フォルクスワーゲン・ゴルフTSIトレンドライン(FF/7AT)【ブリーフテスト】
フォルクスワーゲン・ゴルフTSIトレンドライン(FF/7AT) 2010.05.20 試乗記 ……257.0万円総合評価……★★★★★
フォルクスワーゲンの大黒柱「ゴルフ」に加わった、エコなエントリーグレード「TSIトレンドライン」。1.2リッターエンジンは走りにどう影響を与えるのか?
十分どころか活発だ
2009年のデビュー以来、空白となっていた「ゴルフ」のエントリーグレードの座が、ようやく埋められることとなった。新登場の「ゴルフTSIトレンドライン」が搭載するのは、新開発の1.2リッター直噴ターボユニットと7段DSGを組み合わせた最新のパワートレイン。直噴+過給器の組み合わせでダウンサイジングを実現するフォルクスワーゲンのTSIラインナップは、これで一応の完成ということになる。
いくらTSIといえどもゴルフに1.2リッターエンジンでは……。そんな不安があったとしても、走り出した瞬間に一掃されるだろう。その動力性能は単に十分という域を超えて、積極的に活発という表現を使えるものだと言える。浮かんできたのは、まったく別の不安。これでは他のゴルフが売れなくなってしまうのでは? という思いだ。
燃費も期待通り。今回は確認のため、それこそ下のギアで頻繁にトップエンドまで回してみたりと色々な走り方を試したし、撮影の 都合もあったので決して燃費走行はしていない。それなのに結果は、10・15モードのカタログ値であるリッターあたり17.0kmを軽く上回った。燃費狙いで走らせれば、間違いなくもっと上を狙えるだろう。
アイドリングストップすら備わらないガソリンエンジンで、これだけの燃費を稼ぎ出すTSI+DSG技術は、まさにコンセプトの勝利。将来、このエンジンをベースにハイブリッド化がなされたら? そう考えると末恐ろしくすら思えてくる。ポイントは、特別ななにかではなく量販モデルのエントリーグレードで、これだけの燃費を実現していることである。
車両価格は257.0万円。TSIコンフォートラインとの差は21.0万円と、大きくはないが小さくもない。エコカー減税&補助金をフルに活用できることまで考えれば、日本のハイブリッドカー「プリウス」や「SAI」、あるいは「シビックハイブリッド」などを検討している人にとってもインパクトのある価格と言えるだろう。そんな人には「ぜひ一度、ゴルフTSIトレンドラインを試してからの決断を」と強く勧めたい。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
コンパクトハッチのベストセラーである「ゴルフ」は、2008年デビューの現行モデルで6代目。日本では、2009年4月に発売された。 プラットフォームは5代目から引き継ぎ、サスペンション形式も先代同様。ボディサイズもほぼ変わらないが、環境性能や静粛性、上質感が高められたとアピールされる。
ゴルフシリーズのエンジンはすべて過給器を組み合わせ、パワーと燃費を両立したというTSIエンジン。1.2リッター+ターボ、1.4リッター+ターボ、1.4リッター+ターボ&スーパーチャージャーの3種が日本市場にラインナップされる。このほかスポーティモデル「GTI」とハイパフォーマンスモデル「R」の、2リッターターボモデルも存在する。
(グレード概要)
2010年3月に追加されたエントリーグレード「TSIトレンドライン」は、シリーズ最小排気量の1.2リッターエンジンを搭載する。ターボチャージャーで過給し、105psと17.8kgmを発生。燃費向上に貢献する2ペダルMTの7段DSGと組み合わせられ、カタログ燃費(10・15モード)は17.0km/リッターと、歴代ゴルフ最良の数字を記録する。日本ではエコカー減税と補助金の対象になっているのも注目点。
廉価グレードゆえ、シートやステアリングホイールなどには簡素なものがあてがわれるが、ESPやエアバッグをはじめとする安全装備は、上級モデルと同等の充実ぶりだ。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
パッと見て他のグレードとの違いとして気付くのは、ステアリングホイールが革巻きではないこと、そしてエアコンがフルオートではなくマニュアル式になるということくらい。エコドライブには欠かせない瞬間/平均燃費などを表示できるマルチファンクションインジケーターや、一度便利さを知るとなかなか手放せないオートライトなどの装備は落とされていない。
「でも、ステアリングホイールが革巻きじゃないのは……」と思っていたが、ゴルフの樹脂製ステアリングホイールは握りが柔らかめで、思ったより手に良くなじみ、十分これでもいいかという気にさせるものだった。汗をかいた時にどうかは分からないけれど。
それでもあえて気がかりを探せば、オプションでも純正ナビゲーションシステムを付けることができず、つまりリアの“VWマーク”内蔵のリアビューカメラの装着ができないということくらいだろうか。しかし、そもそもリアビューカメラは不要だというなら、好きなナビゲーションシステムを付ければいいだけの話。というか、その方がむしろ使い勝手は良いに違いない。
