日産エクストレイル20GT(4WD/6AT)【試乗記】
いま一番いい日産 2010.08.23 試乗記 日産エクストレイル20GT(4WD/6AT)……361万2000円
オフロードが得意な日産車「エクストレイル」に、AT仕様のディーゼルモデルが登場。その走りと乗り心地を巨匠 徳大寺有恒が試した。
じつは熟練の仕事
松本英雄(以下「松」):約2年前に日本に導入された「日産エクストレイル」のクリーンディーゼルに、ようやくAT仕様が加わりましたね。
徳大寺有恒(以下「徳」):日本市場でMTだけということは、「いちおう出すけど、売る気はありません」って言ってるようなものだからな。ATの登場は売る側、買う側双方にとって喜ばしいことだろうよ。
松:どうでもいいクルマだったら、それこそどうでもいいんですけど、「エクストレイル」は出来がいいだけに、ATがないのが惜しまれましたからね。
徳: MTがデビューした際に試乗会で乗ってみて、あの走りにはちょっと驚いたものなあ。
松:珍しく巨匠が絶賛してましたよね。
徳: ディーゼルには一家言あるキミも褒めていただろう?
松:ええ。直4のディーゼルエンジンとしては、世界的に見てもワン・オブ・ザ・ベストだと思いました。
徳: 日産ってさ、ディーゼルに力を入れていたイメージはあんまりないんだけど、じつは1960年代半ばから、10年くらい前に規制が強化されて姿を消すまで、ずっとディーゼル乗用車をラインナップしてたんだよな。
松:そういえば乗用車用の直6ディーゼルエンジンを作っていたのは、日本では日産だけでしたね。
徳: そうだな。直6のLD28やRD28を積んだ「スカG」なんかは、ノンターボだったがけっこう走った記憶があるぞ。
松:そうですか。僕が乗っていた直4ノンターボのCD20を積んだ「U13ブルーバード」は、遅くて、振動も大きかったですけどね。
徳: ほう、そんなのに乗ってたことがあるのかい。
松:それも新車ですよ。まあ、安かったから買ったんですけどね。11万km走ったところでタイミングベルトが切れてオシャカになりました。あと、プレッシャーウェーブスーパーチャージャー(PWS)付きのディーゼルを積んだ「フォード・テルスターワゴン」も新車で買ったんですよ。
徳: あったなあ、そんなの。「カペラ」の姉妹車だよな。ロータリーに始まり、ミラーサイクルだなんだのと新しもの好きだったマツダらしいメカで、出た当初は話題になったが、尻すぼみに終わったんじゃなかったか?
松:ええ。走りは悪くなかったんだけど、細かなトラブルが多くて、いかんせん未完成の技術でしたね。燃費もあまり良くなかったし。ところで、巨匠はディーゼル車を所有されたことはあるんですか?
徳: ある。プジョーの「504D」。どうしようもなく遅くて、やかましくて、まいった。
松:「ヂーゼル」という表記がふさわしいような、古いエンジンでしたからねえ。それに比べたら、同じ直4ディーゼルでも「エクストレイル」のは夢のようですね。
徳: まったくだ。(笑)
最強のエクストレイル
徳: ATを出すのに2年近くもかかったのは、なぜなんだろう?
松:輸出仕様には以前からATが用意されていたんですが、そのままでは日本の排ガス規制「ポスト新長期規制」をクリアできないということでした。かといって規制をクリアしようとすると、今度はディーゼルのメリットのひとつである燃費が伸びない。ということで、双方を満足させるセッティングが難しかったようです。
徳: なるほど。エンジン自体は、基本的にMT仕様と同じだよな。
松:ええ。2リッターのターボディーゼルユニットは、ガソリンの3.5リッター級に匹敵する36.7kgmの大トルクを、わずか2000rpmという低回転で発生しています。
徳: すごいよなあ。昔だったら、大型トラック用の6リッターのディーゼル(ノンターボ)に近い数値だよ。
松:巨匠が常々言われているように、走りを左右するのは出力ではなくトルクですからね。もっとも173psという最高出力も、エクストレイルに用意されている2.5リッターのガソリン(170ps)を上回っているんですが。
徳: いずれにしろ、エクストレイルではこれが最強というわけだな。とはいうものの、動き出した瞬間のトルクが、MT仕様に比べてちょっと弱いような気がしたのだが。
松:僕もそう感じたので、日産のスタッフに尋ねてみたんですよ。すると、ガソリン車に慣れたドライバーにとっては、アクセルの踏み始めからグッと出るディーゼルのトルク特性はちょっと違和感を覚えるということで、あえてトルクの出方をマイルドにしてあるそうなんです。
徳: ふ〜ん。オレにはせっかくのディーゼルの魅力をスポイルしてしまっているように思えるんだがなあ。
松:ですよねえ。でも、MTが出た際のメディア向けの試乗会でも、ギクシャクして乗りにくいという声があったそうですから。
徳: そんなもんかい。しかしまあ、いったん走り出してしまえば、たっぷりしたトルクのおかげで余裕だな。ずぼらな運転を決め込むもよし、力強い加速を楽しむもよし。
松:静粛性や振動についても不満はないですね。前席だとディーゼル特有のエンジン音が少々聞こえますが、後席に座っていると、まったくといっていいほど聞こえません。
徳: スピードを上げても、風切り音が高まっていくだけという感じだな。
座ってよし走ってよし
徳: 「エクストレイル」はディーゼルエンジンもさることながら、乗り心地がまた素晴らしいんだな。
松:そうなんです。巨匠と僕が「エクストレイル」を高く評価しているのは、じつはこの乗り心地に負う部分が小さくないんですね。なぜいいのかは、よくわからないんですが。
徳: ひとつ言えるのは、出来のいいシートが貢献してるってことだな。たっぷりしたサイズといい、硬すぎず柔らかすぎないクッションの具合といい、しっとりとしたクロスの肌触りといい、シートは文句なし。
松:シートの掛け心地には定評のある、ルノーとのアライアンスの効果なんですかね?
徳: かもしれない。今までに体験した日本車のシートの中では、最高の部類に入ると思うな。
松:それどころか、現行の日産車のなかで、これがいちばん乗り心地がいいんじゃないかとさえ思います。
徳: じつはオレもそう思ってたんだ。それを確認するために、こんど借り出して長距離ドライブをしてみようかと考えていたところさ。
松:車重の関係なのか、ガソリン車よりも乗り心地がいいような気もするんですよ。機会があれば、比較検証してみたいですね。
徳: それもおもしろそうだな。
松:車重といえば、ガソリン車よりエンジンが重いぶんフロントヘビーになっているにもかかわらず、不思議とハンドリングも悪くないんですよ。重心の高いSUVだから、もちろん絶対的な限界は高くはないんですが、普通に走っているぶんには、思ったとおりのラインをトレースできる。とっても素直で自然なハンドリングなんですね。
徳: サイズも大きすぎず、小さすぎず、内外装もけれん味がなくて好感がもてる。現行の日産車のなかではベストチョイスかもしれないな。ところで、値段はどうなんだい?
![]() |
![]() |
松:このディーゼルの試乗車「20GT」は、約310万円。ちなみにガソリン車の同グレードは約260万円なので、およそ50万円の価格差があります。いっぽうレギュラーガソリンと軽油の価格差は約20円ですから、イニシャルコストの差額をランニングコストで埋めるには、相当な距離を走らなければなりません。
徳: 一般的なドライバーにとっては、それは現実的な考えじゃないな。ディーゼルを選ぶのは、トルクフルで余裕のある走りと、ゆったりした乗り味のためだろう。それだけの価値はあると思うよ。
松:そうですね。ホントにいいクルマだと思うんですが、じゃあ買う気はあるかといわれると、残念なことに僕のライフスタイルには、こうしたSUVは必要ないんですよ。
徳: それはオレも同じ。これを選ぶにあたっての、唯一にして最大の問題なんだ。(笑)
(語り=徳大寺有恒&松本英雄/まとめ=沼田亨/写真=峰昌宏)

