ベントレー・コンチネンタル スーパースポーツ(4WD/6AT)【試乗記】
日本に一番合っている 2010.05.24 試乗記 ベントレー・コンチネンタル スーパースポーツ(4WD/6AT)……3150.0万円
630psの強心臓をもつ新型ベントレー、「スーパースポーツ」が日本上陸! その走りと乗り心地をリポートする。
胸騒ぎの新人
ホームで電車を待っている時なんかにボーッとしていると、「週末のBIGで1等6億円が当たったらどのクルマを買おうか」てな妄想が始まっていることがある。ハッと気付いて、われながらアホかと思う。「程度のいい『ランチア・ストラトス』を探して……」とか、「普段のアシは『シトロエンC6』にしようか、『ジャガーXJ』にしようか」などなど、かなり真剣に考えているからタチが悪い。
“妄想艦隊”の組み合わせは無限にあって、ゴージャスなのも1台いったれ、と思う日もある。けれど、この“グループG”は超激戦区。今ならそうだなぁ、「アストンのV12ヴァンテージ」と「フェラーリ・カリフォルニア」の2台が予選リーグを勝ち抜いて決勝トーナメント進出というところか。なんのヒネリもないチョイスですが。そしてこの“グループG”で、「ベントレー・コンチネンタルGT」が勝ち点をあげることはなかった。いつも3連敗で予選リーグ敗退。
ところがどっこい、「ベントレー・コンチネンタル スーパースポーツ」の登場で“グループG”が盛り上がりそうだ。駅のホームで、“妄想艦隊”の編成に頭を悩ませなきゃならない。「コンチネンタル スーパースポーツ」は、見かけこそ「コンチネンタルGT」やそのパワーアップ版たる「コンチネンタルGTスピード」と大差ないけれど、中身はまったくの別モノという印象を受けたのだ。
「コンチネンタル スーパースポーツ」は、いままで「コンチネンタルGT」シリーズの最高性能版だった「コンチネンタルGTスピード」と何が違うのか? 簡単に説明すれば、「エンジン出力アップ」「軽量化」「シャシーセッティングの変更」という、ハイパフォーマンス化の三種の神器が与えられている。エンジン出力は「コンチネンタルGTスピード」の610psから630psへ。後席シートを外して2人乗りにすることなどにより、車重は110kg軽くなって2240kgになっている。そして、足まわりを強化するにとどまらず、フルタイム四駆システムの前後トルク配分も50:50から40:60へと変更されている。で、「630」というナンバープレートの数字がほほ笑ましいスーパースポーツに乗り込んだ瞬間、オオッと思う。
ファーストタッチは紳士的
驚いたのは、3150万円もするクルマなのに運転席シートの調節が手動だったこと、ではなくて、いかにも座り心地が硬そうなレーシーな形状のドライバーズシートが快適だったことだ。あれは不思議なイスだった。駅のベンチみたいに薄っぺらいのに、バックレストを好みの角度にセットすると背中から腰にかけてがやわらかく包まれて、ウットリするような気分になる。
630psのW12気筒エンジンを始動。排気音がかなりのボリュームで車内に入ってくるから、決して静かなクルマではない。アイドリング時に限らず、あらゆるシチュエーションで排気音が入ってくるけれど、この音がいい。ベースとなるのは、濁りはないけれど張りのあるバリトンで、エンジン回転が上がるにつれてテノールが加わる男声合唱団だ。音量が大きいせいで室内に音が侵入するというよりも、ドライバーに排気音を聞かせるための演出だろう。
よく通る大きな声で歌うこの紳士は、市街地では洗練された振る舞いを見せる。まず、エンジンのマナーが模範的だ。過激なエンジンチューンでパワーアップしたというよりも、適度なトレーニングと栄養補給で得た健康的な力といった趣。無理矢理にパワーを絞り出している感触はなく、低回転域でアクセルを踏んでも小気味よく反応してくれる。 ま、排気量6リッターのツインターボで630psだから、リッターあたり105ps。ホンダの「シビック タイプR」などNAでもリッターあたり100psを超すエンジンがあることを思えば、まだまだパワーを絞り出す“のりしろ”があるのかもしれない。
エンジンの滑らかなフィーリングを実現するのに、ZF製の6段ATがはたした役割が大きいことは間違いない。この6段ATは、シフトタイムを半分にしたということがウリで、“クイックシフト・トランスミッション”という名称で呼ばれる。実際にシフトアップ、シフトダウンともにすばやいけれど、変速ショックが小さいことも特筆モノだ。
乗り心地だって悪くないどころか良好で、路面からの突き上げはほとんど気にならない。だからって品のいい高級クーペだと思って油断すると……。
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加速は魅力のごく一部
0-100km/h加速4秒以下という実力の片りんを確認しようと、高速道路の料金所を出たところでアクセル全開にして度肝を抜かれる。5センチぐらいフッと浮き上がったように感じた次の瞬間、前方に吸い込まれる。ここでの排気音はバリトンの美声なんてものじゃなく、野獣の雄たけびだ。ただしフルタイム四駆システムのおかげで、とっちらかったりホイールスピンを見せたりすることはない。加速感はすさまじいのひと言だが、加速する時のフォームはきれいだ。一滴のガソリンもムダにしないで、4輪に力を伝えている感がある。
この直線加速にはブッ飛んだけれど、ワインディングロードや深夜の首都高グルグルを経験した後では単なる余興に思えるから面白い。スーパースポーツ最大の魅力は、アクセルペダル、ブレーキペダル、そしてステアリングホイールを操作したときのレスポンスにあるのだ。アクセルペダルを踏む右足の親指付け根にほんの少し力を込めれば、間髪入れずにエンジンが反応する。スーパースポーツ専用セッティングが施された足まわりは、2トン以上も車重があることがウソのような軽快な挙動をもたらす。右足とエンジン、両の手のひらと4本のタイヤの距離が近い。
スペックだけを眺めていた時には、運転しているのか乗せられているのかわからなくなる“モンスター”を予想していた。けれど、それとは正反対の小股の切れ上がったスポーツカーだった。いままでのコンチネンタルGTは、大陸(コンチネンタル)をグランドツーリング(GT)するのが似合っていた。けれどもコンチネンタル スーパースポーツは、「コンチネンタル」より「スポーツ」に重きを置いているようだ。そういう意味で、コンチネンタルGT系で島国ニッポンに一番似合うのはコンチネンタル スーパースポーツなのかもしれない。
コンチネンタルGTスピードより550万円高くなるけれど、以前、信頼できる業界の大先輩からこんな話を聞かされたのを思い出す。「キミね、本当の金持ちというのはクルマの値段が500万円高くなることよりも、ガソリンの値段が5円高くなることに敏感に反応する人種なんだよ」と。まわりには本当の金持ちがいないのでそれがホントかどうかはわかりませんが、自分もBIG1等6億円が当たったら500万円余分に払ってでも「スーパースポーツ」だろう。いや、3月のジュネーブでお披露目されたスーパースポーツの屋根なしのほうがもっといいかも……。妄想は続くよどこまでも。
(文=サトータケシ/写真=峰昌宏)
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サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。