第954回:イタリア式「走ったぶんだけ保険」奮闘記
2026.03.26 マッキナ あらモーダ!リッターあたり、ついに400円突破
2026年3月、イタリアにも中東情勢の影響で原油高騰の波が押し寄せている。筆者が住むシエナ県内の給油所を見ると、3月19日のガソリン価格はセルフサービスでリッターあたり1.8ユーロ(約330円)を超え、フルサービスでは2ユーロ(約370円)台に突入した。平常時からガソリンより高価に設定されている軽油も、セルフで2ユーロ超えが続いており、フルサービスだと2.3ユーロ(約420円)に至っている。
目下日本では、備蓄の放出によって近いうちにガソリン価格が170円程度に下がると報道されている。それと比較した場合、ユーロ高の影響もあり2倍近い金額を払っていることになる。
イタリアでは3月18日、燃料の付加価値税を暫定的に低減する政令を内閣が可決した。ジョルジャ・メローニ首相は、これにより燃料価格をリッターあたり25ユーロセント(約45円)引き下げることが可能と発言している。
こうした燃料事情に加え、実はこの3月、わが家のクルマ生活にはもうひとつ頭痛の種があった。何かというと……。
そうだ、走行距離連動型があった
自動車保険である。毎年、この時期に満了となるのだ。参考までに、イタリアには日本にあるような保険の自動更新制度はない。業界内の競争を活性化するため、2013年に廃止されたのである。満了後は自動的に失効するから要注意だ。
わが家のクルマは1.9リッターディーゼルの小型車である。従来加入していたインターネット申し込み型損害保険会社の見積もりは、年間251.80ユーロで、これは前年とほぼ同額である。
ただし、わが家の家計は主に日本からの収入で支えられている。2025年2月の円ユーロ相場は約155円。上の保険料を換算すると、約3万9000円で済んだ。ところが最新のレートで計算すると約4万6000円で、実質7000円も値上がりしてしまったことになる。イタリアに住んで以来、幸い無事故であることから、日本でいうところのノンフリート等級は最も高いのに、とほほである。
そう悩んでいるとき、ふと脳裏をよぎったのは「走ったぶんだけ」という日本の保険会社の広告である。さっそくイタリアにもあるのか調べてみることにした。一括の見積もりサービスなどしようものなら直後からセールス電話とショートメッセージの嵐にさらされるので、生成AIを使って検索する。
すると、唯一ビーレベル(BeRebel)という保険会社が2022年から走行距離連動型を提供していることが判明した。ベンチャー系企業かと思いきや、イタリア屈指の総合保険会社、ウニポールの新ブランドであった。
車検や定期点検時の控えを掘り起こし、わが家の年間走行距離を計算してみると、5300km前後である。月に換算すると400kmちょっとだ。ここ数年の燃料高騰と大都市間の特急列車網の拡充から、取材も含めて移動におけるクルマの使用頻度が減った結果といえる。
さっそく、ビーレベルの公式ウェブサイトにPCから必要な情報を入力してみる。イタリアでは車両情報が民間にも広く共有されている。そのため、どの保険会社のウェブサイトでも登録番号標、すなわちナンバープレートの記載を誕生日などと一緒に入力するだけで、即座に見積もりが出る。
筆者のクルマの場合、基本料金は200kmまで月払いで14.95ユーロ(約2740円)。それを超えると1kmあたり0.0308ユーロ(約5.6円)だ。基本部分を円換算すると1年で約3万3000円である。燃料高騰の昨今、超過部分を使ってしまうほどクルマの使用頻度が上がる月は少ないだろうし、なにより一度の出費が減らせるのがありがたい。ちなみに筆者の場合、年間走行距離を1万kmに設定し直しても料金は変わらなかった。
走行距離を測定するGPS車載機の保証金(解約時に返金)が25.37ユーロ(約4700円)というサプライズはあったものの、必要な入力をすべて終え、リターンボタンを押すと「購入完了。保険証券をメールでお届けします」というメッセージがPC画面に表示された。
ところが、ここから予期せぬ障壁が次々と立ちはだかった。
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「きわめて簡単」というものの
まずは、Eメールで来るはずの保険証券が翌日になっても届かないのである。
ビーレベルの公式サイトを読むと、加入後は基本的にスマートフォンのアプリケーション(アプリ)操作が原則である旨が記されている。そこでさっそくダウンロードしようとしたところ、接続できない。これは他のアプリでもよくあることだが、筆者の「iPhone」のApp Storeが日本の住所で登録してあるからだった。ということで初めてイタリアの住所も登録。ようやくダウンロードできた。後日判明したことだが、アプリのアップデートのたびに日→伊を切り替えなければならないのも厄介である。
