MINI E(FF)【試乗記】
電気との相性もマル 2010.08.27 試乗記 MINI E(FF)ゴーカート的な運転の楽しさを掲げるMINIの走りは、将来、“電動”になっても変わらないのか!? 開発試作車を公道で味見してきた。
後席と引き替えに得た航続距離
今、世界ではパワートレインの電気化の動きが急だ。何しろ自他ともに認める“エンジン屋”たるBMWまでもが、ハイブリッドのみならずフルEVの計画を立ち上げ、目下開発に邁進(まいしん)しているのである。
「MINI E」は、そんなBMWが開発したEVの試作車である。世界各地で都市部でのEVの使われ方に関する公道実証実験に使われている、このMINI Eには実は市販の予定はないのだが、その走りっぷりがどんなものかは気になるところだろう。何しろMINI E、スペックを見ると前輪を駆動する電気モーターは、定格出力150kW(204ps)、最大トルク220Nm(22.4kgm)を発生し、0-100km/h加速を8.5秒でこなすと記されているのだ。
外観はテールパイプがないこと以外、見慣れたMINIそのものだが、室内の景色はまったく違っている。本来リアシートがあるべき部分が最大240kmの航続距離を可能にする大容量のリチウムイオンバッテリーでつぶされて、完全な2シーターとなっているからだ。テールゲートを開けると現れる荷室も、やはり小さめである。
ガツンときく“デンブレ”
他にも、ステアリングポスト上の回転計がバッテリー残量計に変わっていたり、速度計の中には電気エネルギーの使用/回生の状態を示すインジケーターが備わったりと小さな違いはあるが、しかし操作系についてはそのままで変わりはない。よって、ごく普通に走り出すことができるのだが、それだけに路上に出て最初にアクセルペダルを踏み込んだ時には、きっと大きな驚きに見舞われること請け合いだ。
何しろその出力、そのトルクである。しかも電気モーターの特性で、回転が始まるのとほぼ同時にその最大トルクが発生されるのだから、スタートダッシュは強烈。バッテリーなどによって車重が1450kgまで増えているにも関わらず、まるでウィリーしそうなほどの勢いで加速が始まるのだ。この時、ステアリングに余計な力など入れていようものなら、強いトルクステアに見舞われて車両が蛇行を始めてしまうほどである。
けれど、慌ててアクセルを緩めてはいけない。実はMINI Eのアクセルペダルは踏めば加速するだけでなく、離すと回生ブレーキが働く。効きは強力で、うまく使えば発進から停止まで、ブレーキペダルに触れることなくすべて右足の動きだけで済ますことができるほどだ。大きな制動力が出ている時には、ちゃんとブレーキランプも点灯する。ブレーキペダルを踏めば通常の油圧ブレーキが働くが、その際には回生はキャンセルされてしまうので、走行距離を稼ぐには、このアクセルペダル……あるいはスピードコントロールペダルをうまく使うことだ。
2013年のお楽しみ
そんな調子なのでドライバビリティは決して良好とはいえない。先述のようにEVの使われ方に関するデータ取りが任務のMINI Eは、実は開発は外注で、BMWの走りのノウハウはそれほど込められてはいないのだ。しかしヤンチャな走りっぷりも許せてしまうのは、これがMINIだからだろう。車重はかさむもののフットワークにはちゃんとゴーカートフィーリングが残されているから、ペースも思わず上がる。EV=遅い、退屈なんて先入観があったとしても、乗れば一瞬で忘れてしまうに違いない。
しかし残念ながらこのMINI Eには市販の予定はない。ここで得られたデータは2013年デビュー予定の「メガシティヴィークル(MCV)」と呼ばれるカーボンファイバーを用いた軽量ボディに、後輪駆動の電気モーターを組み合わせた都市型EVに反映されることになる。
そして実は日本でも、2011年にはこのMINI Eを用いた公道実証実験が開始される予定だ。これはMINI Eをユーザーの手に委ねて一定のあいだ実際の生活の中で使ってもらい、その走行データなどを収集するというもの。先に実験の行なわれたロンドン、ベルリン、カリフォルニア、ニューヨークなどで、すでに広範なデータは得られているはずだが、慢性的に渋滞し、しかもクルマは一家に1台の所有が一般的な日本の都市部で、果たしてEVが受け入れられるのかはBMWとしても興味深いところなのだろう。
つまり試作車だけにしておくのはもったいない、何とも愛すべきこのMINI Eにユーザーが実際に乗って、使うことができるチャンスもありそうなのだ。詳細は未定だが、今から楽しみである。
(文=島下泰久/写真=小林俊樹)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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