囲気はある。
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まだ煮詰まってはいないが……
シールの動力性能は、このサイズのBEVとしては特別に高くはないが、高速でアクセルペダルをひと踏みすれば、あっという間に120km/hに達する。いかにもBEVらしい強力さだ。車体剛性感は印象的なほど高く、少なくとも普通に遭遇するシチュエーションでは、ほとんどミシリともいわない。走行中のロードノイズも気にならず、静粛性は文句なしに高い。サスペンションの調律はけっこうソフトで、低速ではフワリと快適だ。そのいっぽうで、BEVならではの低重心が効いているのか、その柔らかさのわりに上下動は小さい。
……と、シールは普通に使うだけなら、十分に快適で、十二分に速い。車体剛性や静粛性、動力性能など、数値で表現できる機能・性能は、日欧のクルマと比較しても大きくは引けを取らない。
ただ、さらにその先の、細かな味わいや乗り手に伝える安心感の部分では、欧米車や日本車ほど煮詰まっていないのも否定できない。
たとえば、アクセルペダルをあえて粗雑にあつかっても、ギアのバックラッシュに起因するとおぼしきショックが伝わってこないのはいい。しかし、そのぶん加減側だけでなく、アクセル緩めたときの回生ブレーキ側の両方にけっこう明確なラグが生じている。この種のラグはBEVには多かれ少なかれ存在する宿命だが、シールのそれは明らかに大きい。
また、そのラグの後に訪れる加速特性も、どこか他人行儀だ。つまり、リニア感に欠ける。パワートレインには通常モードのほかに「エコ」や「スポーツ」、あるいは回生ブレーキにも「ハイ」と「スタンダード」といったモードが用意されるが、それらをいろいろと選んで組み合わせてみても、全体に一体感に欠ける。回生ブレーキはハイの状態で、やっと平均的なレベルで、他社BEVで一般的なワンペダルドライブ的なモードはない。そうでなくても、もう少し回生が強いモードがあれば、より扱いやすくなると思う。
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これだけのモノがこの値段
高速道でも110km/h前後までは直進性にも文句はないが、それ以上ではステアリングの接地感がはっきりと薄れて、レーンチェンジでの挙動もおおげさになる。山坂道でもゆっくり流すだけなら普通に走る。しかし、操舵したままアクセルペダルを踏み込むようなメリハリをつけた運転をすると、フロント荷重が抜けた瞬間に途端に接地感が薄まったりする。荷重移動や横Gがステアリングから感じ取れないので、クルマを全面的には信用しづらい。今回の試乗車は後輪駆動だったが、コーナー出口で加速態勢に入ると、縦方向と横方向の動きが交互に出てギクシャクするのが気になった。
市街地や、高速の80km/h~100km/hまでなら快適でよく走るシールだが、それ以上の領域での、ステアリングや挙動の一貫性が不足している。もっとも、こうした“機微”の部分は、昭和から平成初期までは日本車もさんざん指摘されていたから、経験値を積んでいくしかないのだろう。ただ、BYDの内外装の仕上げ品質や剛性感、デザインの急速な進化、そしてシミュレーションなど最新の開発技術のすごさを見るに、この分野でのキャッチアップも、当時の日本車ほどの時間は要しないと思われる。
82.56kWhの電池残量が7割ほどの状態で大黒PAの90kW急速充電器を使ったところ、約25分で100%の満充電となった。シールは自社製リン酸鉄リチウムイオンバッテリーを積む。リン酸鉄は国産BEVが好んで使う三元系のそれより、出力やエネルギー密度、充電性能で不利とされるが、シールの走りや航続距離、急速充電性能を見るかぎり、現実には不足をまるで感じない。まあ、クルマそのものの耐久性や長期的信頼性は、(かつての日本車や欧米車がそうしたように)BYDにも腰を据えて証明していただくしかないが、一般論として、安全性や耐久性ではリン酸鉄は三元系より有利とされるのもまた事実だ。
BYDがいかに攻めているとはいえ、BEVであることや中国という国のイメージもあって、日本で簡単に普及するとは考えにくい。ただ、これだけのモノがこんな値段で売られていたら、少なくとも中国に特別な感情をもたない市場では、そこでビジネスをしている日本車にとって脅威というほかない。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
BYDシール
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4800×1875×1460mm
ホイールベース:2920mm
車重:2100kg
駆動方式:RWD
モーター:永久磁石同期式電動モーター
最高出力:312PS(230kW)
最大トルク:360N・m(36.7kgf・m)
タイヤ:(前)235/45R19 99V XL/(後)235/45R19 99V XL(コンチネンタル・エココンタクト6 Q)
一充電走行距離:640km(WLTCモード)
交流電力量消費率:148Wh/km(WLTCモード)
価格:495万円/テスト車=495万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:3715km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:447.1km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:5.9km/kWh(車載電費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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