ポルシェ・パナメーラ(FR/6MT)/ポルシェ・パナメーラ4(4WD/7AT)【海外試乗記】
デカイ体躯を忘れさせる 2010.07.14 試乗記 ポルシェ・パナメーラ(FR/6MT)/ポルシェ・パナメーラ4(4WD/7AT)ポルシェ初の4ドアサルーン「パナメーラ」にV6モデルが追加。小さなエンジンの恩恵をいち早く確かめるため、本国ドイツでの試乗会に参加した。
思いのほか活発
登場から1年が経過し、そろそろ路上で遭遇する機会も増えてきた「ポルシェ・パナメーラ」に、かねてより追加が噂されていたV型6気筒エンジン搭載モデルが、いよいよ加わった。モデル名は後輪駆動が「パナメーラ」、フルタイム4WDが「パナメーラ4」となる。
エンジンはいずれも共通で、3605ccの排気量から最高出力300ps/6200rpm、最大トルク40.8kgm/3750rpmを発生する。ちなみに「パナメーラS/4S」が積むV型8気筒自然吸気エンジンは最高出力400psだから、こちらも気筒数と同じく、ちょうど4分の3ということになる。一方、車重はパナメーラ欧州仕様の発表値が1730kgで、こちらはパナメーラSより40kg軽い。
最初に乗ったのはパナメーラ4。7段PDKと組みあわされるこのクルマの車重は1820kgになるだけに、事前にはさすがに300psではかったるいかもしれないと覚悟したが、実際には思いのほか活発な印象で驚いた。これは2000rpmですでに最大トルクの9割ほどを発生する、実用域のトルク重視のエンジン特性のたまものといえる。
一方で、トップエンドにかけての伸びはそれほど強烈には感じられない。しかし、これは低速域の力強さによって、余計にそう感じるという部分も小さくなさそうだ。実際、300psの最高出力は6200rpmという高回転域で発生し、そこまでは心地良いサウンドとレスポンスの変化を満喫できる。ありあまるほどのパワーはないが、しかし十分に力強く、回す喜びもしっかり備わった、スポーツ心臓に仕上がっているのである。
エンジンの違いはフットワークに
あるいは、それ以上に鮮烈な印象をもたらすのはフットワークかもしれない。とにかくノーズの入りが軽快なのだ。ボンネットを開けて中身を見れば、それも納得。エンジンはかなり後方に積まれており、前には大きなすき間が開いている。
実はこのエンジン、V型6気筒ではあってもカイエン用とはまったくの別物で、実質的にはパナメーラSのV型8気筒から2気筒を切り落としたものだといっていい。これは主にボンネットを低く抑えるためで、バンク角は90度を踏襲している。マウント類の位置もV型8気筒と同様。つまりグッと後ろに寄せて積むことができるのである。
軽快なターンインを楽しんだら、次は加速だ。ここで活躍するのは、PTM(ポルシェトラクションマネージメント)と呼ばれる電子制御式4WDシステム。前輪が車体を引っ張ってくれるが、かといって旋回Gを消してしまうことはなく、クルマを確実に前に進めてくれる。旋回時に内輪に軽くブレーキをかけて外輪の駆動力を引き出す、いわばブレーキ制御によるトルクベクタリングシステムである新オプションの「PTVプラス」をそこに加えれば、まさに鬼に金棒だ。
これだけシャシー性能が高いと、300ps程度のパワーでは打ち負かすことなどできないのは事実。安心して存分に軽快感を満喫できるが、多少の物足りなさを覚える人もいるかもしれない。大丈夫。そんな人のためには後輪駆動のパナメーラという選択肢もある。
快適性はマジック
PDK同士だとパナメーラ4より60kg軽いパナメーラは、つまりノーズがさらに軽いだけに、その身のこなしの良さは全長5メートルに迫る体躯を忘れさせるほど躍動的だ。特に6段MT仕様のステアリングを握っている時など、まるでボクスターでも操っているかのような感覚に襲われてしまったほどである。
それでいて乗り心地にも、まったく不満はない。本国ではオプション、日本では標準装備となるエアサスペンション付きは、コンフォートモードではきわめてソフトで、スポーツカー好きには特に、普段はスポーツモードの方が、かえって快適と思わせそうなほど。走りの一体感の高さを考えると、この快適性の高さは、なにかのマジックのようにすら思えてしまう。
正直に言って、この“素”のパナメーラ、ポルシェの仕事だけに悪くはないだろうとは思っていたものの、これほどまでに充足感の高いスポーツカーに仕上がっているとまでは考えていなかった。要するに、期待以上だったということだ。
パナメーラに興味を持ちつつも、主に価格の問題でV6モデルの登場を待っているという人は少なくないと聞く。この出来栄えなら今後、街中や高速道路などでその特徴的な姿を見掛ける頻度は、一層増えることになるのではないだろうか。
(文=島下泰久/写真=ポルシェ・ジャパン)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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