(前席)……★★★★
TSIコンフォートラインのコンフォートシートに対してスタンダードシートが標準装備となるが、基本的な座り心地には違いは感じられない。先代と基本骨格を共有する現行ゴルフだが、インストゥルメントパネル上面がボンネットまでほぼフラットに連なる形状へと改められたり、ドアトリム上縁の丸みが廃されたことなどから、視界がスッキリして四隅の把握もしやすくなっている。ウィンドウ、ステアリングホイール、シートなどなどの位置関係は一緒のはずなのに、これだけのことで快適性がグンと増して感じられるのだから面白い。
(後席)……★★★
座面こそ小振りではあるが、着座位置は高めでひざまわり、頭上にもたっぷりと余裕があるため、大人2人でも窮屈さを感じることはないはずだ。センターコンソール後端には後席用のエア吹き出し口もある。弟分になる「ポロ」に乗ると「もはや十分ゴルフの代わりになるのでは」などと思いがちだが、後席まで使う機会が多い人にとっては、やはり選ぶべきはゴルフということになるだろう。
(荷室)……★★★
ラゲッジスペースの形状、容量については他グレードと同様。違いは12V電源ソケットが無いことだ。フロアボードがペラペラの1枚板で、めくっても単にスペアタイヤがあるだけなのは、高いクオリティをうたうクルマとしては、なんとなく寂しいところではある。せめてウエスなどをまとめておけるようなスペースでもあればいいのだが。
左右分割可倒式の後席バックレストは、アームレストを引き出した後にさらにふたを開けて、センタートンネルの部分だけスルーにすることもできる。4人乗車+長尺物の搭載も可能というわけだ。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★★
正直、それほど期待させるものではない最高出力105ps、最大トルク17.8kgmというスペックだが、それだけにこの走りっぷりには驚かされる。発進時からしっかりトルクがあって加速は軽快そのもの。想像以上の動力性能を堪能させてくれるのだ。
これはスロットルのチューニングによる演出などではなく、1550rpmという低回転域で早くも最大トルクを発生するエンジン特性と、パワーを余さす駆動力に転換する7段DSGとのコンビネーションのなせるワザ。発進時だけでなく、巡航状態から軽く踏み増しした時にもグッと背中を押すような力強さがあり、とにかく頼もしい。
たとえば100km/h走行時のエンジン回転数は約2050rpm。すでに最大トルクゾーンにあるだけに、そこからの加速にキックダウンは不要なのだ。この余裕は、とてもエントリーグレードのものとは思えない。
一方で、高回転域での伸びはそれほど期待はできないが、そもそも日常で、そこまで回す必然性はほとんどないはず。そうした諸々を考えると、特にこの日本ではほとんどのユーザーが十分満足できるパワートレインだと言って良さそうだ。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
実は2バルブSOHCとされているTSIユニットは軽量化にも貢献していて、車重はTSIコンフォートラインより20kg軽い。その恩恵だろう、フットワークはノーズの軽さが印象的なものに仕上がっている。
もっとも、装着されているタイヤの銘柄のせいもあるのか、ステアリングレスポンスは甘めだ。直進時などの“すわり感”を考えても、もう少ししっかりとした手応えが欲しいところ。とはいえ、サスペンションは柔らかく姿勢変化も小さくはないわりには、先代ゴルフ初期型のようにだらしなくアンダーステアが出てしまうこともなく、ワインディングロードでもそこそこ楽しめる。街中で交差点を曲がる時ですら、俊敏にクルマが反応する気持ち良さを感じられるのもうれしい。
もうひとつあえて不満を言えば、乗り心地は今一歩だ。スチールホイールのせいか、全般的に感触は柔らかくはあるのだが、時にいかにも重いものがぶら下がっているという感じを受けるのだ。
まあ、しかしそれは重箱の隅をつつくような話と言っていいかもしれない。少なくとも日本のエコカーと呼ばれるクルマより、走りのレベルは数段上である。
(写真=郡大二郎)
【テストデータ】
報告者:島下泰久
テスト日:2010年4月19日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2010年型
テスト車の走行距離:2157km
タイヤ:(前)195/65R15(後)同じ(いずれも、コンチネンタル ContiEcoContact3)
オプション装備:なし
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2):高速道路(5):山岳路(3)
テスト距離:301.4km
使用燃料:16.2リッター
参考燃費:18.6km/リッター

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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