第111回:新型EyeSight(ver.2)を搭載したレガシィにプチ試乗!
2010.06.21 エディターから一言第111回:新型EyeSight(ver.2)を搭載したレガシィにプチ試乗!
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2010年5月、レガシィシリーズに年改(一部改良)が行われ、スバル独自の安全技術「EyeSight」の新型(ver.2)が採用された。その実力を確かめるべく、レガシィツーリングワゴンでバリアに突っ込んでみた。
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より安全なレガシィに
「レガシィは日本車のベストツーリングワゴンだ」。
あまりに月並みな印象ですが、試乗してあらためて思う。2009年5月に登場した5代目レガシィシリーズ。デビュー当初は、先代モデルに比べ、米国市場をより重視して大きくなったボディサイズと、そのスタイリングから賛否両論が起こったが、「外見より中身」で勝負する、スバルらしいクルマであることに間違いない。独立行政法人事故対策機構(NASVA)が行う衝突安全評価で、平成21年度のグランプリを獲得したことも、その証左だろう。
そんなレガシィシリーズが、さらに安全になったという。2010年5月に一部改良を受け、EyeSight(ver.2)を搭載したモデルが登場したのだ。
フロントガラス上部にステレオカメラを設置、前方の交通状況を監視して、衝突事故を回避するために自動でブレーキをかけてくれるというもの。車両を停止、または減速させて被害の低減を図るシステムだ。今回は、そのEyeSight(ver.2)が搭載される「レガシィツーリングワゴン2.5i EyeSight」にプチ試乗した。
遂に“寸止め”が可能に
EyeSight(ver.2)は、商品名に「2」とあるとおり、2008年5月にでた、EyeSightの衝突回避機能を強化したもの。構成するシステムは基本的に変わらない。では、どこが違うのか? 当時から、ぶつかる直前で停止させることは技術的には可能であったが、「運転者へ過信を与えてしまう」などの理由で、効果は衝突の被害低減にとどめられた。ドライバーにブレーキを踏むよう注意を促し、減速までは介助するが、停止までサポートしなかった。ver.2は、停車させる制御を追加したもの。ついに寸止めが可能になったのだ。
「15km/hから20km/hまで加速したら、どちらのペダルも踏まずに、走行してください」と助手席に座ったスバル関係者が言う。前方に停車車両を模したバリアが迫り、「ピピピピピッ」っとブレーキ動作を促す電子警告音がけたたましく鳴る。思わずブレーキを踏みそうになるのをグッとこらえる。追突する直前で、自動的に急ブレーキがかかり、強烈な減速Gと停車した際の衝撃! 「あっ、ぶつかっちゃった」と錯覚するぐらい。まさに寸止めの車間で止まった。
時速30km/hまでは、完全停止がサポートされるという。それでも、路面状況や天候に左右されるので、「確実に止まる」とは言い切れない。「注意はしてほしい」とスバルのエンジニアは強調する。アクセルペダルを踏んだままだったり、追突直前までアクセルを踏んでいた場合は、ぶつかる間際に自動ブレーキが介入するが、停止させるだけのブレーキ圧が得られないため、最終的には、突っ込むことになるそうだ。
プリクラッシュブレーキ体験後、ちょうどテスト車の前にバリアがあるので、AT誤発進時の制御を試そうとしたところ、「車止めがないと、クルマが動いてしまうので、ちょっと……」とスバル関係者から申し訳なさそうにいわれる。というのも、EyeSightは、前方に障害物があっても、アクセルを踏めば出力が85%制限されるだけで、クルマは動くようになっているのだ。なので、車両止めがないと、ぶつかってしまう。てっきり自動ブレーキもかかり、クルマが動かないものだと勘違いしていたことに気づかされる。
エンジニアいわく、出力を完全にカットしたり、自動ブレーキを最優先させないのは、例えば踏み切り内で立ち往生した場合などに、前方の遮断機にEyeSightが反応しても、脱出できるようにするため。さらに、「EyeSightは、ドライバーが主体的に運転することを補助するシステムであり、自動運転を目指したものではない」と強調した。また、「スバルが、自動運転のシステムを目指すことはない」とも。
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「止まれる技術」に歴史あり
EyeSightの前身、富士重工業が独自に研究開発をしてきた画像認識ドライバー支援システムは、「ADA(アクティブ・ドライビング・アシスト)」と呼ばれていた。1999年5月に、いまのアウトバックである「ランカスターADA」に搭載されたのが最初だ。
その後、第2世代を経て、センサーにステレオカメラとミリ波レーダーを使った第3世代へと進化。2003年9月には、先代レガシィツーリングワゴンの最上級モデル「3.0 R」に搭載された。ADA以外のオプションも含み、セット価格70万円と高価なものだった。そこで第4世代ADAとなる初代EyeSightの開発では、センサーをステレオカメラのみに変更、部品点数を減らすことで、価格を約20万円に抑えることができた。
その初代EyeSightに緊急停車までの制御を入れたものがEyeSight(ver.2)である。注目の価格は、電子部品価格の下落もあって半額の約10万円に。レガシィの下位モデルにも導入が可能になり、今回設定されることとなった。
今後は、搭載する車種を増やしていく方向で検討しているとのこと。さらに生産コストが下がって、より身近なデバイスになるかもしれない。
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「走る」ほうは、どんな味?
現在のレガシィシリーズの販売状況を、モデル別の割合で見ると、ワゴン54%、セダン27%、アウトバック19%となる。アウトバックがセダンより選ばれていないのは意外だが、やはりというか、ワゴンが半分以上を占めている。さらに、ターボエンジンとNAエンジンの比率は、3:7と圧倒的にNAエンジンが選ばれている。ということで、売れスジ、NAのツーリングワゴン「2.5i EyeSight」に乗ってみた。
現行のツーリングワゴンは、個人的にはスポーツワゴンから一転、ミニバンをイメージさせるスタイルになったと思う。グローバル市場を重視した結果、全長は+95mmの4775mm、全幅は+50mmの1780mm、全高も+65mmの1535mmとなった。室内長は+350mmの2190mm、室内幅は+100mmの1545mm、室内高は+40mmの1230mmと、車内の空間も大幅に拡大された。特に、後席の拡大は著しく、身長172cmのリポーターが余裕で足を組めるほど。車内長にいたっては「レクサスLS」を40mm上回っているのだ。インテリアのデザインと品質感は、スバルとトヨタの提携関係を思い出させる。
搭載されるエンジンは、スバル自慢の2.5リッター水平対向4気筒。最高出力170ps/5600rpm、最大トルク23.5kgm/4000rpmを発生する。レギュラーガソリン対応なのもうれしい。シャープでスムーズに回転するさまは、さすがボクサーエンジン。組み合わされるトランスミッションは新開発CVTで、こちらも、回転が上で張り付いたりする悪癖なく、下から丁寧にパワーを引き出してくれる。パドルシフトにも対応するが、わざわざパドルを使って積極的に変速をする必要はあまり感じられない。静粛性も高い。停車中は、センターコンソールに設置したHDDナビの回転音とエアコンのファンの音が気になるほどだ。
乗り心地は、ソフトだがしっかりとしている。十分に確保されたサスストロークで、荒れた路面をしなやかにいなしていく。シートの柔らかさも、乗り心地を良く感じさせる一因だろう。乗り味はドイツ車ほど硬くなく、日本車ほど柔らかくない、まさに中間。
新型「レガシィツーリングワゴン2.5i EyeSight」は、長く乗るクルマの1台として、いいかもしれない。
(文=滝本智志(Office Henschel)/写真=webCG)