徳大寺 有恒

松本 英雄
自動車テクノロジーライター。1992年~97年に当時のチームいすゞ(いすゞ自動車のワークスラリーチーム)テクニカル部門のアドバイザーとして、パリ・ダカール参加用車両の開発、製作にたずさわる。著書に『カー機能障害は治る』『通のツール箱』『クルマが長持ちする7つの習慣』(二玄社)がある。

沼田 亨
1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.11 新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。
-
NEW
MINIジョンクーパーワークス コンバーチブル(前編)
2025.10.19思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「MINIジョンクーパーワークス コンバーチブル」に試乗。小さなボディーにハイパワーエンジンを押し込み、オープンエアドライブも可能というクルマ好きのツボを押さえたぜいたくなモデルだ。箱根の山道での印象を聞いた。 -
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】
2025.10.18試乗記「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。 -
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】
2025.10.17試乗記「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。 -
スバルのBEV戦略を大解剖! 4台の次世代モデルの全容と日本導入予定を解説する
2025.10.17デイリーコラム改良型「ソルテラ」に新型車「トレイルシーカー」と、ジャパンモビリティショーに2台の電気自動車(BEV)を出展すると発表したスバル。しかし、彼らの次世代BEVはこれだけではない。4台を数える将来のラインナップと、日本導入予定モデルの概要を解説する。 -
アウディQ5 TDIクワトロ150kWアドバンスト(4WD/7AT)【試乗記】
2025.10.16試乗記今やアウディの基幹車種の一台となっているミドルサイズSUV「Q5」が、新型にフルモデルチェンジ。新たな車台と新たなハイブリッドシステムを得た3代目は、過去のモデルからいかなる進化を遂げているのか? 4WDのディーゼルエンジン搭載車で確かめた。 -
第932回:参加者9000人! レトロ自転車イベントが教えてくれるもの
2025.10.16マッキナ あらモーダ!イタリア・シエナで9000人もの愛好家が集うレトロ自転車の走行会「Eroica(エロイカ)」が開催された。未舗装路も走るこの過酷なイベントが、人々を引きつけてやまない理由とは? 最新のモデルにはないレトロな自転車の魅力とは? 大矢アキオがリポートする。