第347回:カーマニア的に隠れた名車
2026.10.26 カーマニア人間国宝への道なんでわざわざプリウス顔に?
担当サクライ君からメールが届いた。
「来週、『トヨタ・アクアGRスポーツ』がご用意できます。ご興味のほど、いかがでしょう」
そうか、アクアにGRスポーツが出たのか。個人的にはGRスポーツにそれほど興味はないが、アクアには大いに興味がある。なにしろ私は初代アクアの元オーナー。4年間、アクアをボコボコにしながら(ボコボコにしたのはすべて家内ですが)使い倒した。ほうぼうボコボコになっても直さず、そのまま乗り続けた。なんとなく、そういう使い方が似合っているような気がしたのだ。いい思い出だ。
考えてみると、初代アクアが出たのはもう15年も前! あれから15年もたったのか!
んで、現行の2代目アクアが出たのは5年前。あの時私は、「アクア、バランスのいいクルマになったなぁ」としみじみ思った。愛娘が成長し、嫁にいったような気がしたものである。
あれから5年。正直、詳しいことは忘れちゃったので、愛娘の現況を確認するチャンス到来だ。
当日夜。サクライ君はアクアで音もなくやってきた。
オレ:そういえばアクアって、こんな顔になっちゃったんだよね。
サクライ:はい。去年のマイチェンで、「プリウス」みたいな顔になっちゃいました。
オレ:オレ、アクアファンだから、アクアがこうなっちゃったのは密かに悲しかったよ。
サクライ:僕は特にアクアファンじゃないですけど、それでもやっぱり少し悲しかったです。
オレ:だよね! なんでわざわざプリウス顔にしたんだろうね!
サクライ:なんででしょうね。
嘆いても仕方ない。私はアクアGRスポーツの運転席に乗り込んだ。
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最初期型アクアはステアリングが超絶シャープ
オレ:おおっ、このインテリアはまさしくアクアの雰囲気! ナツカシー!
サクライ:なぜか落ち着きますよね。
オレ:めちゃめちゃ落ち着くよ! 実家に帰省したみたいな感じだよ!
サクライ:僕の実家はここじゃないですけど、僕も落ち着きます。
懐かしいシフトセレクターを「D」に入れて発進。アクアは杉並区の住宅街をスルスルと抜ける。
首都高の合流路でアクセル全開。おおっ、なかなか加速がいいぞ! アクアの1.5リッターTHS(トヨタハイブリッドシステム)は、先代と比べて確実に進化している! いまさらすぎますけど。
オレ:相変わらずとってもいいクルマだね。でもこれでGRスポーツなの? 足がスポーティーな感じはしないけど。
サクライ:足は専用のチューニングを施されているらしいです。僕もこれしか乗ってないのでわかりませんけど。
オレ:ステアリングレスポンスはまったくフツーだな。俺が乗ってた初代アクアの最初期型のほうが全然スポーティーだったよ。
サクライ:そうですか。
わが最初期型アクアは、ステアリングが超絶シャープで、「まるで『フェラーリ458イタリア』だ!」と常々感嘆していた。当時私は458オーナーでもあったので、それは確かな事実なのだが、誰も相手にしてくれなかった。
そして今。現行アクアのGRスポーツの足は、あの時のアクアよりぜんぜんソフトである。んなこと言っても誰も相手にしてくれないだろうけど。
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ノーマル車で完全な一般人になり切りたい
んでもまぁ、全体にはとてもバランスが良く、思いどおりに走ってくれる。乗っていて大変気持ちがいい! アクアは隠れた名車だ! カーマニア的に! ぜんぜん誰も注目してくれないけど!
そんなこんなでアクアは首都高を快適に走り、辰巳PAへと滑り込んだ。
オレ:げえっ! なんかいつにも増してすごいクルマが並んでる!
サクライ:そうですね。
オレ:あの先っちょがすんごく尖がったクルマは何? 「フェラーリSF90」?
サクライ:だと思います。その隣はランボとポルシェですね。
私は急に、自分がアクアGRスポーツで乗りつけたことが恥ずかしくなり、コソコソ逃げるように奥のほうに向かった。しかしそっちには「GT-R」のフルチューンド軍団がどどどーん。うおおおお。
オレ:サクライ君、恥ずかしいよ! ただのアクアならぜんぜん恥ずかしくないけど、GRスポーツなのがハズカシー!
サクライ:ですね。これが「ノート オーラNISMO」でも、同じように恥ずかしいと思います。
オレ:やっぱこういうクルマはノーマル(車)に限るね!
サクライ:ノーマルで完全な一般人になり切るのがいいと思います。
もちろん、「おっ、アクアGRスポーツ!」と気づく者など誰ひとりいなかったが、カーマニア的には、ひとりで勝手に恥ずかしいのであった。
(文=清水草一/写真=清水草一、webCG/編集=櫻井健一/車両協力=トヨタ自動車)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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