プジョー3008プレミアム(FF/6AT)【試乗記】
背は高くともプジョー 2010.08.19 試乗記 プジョー3008プレミアム(FF/6AT)……339.0万円
2010年6月に日本に導入された、プジョー初のクロスオーバー「3008」。個性の強さを身上とする、4けたプジョーのニューモデルはどんなクルマ? ベーシックグレード「プレミアム」を試した。
端正なモノフォルム
新しい「プジョー3008」、おしゃれで快活なライフスタイルを象徴するクロスオーバー車として、たぶん今ならピカイチだろう。ちょっとたくましい姿だから、かなりの悪路や雪道も平気で踏み越えられるが(ただし4WD仕様はない)、実際には颯爽(さっそう)と行動したい都会派にぴったりだったりする。
それにしても、アメリカから生まれて日本経由で最近ヨーロッパにまで伝染した「クロスオーバー」という呼び名は、けっこう解釈があいまいだ。まず快適な乗用車として合格で、ワゴンの便利さとSUVらしい多用途性も誇り、必要とあらばGTさながらの走りも可能という「なんでもあり」で、従来のどのカテゴリーに当てはめたらいいかわからないから、仕方なく付けた名称なのだ。クイズ番組で歴史とか文学とかの分類と別にノンセクションというのがあるが、それに似ている。
そんな3008でまず印象に刺さるのは、ツルッと滑らかな面にほどほどの緊張感も漂わせた外観だろう。最近のプジョーを特徴付けている獅子頭みたいなフロントのデザインも、セダンやクーペ系よりバランス良くまとまっている。遠くから眺めるとコンパクトなのに、全高が1.6m以上もあるため(残念ながら、たいていの機械式立体駐車場には入れない)、近寄ってみるとなかなかのボリューム感と迫力だ。
あれもこれも標準装備
室内の眺めも充実している。セダン系より機能を重視した雰囲気だが、豪華さも一人前以上。そのうえ格納式ハーフミラーに投影されるヘッドアップディスプレイや車間距離保持機能など、このクルマだけのぜいたく装備まで気配りが行き届いている。日本向けに「プレミアム」と「グリフ」の2グレードあるうち、上級のグリフでは高級感あふれる本革シート(電動、ヒーター付き)まで標準装備だ。
もっとも、それを除けばESP 、前後コーナーセンサー、電動パーキングブレーキ、バイキセノンヘッドライト(自動点灯/消灯)、雨滴感知自動ワイパー、開口部の大きいパノラミックガラスルーフ、熱線入りドアミラー、クルーズコントロール、オートエアコンなど、往年の簡素なフランス車を愛してきたファンが腰を抜かしそうなほど、あれもこれも全車に備わっている。こんなに各種の装備を羅列したのは、それだけ普通のセダンやワゴン(SW)より豊かな暮らしの伴侶に見えそうだからだ。
そんな空気は、上下開きのテールゲートからのぞき込む荷室にも濃厚。びっしりカーペットを敷きつめてあるだけに、汚れた段ボールなど放り込む気にはなれない。
ところでこの3008、普通なら3けたの真ん中にゼロを挟むプジョー式ネーミングからは、少し規格外に位置する。「三菱アウトランダー」のプラットフォームを利用したSUV、「4007」などと同じ流れだ。でも2615mmのホイールベースから想像できるように、その正体は傑作セダン/ワゴンとして知られた「308」のもの。優秀なプラットフォームさえあれば各種のボディを作り分けられるという、現代のクルマ作りの見本みたいな仕立てだ。
ロールはゆっくり
もちろんエンジンも最近のPSAグループ(プジョーとシトロエン)が広範囲に採用している4気筒1.6リッターターボで、最新の308などと同じように、最高出力は156psと従来型より少しだけチューンが高い。それより注目は、わずか1400rpmから3500rpmという広い回転域で24.5kgmと、普通の2.5リッター級に匹敵するトルクを絞り出す点だ。軽すぎない軽さ、重すぎない重厚感、鋭すぎない敏しょうさなど、高いレベルで中庸を得た走行感覚こそすべてのプジョーの美点だが、それは3008でもまったく同じ。簡単に言えば、少しだけ着座位置と視点が高い308だと思えば当たり。
グッと力強いエンジンの特性は、最近やっと308の上級グレードに採用されたのと同じ6段ATによって、さらに有効に生かされている。これまでプジョーが頑固に使い続けてきた4段ATも、各ギアごとの守備範囲が広く、ちまちま頻繁に切り替わらないため、悠然たる走行感覚がうれしかったが、今は変速機の段数そのものがファッションでもあるので、ここは6段化も当然だろう。ただし、好んで低いギアを優先したがる制御は少し疑問。もっと上のギアを多用すれば日本での実用燃費を改善しやすいのに、惜しい。
走る軽快さと重厚感は前述の通りだが、そんな308的な完成度を支えるのが、3008専用の「ダイナミックロールコントロール」。左右の後輪のダンパーを配管で結び、中央に第三のダンパーを追加することにより、やりとりする油圧で、しなやかにロールを抑制するシステムだ。原理としては、かつてヤマハが開発し「トヨタ・スープラ」に使われたREAS(リアス)と似ている。妙にスタビライザーを突っ張らせず、最大ロールに達するまでの時間を稼ぐ方式なので、乗り心地を下品にすることなくスポーティな味だけ濃くできている。
こうして見ると、機能も性能も装備も満点の「3008」、もしかすると魅力のワゴン「308SW」にとって最大の脅威になるかもしれない。
(文=熊倉重春/写真=高橋信宏)

熊倉 重春
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。