日産ジューク 15RX(FF/CVT)【試乗速報】
女子もふり向く 2010.06.25 試乗記 日産ジューク 15RX(FF/CVT)……238万3500円
日産が放つ、新型クロスオーバー「ジューク」。特異なデザインをまとうニューモデルの、走りと乗り心地やいかに?
大事に育てられたカタチ
「ジューク」に乗って横浜の日産グローバル本社を後にする。さっそく最初の信号に引っかかった。そこで、チャンス、この瞬間にスイッチやメーターをひと通りチェックしておこうと視線をインパネに落としたら、なぜだか妙に落ち着かない。強力な“眼力”がどこからか注がれているらしいのだ。いったい誰だ? と見回すと、その発信源は横断歩道を渡る若い女性だった。メールをチェックしているのか、ツイッターでつぶやいているのか、手には『iPhone』らしき携帯電話。それを中断せざるをえないほど、ジュークのカタチはインパクトがあったらしい。
新車に乗っていて、これほど容赦なく見られたのは久しぶりである。ましてや若い女性からの熱いマナザシとなると、ここんとこちょっと記憶にない。彼女はきっと「ジューク発見なう」とつぶやいてくれただろう。
それはともかく、このスタイリングは、とあるショーカーがベースになっているのを覚えているだろうか? 去年3月のジュネーブショーで発表された「カザーナ」である。
「いや、正確には(量産型の)ジュークの方が先に完成していました。それをモーターショーで先行公開するために、ショー向けの表現を施したのがカザーナだったのです。順序が逆なんですね」とは、同席した開発者の方の言葉。基本的なスタイリングはロンドンにある日産デザインヨーロッパが描き、それを厚木にあるグローバルデザインセンターで洗練して、仕上げたという。
通常、あまりに凝ったデザインになると、自動車メーカーの中ではそれを実現しようとするグループ(たとえばデザイナーたち)と、それに難色を示すグループ(エンジニアや生産関連のスタッフなど)に分かれることがあると聞く。それは“挑戦”の意味合いが強いプロジェクトに対して、新しい技術を投入しなければならなかったり、生産コストの増加を強いられたりするからだ。
しかし前出のエンジニア氏によれば、ジュークはこれだけ凝っているにもかかわらず、社内が一丸となり、大事に作り上げた印象が強いクルマという。
実はもっと保守的な代案もあったが、日産の経営陣はこのファンキー(?)なデザインを推したというし、開発の初期段階において、組み立て工場で「今後こういうデザイン志向の新車を開発します」という社内レクチャーも行なった。これは異例なことだそうだ。開発途中にリーマンショックも経験したが、プロジェクトに大きな縮小を強いられることもなかった。大事に育てられたカタチなのである。
おもしろいけど実はマジメ
ジュークは、実際目の当たりにしてみると、「意外と小さいな」という印象を抱く人も多いと思う。それもそのはず、ベースとなったプラットフォームは「B」、つまり「ノート」や「キューブ」と同じなのだ。しかし、フロントサスペンションはキューブのマクファーソン・ストラットを基本としながらも、上のクラスに使われる井桁型のサブフレームがおごられているし、リアはリアで剛性確保のためにCプラットフォームの「セレナ」のトーションビームアクスルが用いられるなど、足まわりの内容はさりげなく「ひとクラス上」になっている。ぜいたくなのである。
しかもジュークのデザインは、これだけ自由奔放でありながら、おもしろみ重視のデザインが陥りがちなエゴイズムというか、使う者に我慢を強いるところが割と少ないデザインとも言える。たとえばフロントウィンドウ。通常より大きく回り込ませて、Aピラーをより立てた配置とすることで死角を減らし、広い視界を確保している。事実、横断歩道を横切るときなど、歩行者がAピラーの陰に隠れてヒヤッとさせられることが少なかった。
また、シャープな表情を作っているボンネット脇のフロントコンビランプにも、意外な効能がある。ドライバーの目には、「ポルシェ911」のヘッドランプの“峰”のように常に視界に入っているので、車幅灯としての機能も持っているのだ。
さらには、下降してきたルーフと天地方向に狭いサイドウィンドウのせいでいかにも窮屈そうに見えるリアシートも、座ってみると思いのほか収まりがいい。さすがに身長が180cmを超えるような大柄な人だと、髪の毛が天井に触れてしまい、長々と乗っていたい空間ではないかもしれない。しかし前後方向の余裕は充分に確保されていて、フル4シーターとうたえる広さはある。ファミリーカーとしても十分使えるはずだ。
中身もスゴ腕
とまあ、このインパクトあるカタチに話題が集中しがちなジュークではあるが、中身もかなりのスゴ腕と見た。まず現時点では唯一の選択肢となる1.5リッター直4エンジン(114ps、15.3kgm)。これは「従来のものを大幅に改良して……」などとサラッと説明されている。しかし、実はそんなに生易しいものではない。可変バルブタイミング機構を吸気側だけでなく排気側にも設け、さらには1気筒当たり2本のインジェクターを持つ仕様に改めているのだ。点火プラグを1気筒に2本持つ“ツインスパーク”はアルファの十八番だが、燃焼効率の改善を狙って“デュアルインジェクター”としたのは、量産エンジンとしては世界初とのこと。
さらにCVTも大幅な進化を遂げている。副変速機が入って2段変速(ドライバーがマニュアルで操作する必要はない)となり、オートマチックトランスミッションでいえば7段仕様を超えるワイドレンジ化を果たしているのである。ギア比は上だけでなく下方向にも広げられているので、巡航時の回転数を低く保つことで燃費改善(10・15モード値までジューク=19km/リッター! 偶然とのこと)とエンジンノイズの低減を実現できただけでなく、同時に発進加速のレスポンスも良くなっている。カタチから中身まで、すいぶんとまあいろいろなことを一度にやったものである。
実際、一般道ではキビキビと気持ち良く、しかも力強く走る。従来のCVTのように、エンジンの回転上昇に対して加速が遅れてついてくる印象が弱まり、より自然なフィールに近づいた。じっくりチェックしていると、CVTの副変速機が作動してレシオが自動でスーッと変わる様子が感じ取れ、「ん? 何か動いたな」と思う瞬間もある。しかしそれは些細(ささい)なこと。不自然なトルク変動もノイズもなく、事実上無視できる。
いっぽうで、乗り心地はノートに負けないほどしなやかで快適だ。さらに、幅広いトレッドと17インチタイヤ(オプション)の恩恵か、ハンドリングも至極良好。ロールがいきなりグラッと来ることもなく、操っていて楽しいSUVである。
秋にはパワフルな1.6リッター直噴ターボエンジンと、その4WD仕様(後輪の外輪を増速させてアンダーステアを消す“トルクベクトル”機構が付く)が追加となることも明らかにされている。ジュークはもしかすると、「MINI」に匹敵するエンスーな世界を構築するかもしれない。
(文=竹下元太郎/写真=峰昌宏)
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竹下 元太郎
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