MPVの新たなベンチマークか? メルセデス・ベンツの新型電動ミニバン「VLE」を分析する
2026.04.23 デイリーコラムメルセデスが高級電動ミニバンを発表
メルセデス・ベンツは2026年3月10日に3列シートを持つフル電動ミニバンの「VLE」を世界初公開した。スケーラブルで柔軟性の高い新開発のバン専用アーキテクチャー「VAN.EA」を初めて採用したモデルで、容量115kWhのバッテリーを搭載(実使用容量は80kWh)。0.25の空気抵抗係数(Cd値)もあいまってWLTPモードによる一充電走行距離は700km以上と発表されている。リムジンのような乗り心地とMPV(マルチパーパスビークル)の汎用(はんよう)性を持ち合わせているのが特徴という触れ込みだ。
メルセデス・ベンツVLEのシート配置のバリエーションは多彩で、例えば、2+3+3席の8人乗り仕様の場合、2列目と3列目は用途に合わせて素早く、簡単に室内で移動し、固定することができる。シートは取り外しも可能。スーツケースのように小さな車輪が付いているので、ゴロゴロと転がして(つまり、持ち運ぶ必要がない)、ガレージの奥にしまっておくことができる。一方で、電動でシートアレンジを変更できる仕様も用意している。
VLEの一番のウリは、2列目に「電動グランドコンフォートシート」を備える仕様だろう(3列目は2人掛け、3人掛けが設定される)。両サイドに肘掛けがあるこのシートにはマッサージ機能が備わり、ふくらはぎをサポートするエクステンションが付いて、「追加の枕」と呼ぶクッションがヘッドレストに用意され、スマホのワイヤレスチャージングが備わる。まるで高級ラウンジから飛び出してきたようなシートだ。
VLEがライバル視しているのは、とくに中国で富裕層の移動手段やVIPの送迎などのシーンで活躍し、高いステータスを獲得している「トヨタ・アルファード」だろう。いや、アルファードの上をいく「レクサスLM」が仮想敵だろうか。VLEのラグジュアリーなムードや豪華な装備、先進的な機能を見ると、そんなふうに思えてくる。かつてはセダンの「Sクラス」が担っていたショーファーカーの現代的な解釈がVLEというわけだ。
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デスクワークもリモート会議も車内で
ミニバンのなかでも大きく見えるVLEのボディーサイズは全長×全幅×全高=5309×1999×1943mm、Sクラスは全長×全幅×全高=5180×1930×1505mm、電気自動車(BEV)の「EQS」は全長×全幅×全高=5225×1925×1520mmである。VLEは全長と全幅でSクラスやEQSよりひとまわり大きく、40cm以上も背が高い。SクラスやEQSに比べるとボンネットは格段に短いため、かなり大きな車内空間を持つことになる。
企業のエグゼクティブはクルマを単なる移動手段としてだけではなく、移動や停車中に着替えたり、打ち合わせをしたり、(タブレットやノートPCなども使いながら)書類に目を通したりする。その場合、ラージクラスのセダンよりも空間に余裕があるミニバンのほうが機能的だ。セダンではジャケットを脱ぐにも苦労するが、ミニバンなら余裕である。左右ともに電動スライドドアなので、狭い場所での乗り降りも(セダンより)しやすい。
VLEはルーフに内蔵された8Kの解像度を持つ31.3インチ(約79cm)のパノラミックスクリーンが2列目シートの目の前に展開する仕掛け。ワイドな画面を分割して使うことも可能。8メガピクセルのカメラを搭載しており、リモート会議に使うことも想定している。
エグゼクティブや大切なゲストに快適な移動を提供するのに、BEVはうってつけだ。エンジン搭載車に比べ、静粛性の面で圧倒的なアドバンテージがあるからだ。VLEは電子制御式エアサスペンションのAIRMATICを搭載しており、極上の乗り心地を約束する。大容量のバッテリーを搭載するのは、大切なビジネスアワーを充電によって中断しないためとも考えられる。電動コンポーネントは800Vの高電圧システムで構成されており、最大300kWの急速充電に対応。インフラ次第ではあるが、短時間で大容量の充電が可能となっている。
軸足はショーファーカーに置いているというのが筆者の見立てだが、VLEは汎用性の高さも持ち合わせており、(富裕層の)ファミリーもターゲットにしていることが、メーカーが発信している情報からうかがえる。この場合、31.3インチのパノラミックスクリーンは映画やゲームのスクリーンとして活躍することになる。「ハイ、メルセデス。シネマエクスペリエンスにして」と語りかけると、ルーフからスクリーンが降りてきて展開し、ガラスルーフのシェードやブラインドが自動的に閉まる仕掛けだ。
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豊かな空間づくりがラグジュアリーの価値
近年のメルセデス・ベンツ各モデルに共通する特徴でVLEも後輪操舵を搭載しており、3342mmのホイールベースがありながら、後輪が最大7度逆位相に切れることで、(メーカーの説明によれば)「CLA」に匹敵する5.45mの最小回転半径に収まっている。自らステアリングを握るオーナーとしてVLEを手に入れても、運転に苦労することはありませんよ、というわけだ。
このところ、にわかにBEVのミニバンブームが起きている。国内では2025年にフォルクスワーゲンが「ID. Buzz」を導入した。キアは「PV5」を2026年春(もう春ですね)に導入するとしている。ボルボは「EM90」を2023年に発表し、中国から導入を始めた。2026年中に日本にも導入する予定だという。
「最高レベルのプレミアムな体験を提供」するEM90は、中国から導入を始めた事実が示すように、VLEと同様、富裕層や企業のエグゼクティブ、5スターホテルに宿泊するゲストの送迎など、ショーファーカーとしての用途を見込んだモデルだろう。
一方、ID. BuzzとPV5はコンセプト的には商用バンの延長線上にあると考えられる。快適に移動できるだけの機能やクオリティーは備えているが、決してラグジュアリーではない。多人数とたくさんの荷物を飲み込める空間こそが最大の魅力だ。
トヨタは「ジャパンモビリティショー2025」で「レクサスLSコンセプト」を展示した。「LS」といえばラグジュアリーセダンの代名詞的な存在で、ショーファーカーとしても活躍しているのはご存じのとおり。そのLSの名を冠するコンセプトカーが、セダンではなくミニバンとして登場した。LSは「ラグジュアリーセダン」ではなく、「ラグジュアリースペース」を意味するのだという。
スペースの絶対的な大きさと豊かな空間づくりがラグジュアリーの価値を左右する世の中になってきた。価値観は変化し、高級セダンではなく高級ミニバンに乗ることが、もてなされる側のステータスにつながる時代。遅ればせながらではあるが、老舗ラグジュアリーブランドの威信をかけて送り出したのが、VLE。そう見えてしまうが、いかがだろう。
(文=世良耕太/写真=メルセデス・ベンツ・グループAG/編集=櫻井健一)
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世良 耕太
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