さらに、PCによる申し込み時にクレジットカード払いを選択したのに、カード会社から引き落としの自動通知が届かない。サイトには、「契約は即座に有効で、GPS機器が届く前は独自の日割り保険料を適用するので、すぐ運転してもよい」との説明があるものの、やはり心配である。
心配になって問い合わせのメールを送信しても、あなたに届くメールを確認せよというAI生成っぽい返信のみだ。こういうときネット完結型保険は不安になる。かといって、街角の保険代理店だと、同じ補償内容でも保険料が2倍もしくは3倍になるのが通例だ。思い出せば、かつてそうした店に駆け込んだとき、社員から「ネットのほうが安いわよ」と諭された。私の風体が有力顧客候補に見えなかったのだろう。
絶望の縁に立ちながらも「もしや」と思い、筆者の登録メールアドレスを.co.jpのものから、.comのものに変えてみた。すると、それまでがうそのように保険証券を添付したメールが届くようになり、アプリも動き出した。
他者のスマートフォンのカメラで読み取ると、保険証券が表示される2次元バーコードも、スマートフォンのウォレットに入れることができた。これは紙よりも紛失の心配がなく安心だ。
さらにカード会社からの引き落とし通知が来ないのは、初回ぶんはGPS機器保証金とあわせて、月末払いのためであることが判明した。
機器は契約締結から2日後、市内のタバコ屋さんに届いた。自宅を指定しなかったのは、運送業者の集配ポイントである商店受け取りを選ぶと配達料金が無料だからである。
受領後さっそく、「スーパーイージー」と印刷された箱を携えてスーパーマーケットの駐車場にクルマを運転していった。広く、明るいので作業がしやすいと考えたからである。
開けてみると、機器は厚めのモバイルバッテリー、もしくは外付けポータブルHDDほどの大きさだった。そこまではよかったが……。
涙の不等号
赤と黒のコードが延びているではないか。日本で同様のサービスを提供している保険会社のもののように、ダッシュボード下側にあるOBDコネクターに差し込むだけと思い込んでいた筆者は、たちまち当惑した。
説明書を見ると、機器を付属の粘着テープでバッテリー上部に固定し、プラスとマイナスの電極につなぐ必要があるという。説明書には「10mmのスパナが必要」と平然と書いてある。公式ウェブサイトには、さも簡単に取り付けられるかのように記されているのに。全然スーパーイージーではない。エンジンルームすら開けたことがない人はかなりビビるだろう。
慌ててYouTubeでイタリア人ドライバーたちの使用リポートを閲覧すると、皆バッテリーの電極にスパナを使って取り付けている。ついでにいうと、ビーレベル用GPS機器は、サービス開始以来すでに数種が出回っているとみた。初期のものには本体に矢印が記されていて、進行方向に合わせて粘着テープで貼り付ける必要があったようだ。しかし筆者のもとに届いたものは、水平であれば向きは自動検出される改良型だった。
スーパーマーケットの近くにあるホームセンターで見たところ、10mmのスパナは日本円にして800円近くした。日本ならいわゆる“100均”で買えるかと思うとばかばかしい。懇意にしている修理工場で貸してもらうことも考えたが、腕時計を見るとプランツォ(昼休み)の時間だった。再開するのは2時間後だ。
そこでわが家にいったん戻ってみたら、あったあった。四半世紀以上前、初めてイタリアで買った初代「ランチア・デルタ」のものだ。手放すときすでに廃車決定だったことから、車載工具キットを頂いておいたのだ。しばらくしみじみしたあと、クルマに戻りバッテリーの電極を緩めてスーパーイージーの接続を試みること5分。「作動開始しました」のショートメッセージがスマートフォンに届いた。
契約から本稿執筆時点までで11日が経過したが、まだ6kmしか走っていない。したがって目下、この保険が筆者のクルマ使用パターンに適切なのかは判定できない。だが、走行距離連動型であることから「クルマでなくても行ける圏内は極力歩こう」という、健康上のよいモチベーションになることはたしかだ。実際、郊外のディスカウントスーパーでドーンと1週間ぶんを買いだめするのが常だった筆者だが、ここ数日は徒歩圏のスーパーマーケットにこまめに出向き、日々の食糧を少しずつ買うようになった。
ふと、アプリを見ていて気になる数字を発見した。「<500ユーロ」と不等号をともなって記されている。なんのことかと思い説明をよく読んだら、筆者のクルマの現状査定価格であった。先に述べたユーロ高の恩恵をもってしても9万円以下とは。思わず涙がこぼれたのであった。
(文=大矢アキオ ロレンツォ<Akio Lorenzo OYA>/写真=大矢麻里<Mari OYA>、Akio Lorenzo OYA/編集=堀田剛資)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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