エンジンオイルは高価なものを使うべきか?

2026.10.06 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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カー用品店に行くたびに、プレミアムなエンジンオイルの価格の高さに驚かされます。それらを入れるとエンジンが別物になるようなうたい文句で、気にはなるのですが……。実際、エンジンオイル次第で、どれほどの性能アップが期待できるのでしょうか? 新車開発に携わってこられた多田さんのご意見をお聞かせください。 

私自身、在職中に、エンジンの専門エンジニアたちに同じような質問をぶつけたことがあります。「純正オイルより高いオイルを入れたら、実際のところどう変わるのか」と。それでエンジニアからは「何を言ってるの? そもそもオイルなんて、入れなくて済むなら入れたくないんだよ」という、とんでもない答えが返ってきたんです。

実はエンジンの専門家たちは、昔から「オイルレスエンジン(潤滑油不要のエンジン)」がつくれないかと本気で考えています。昔のエンジンは加工精度が低かったため、圧縮(コンプレッション)を高めたり、摩耗を防いだり、冷却したりするためにオイルが不可欠でした。それでオイルや添加剤の技術競争が盛んに行われてきたわけです。

しかし、現代のエンジンは加工精度が極限まで上がり、“オイルに頼らざるを得ない要素”がどんどん減っています。むしろ現在のエンジンにおいてオイルに求められているのは、粘度(ドロドロ感)がもたらすフリクション(抵抗)を極力減らすことです。今のエンジンオイルが水のようにサラサラ(SAE規格の0W-20や0W-16など)になっているのは、オイル自体がパワーや燃費の阻害要因にならないようにするためなんです。

「高いオイルを入れれば入れるほどエンジンのパフォーマンスが著しく上がる」というのは昔の話であって、現代のクルマには当てはまりません。基本的には自動車メーカーが指定している「純正オイル」を正しく使っていれば、エンジンの性能は100%発揮されるように設計されています。

たしかに、化学合成油と鉱物油とでは基礎的な構造の違いによる差はありますが、一般的な乗用車であれば、純正オイルで十分すぎるほどの性能と耐久性が確保されています。

特に現代のハイブリッド車などは、走っている最中にエンジンが休止したり、オイルパンにオイルが落ちきった状態から突然高回転で再始動したりと、エンジンにしてみれば非常に過酷な環境に置かれています。そうした特殊な条件まで考慮してテストされ、油膜が切れにくいようにつくられているのがメーカーの純正オイルなんです。

サーキット走行やレースなど、油圧や油温が極端に上がる過酷な状況で走る場合はどうか? そうしたケースでは、高価で高性能とされるオイルを入れることよりも、オイルクーラーを装着して冷却の対策をするほうがはるかに効果的です。

加工精度の低かった時代の、いわゆる旧車・クラシックカーに乗られている方であれば、粘度や成分にこだわった高級オイルを選ぶ意味は十分にあります。しかし、現代の新しいクルマについては、高価なプレミアムオイルに無理にお金を払う必要性はほとんどありません。

もちろんミクロな世界や極限の領域で比べれば、オイルの分子構造の違いなどでわずかなフィーリングの差や燃費の違いが出ることはあるでしょう。でも、それが2倍、3倍の価格差に見合うほど劇的な変化かというと、現代の標準的なエンジンにおいてはごくわずかな差にとどまります。

オイルメーカーからは「余計なことを言うな」とおしかりを受けるかもしれませんが(笑)、エンジン開発者の理想から言えば「オイルに頼らずとも完璧に動くエンジン」こそが目指すべき姿であり、現代のクルマはその理想にかなり近づいている。用途が限定されたエンジン(発電専用エンジンなど)であれば、技術の進歩によって本当にオイルレスエンジンが登場する直前のレベルにまできています。それが、今の自動車技術の実情です。

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多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。