第60回:BYDオートジャパンの社長を直撃! いま日本で「ラッコ」を買う正義とは?
2026.08.27 小沢コージの勢いまかせ!! リターンズとんでもないコスパ
ついに出ちゃいましたね、中国の衝撃的EV「BYDラッコ」ちゃん! BYDどころかニッポン初の軽スーパーハイトワゴンのピュアEVであり、輸入車初の日本専用開発モデルってところも衝撃なわけですが、驚きは、つくりのよさはもちろん、にわかには信じられない超ド級のコスパ。
既存の軽EVは電池容量が20kWhしかない「日産サクラ」でも売れ筋の「X」が260万円で180kmしか走らないのに(WLTCモードの一充電走行距離。以下も同じ)、ラッコの「200」グレードは22.4kWh積んで空力がより厳しい背高のスライドドア付きなのに210kmも走るという恐るべき電費! オマケに「300」だと35.84kWh搭載で320km。 価格も200は214万5000円と激安で、CEV補助金の15万円を使うとなんと200万円切りの199万5000円!!
価格だけでも驚きなのに、装備も信じがたいほどモリモリで、10.1インチモニター&7インチ液晶メーター、電動スライドドアは全グレードに標準で、中級グレード以上はステアリング&シートヒーターに、ほかにはない幼児置き去り検知機能付きで電池容量は35.8kWh! その「300プラス」がほぼ239万円で、革調シートにホットカップホルダーなどまで付いた最上級の「300プレミアム」が249万円! ハッキリいって日本の軽EVだったら300万円超えでもおかしくない内容なんですわ。
もちろん今の日本と中国の関係を考えると、安さをそのままノー天気に享受していいのか悩んじゃうけど、今回小沢はその興奮冷めやらぬ新車発表会で、その長身&迫力の風貌から「ラオウ」の異名をとるBYDオートジャパンの東福寺厚樹社長にストレートかつソボクな質問を容赦なくぶつけてきましたっ! ああ怖かった~(笑)。
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実質200万円切りの激安価格をどうやって?
小沢:突然ですけど東福寺社長、衝撃の軽EVラッコです。まず驚いたのが車両価格でして、一番安い200で215万円を切りましたね。
東福寺:そうです。補助金を入れたら199万5000円。200グレードで200万円っていうのは最初からのターゲットでしたので、なんとか到達できたなと。
小沢:補助金もよく15万円出ましたね。全体的にBYDには厳しいCEV補助金ですが。上の「ドルフィン」とか「シーライオン」がより大きな電池を積んでいても15万円なんで、電池の小さいラッコはさらに少なめの10万円とか8万円くらいかと思いきや完全に同一。
東福寺:今の補助金の仕組みは、車両に対しての評価が20%で、メーカーへの評価が80%ですから。ほぼ車両に対する評価ではなく、会社への評価で15万円になっているので、ラッコであろうがなんであろうが基本は同じということでしょう。
小沢:ご存じだと思いますが、かたや日産サクラの売れ筋が260万円で、補助金58万円を引くと200万円ちょい。電池がもうちょっと大きい30kWh弱の「ホンダN-ONE e:」でも270万で大体210万円。そう考えると、ラッコは相当なアドバンテージを持ってると思います。だってより電池量が多くて、全車電動両側スライドドア付きで、より広くて安いんですから。なんでこんなことが実現できたんですか?
東福寺:戦略的にそこに向けてつくり込んできましたから。最初から200と300という2つのグレードを決めて開発し、200万円をターゲットに開発してもらいましたので。そこには製造側や設計開発側のものすごい工夫とノウハウの積み重ねが入っています。
小沢:要は原価積み上げ方式による安さではなく、最初からこの低価格ありきでつくってきたと。心構えが違いますね。しかし、年内受注目標が1万台ってすごくないですか。現状は4~5車種で年販3700台くらい。僕は、ラッコは売れても年に5000台ぐらいかと踏んでましたが。
東福寺:そこは本当に気合いです。科学的な根拠があるわけではないので(笑)。
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プラットフォームの横展開
小沢:これまたひとつのBYDイズムですね。しかも年内、つまり半年で1万台、年間2万台受注できたとして4年間で8万台じゃないですか。正直、それだけ売れても日本専用だと他に売り先がないんで、すでに赤字確定だと思うんですが……。
東福寺:そこは本社側といろいろ考えながらやっていますけど、できるだけ戦略的な値づけができるように、赤字にならないようにと。
小沢:本当に赤字じゃないんですか? 僕は赤字覚悟の日本戦略だと勝手に思ってますが。
東福寺:そうではないです。
小沢:ハードの日本専用開発っぷりもすごくて、外観や骨格のプラットフォームもそうですけど、ブレードバッテリーも狭いフロアに合わせて専用だし、「X-PACK」っていう電動モジュールもラッコ専用なんですね。これはちょっと大盤振る舞いも行き過ぎじゃないかって開発レベルなんですけど。
東福寺:ただし、そのあたりの技術は横展開が可能と考えてやっているんだと思います。
小沢:ですよね。おそらくこのプラットフォームでつくられる別型の新車をアジアで売る可能性はあると。
東福寺:あります。それはマーケット次第で、ヨーロッパでもいま小型車の需要がありますので、技術としてはいろいろなところに転用可能かと。
小沢:ちなみにX-PACKの意味ってなんですか?
