第973回:静かになりすぎたクルマと「聴かせて、聴かせて隊」に思うこと
2026.08.06 マッキナ あらモーダ!静音化時代に響く爆音バイク
今回は、クルマの音に関する話である。イタリアでもハイブリッドを含む電動化車両が増え、2026年上半期のEU圏新車登録台数ではハイブリッド車が37.3%、バッテリー電気自動車(BEV)が20.7%、プラグインハイブリッド車が9.8%を占める(出典:ACEA)。それらは、静かなEVモードで走行する際に歩行者を保護するための車両接近警報装置を装備している。その音はメーカーごとに異なる。筆者は最近、家の前を通るクルマをまずは警報音だけでヒョンデか、トヨタかと想像してから、窓越しに“答え合わせ”を楽しんでいる。
一方で、街にはまだ昔ながらのエンジン音も残っている。本稿をしたためている8月初旬のイタリアでは、夜9時近くになっても明るい。夏休み中の高校生たちは毎日のように夕食後バイクに乗っては、町中を0時過ぎまで走り回っている。排気系統を改造しているのだろう、かなり騒々しい。
音を“聴きたがる”若者たち
もっとも、爆音に憧憬を抱くのは、二輪車に乗る高校生だけではない。近年ミッレミリアといったイベントで目立つのは、エンジン音や排気音を積極的に楽しむ若者である。通過するクルマの音を受動的に鑑賞しているのではない。渋滞などにより停止状態でいるクルマのドライバーに外から声をかけ、アクセレレーターペダルを踏んでもらうのである。たいていは数名の若者グループだ。なかには一斉に耳に手を当て、コミカルな「聴かせて、聴かせて!」ポーズをとっているときもある。昭和世代の方向けに記せば、バラエティー番組『オレたちひょうきん族』で明石家さんまが演じたキャラクター「ナンデスカマン」を彷彿とさせる。ドライバーもうれしいらしく、彼らの要望に応えて2~3回ペダルを踏む。
「聴かせて、聴かせて隊」を観察していると、エンジン形式を知り尽くした生粋のエンスージアストには見えない。代わりに視覚的に、もしくはアイドリング音からペダルを踏んだときの音が派手そうなクルマを選んでいる。エンジン形式を知り尽くした生粋のエンスージアストには見えない。
自動車愛好家以外に四輪車が発する音が好意的にとらえられるのは、1968年の米英合作映画『チキ・チキ・バン・バン』以来か。背景には、いうまでもなく電動化で、全体的に自動車が“静か”になってしまったことがある。クルマがやかましかった時代を知らない若者たちにとって、豪快な音を発する自動車は新鮮なのであろう。
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そして、筆者も同類だった
先日、行きつけのガソリンスタンドで、前述の爆音バイクの若者たちと鉢合わせした。彼らが乗る二輪は日本の1980年代の暴走族のものとは異なり、オフロード型である。さらにヘルメットを脱いだ素顔には、あどけなさが残っていた。声をかけると、愛車は125ccで、免許は16歳から取得できる「A1」といわれる種類だと丁寧に教えてくれた。給油の仕方もセルフでわずか10ユーロ(約1800円)だけ入れて“寸止め”していた。彼らがそれを意識しているかは不明だが、うるさいバイクは、静かになりすぎた自動車へのアンチテーゼなのかもしれないと思えてきたのである。
ここでひとつ告白しておきたい。筆者は静かなエンジン/排気音ばかりを礼賛しているわけではない。1990年代のメルセデス・ベンツ製M120型V型12気筒エンジンが、アイドリング中に奏でるせせらぎのような音を今も至上と考える一方で、独特な音を放つクルマにも心引かれてきた。印象に残るものを2つ挙げると、1台は2019年の「コンコルソ・ヴィラ・デステ」にやってきた1967年「ジャイロX」である。2輪走行を可能にしているのは、エンジンとは別に搭載されているジャイロスコープだ。それがひたすら回転し続ける音が未来的であった。もうひとつは2021年のヴィラ・デステに参加した1968年「ハウメットTXレーサー」である。搭載されているガスタービンエンジンはかなりの高デシベルで、ドライバーは終始イヤーマフを装着していた。しかしながらサウンドは、まさに陸を行く航空機であった。加えて、排気臭や後方に発生するかげろうまでもが、空港で見る旅客機を思わせた。
ジャイロスコープもガスタービンも自動車の主流とはならなかった。しかし、一部のBEVに搭載されている疑似エンジン音よりも、より技術的に健全だと思う。であるならば、高校生たちの爆音バイクも、「聴かせて、聴かせて隊」もあながち否定したり、笑ったりできないのかもしれない。
(文=大矢アキオ ロレンツォ<Akio Lorenzo OYA>/写真=大矢麻里<Mari OYA>、Akio Lorenzo OYA/編集=堀田剛資)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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