東福寺:マルチプル(複数の、多様な)です。
小沢:ますますこのプラットフォームをグローバル展開する可能性があると。
東福寺:ボディーが四角くてスライドドア付きというのは、ほぼほぼ日本でしか需要がないですが、他の国で「as is」(現状のまま)でも売れますというところがあったら当然出すと思います。
小沢:もうひとつ、かつて日産サクラの開発者は「軽のフロアには20kWhの電池を積むことすら難しい」と言ってましたけど、ラッコは36kWh弱。しかもリン酸鉄リチウムイオン電池だから三元系の電池よりエネルギー密度的にスペースがかさむはずじゃないですか。ところがさっき床を見たらすっごく低い。一体どうなってるんですか?
東福寺:そこは開発のヤンさんに聞いてください(笑)。
いまニッポンでBYDを買う正義とは?
小沢:最後に厳しい質問ですが、ラッコがハード的にどんだけよくできていようが、どんだけお安くて大容量電池を積んでいようが、そんなの関係ないって人が一定数いるわけです。もちろん僕らは、BYDがトヨタ以上に何でも自社開発してるとか、マジメに物づくりしてるとか知ってますが、そんなことはお構いなしに単純に「中国製品は買いたくない」「中国嫌い」とか言ってる人がいるわけです。そんな状況のなか、東福寺社長はいま日本で中国のEVを「売る正義」「買う正義」「意義」みたいなものをどう考えてますか?
東福寺:そうですねぇ。
小沢:今の日本は非関税国ですけど、中国はいまだに関税付きで日本車などの輸入車を入れてるとか、そもそも中国国内では中国製電池を積んだEVしか売っちゃいけないとか、ある種の保護主義であり、保護政策をとってます。アメリカのトランプさんが廃止させるまでは海外メーカーに対する50%の資本規制もあった。
要するに、中国にはまだまだ完全なるフリートレード(自由貿易)の国というイメージがない。日本でもごく一部の人は、BYDにはかの松下幸之助が教えた人材を大切にするというカルチャーがあるとか、お客さま第一の開発姿勢を持っていることを知っている。でも、そんなの関係ないって人は、いまだに「中国車に補助金使うな」「買うな」とか思ってるわけですよ。15万円でも多いと。
東福寺:実際にそれで補助金が削られているんだとは思います。現実に日本のEVとは登録に際して50万円とか120万円の差がつきました。「それでもよければ商売しなさい」という風に言われているのだと僕は捉えています。
小沢:そうかもしれません。
東福寺:ある意味で国の政策というか、ひずみみたいなものがわれわれに直接きていると思います。ただ、それがあるからどうこうと言う前に、BYDオートジャパンとしては、いいものはいいという考えがあります。それがきちんと受け入れられるマーケットであればどんどん出していきますし、CO2削減のためのモビリティーを広めたいというのが根本にあります。嫌だったら使っていただかなくても結構。いいと思う方にだけ使っていただければありがたいですね。
小沢:国対国の問題はどうしようもないです。とはいえ、先日某中国メーカーの人が言ってましたが、いまだに中国の工場は敷地代を払ってないそうです。土地は国有だから基本国から与えられる。つまりそこに対して中国メーカーはお金を使っていないらしい。
東福寺:例えば私が前にいた三菱自動車は、最初にアメリカのイリノイ州に工場進出する時、何千平方エーカーか忘れましたが、広大な農地を全部日本が買い上げたと。その土地に三菱が工場をつくったんだと。
小沢:なるほど。日本メーカーも海外進出の時には同じようなことをやってきたと。
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時代や地域に応じた産業振興策
東福寺:自動車産業っていうのはいろいろな意味で大資本が投下され、莫大な雇用を生み、経済効果として長く続く永続的かつ巨大な装置産業ですから。どの国でも期待を込めてのインセンティブは必ずあります。日本もいろいろなところで恩恵を受けながらやってきた歴史があるんですね。ただ、今の日本はもうそれを卒業してしっかりとした事業を行っている。かたや中国はこれから海外にいくので、かつて日本がたどったようなグローバル化の道を、事例を学びながらスピードアップしてやっているというのが現実でしょう。
小沢:要するに中国メーカーだけが国の恩恵を受けているわけではない。いろんな国が同じようなことをやってきた歴史があると。
東福寺:対米輸出規制、1980年代もやっぱり規制して、自分たちが台数を削って非常に高い利益を得ていたという現実がありますので。時代時代、またはフェーズフェーズでいろいろことが起きているのが世の中ですから、今の中国対日本という一断面だけで全てを決めつけるのは難しいと思うし、そこに対する答えを僕は持っていません。
小沢:フリートレードっていうのは時代、あるいは条件とか見方によっても変わるってことですよね。もちろん今の中国メーカーが国からものすごい補助を受けている可能性は高いけど、かつては日本もそうだったと。
東福寺:今は今で、他国ではやっていないようなインセンティブを日本は半導体に対してやっているじゃないですか。世界で戦えるように。要は産業政策ってのはそういうものかと。
小沢:とはいえ中国EVは助成金額が日本とはゼロ2つぐらい違いますから。数年前までは年間数百万台の新エネ車に対し、一台100万円ぐらいの補助金が投入されてて、ざっと計算するだけで年間で「兆」レベルはいく。
東福寺:そこは人口が十数億人の国、とんでもない人口ボーナスのあるマーケットにいるという幸運が中国にはありますよね。人口1億2000万人の日本とは規模が違いますから。
小沢:とにかくこのとんでもない価格破壊のBYDラッコ。まだまだ物議を醸しそうですね。売れたら売れたで、そうでなければそうでなかったで。いずれにせよこのクルマが売れたら日本のEVマーケットが変わると思います。少なくとも日本メーカーは相当焦ること間違いナシですから。
東福寺:だったらいいんですが(笑)。
(文と写真=小沢コージ/編集=藤沢 勝)
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小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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