フォルクスワーゲン・ゴルフR(4WD/6AT)【試乗記】
箱形スポーツカー 2010.04.01 試乗記 フォルクスワーゲン・ゴルフR(4WD/6AT)……521万8000円
ついに500万円オーバー!! 「フォルクスワーゲン・ゴルフ」の最高性能バージョンを試してみた。
現行「ゴルフGTI」との違いは?
「フォルクスワーゲン・ゴルフ」の最高性能版として、「ゴルフR」が登場したのでR。という書き出しに、「昭和軽薄体だ」「嵐山光三郎だ」とピンときた方は、自分も含めてアラフォー以上の世代か。で、自動車専門誌をめくり始めた1970年代、80年代から「ゴルフは実用車のかがみ」だと刷り込まれてきた自分にとって、505万円というゴルフRの価格はびっくり。この驚きは、10万円オーバーの炊飯器が売れていると聞いた時の感想に似ている。「炊飯器って、せいぜい2、3万で買えるものじゃなかったの……」と思ったものの、10万円オーバーの炊飯器を導入した知り合いは「やっぱり味が違う」と語っていた。はたして500万円オーバーのゴルフのお味はいかに。
ゴルフRに搭載されるのは直噴2リッター直列4気筒+ターボ。こう書くと現行「ゴルフGTI」と同じだけれど、少し補足説明が必要だ。
フォルクスワーゲン・グループ・ジャパン広報部によると、ベースとなったのは先代ゴルフVのGTI用エンジン。ブースト圧アップやタービンの大径化などによって、現行ゴルフGTIを約2割上回る最高出力と最大トルクを発生するという。また、GTIの駆動方式がFFなのに対して、Rはフルタイム4WD。GTIとの価格差139万円は、ざっくり言えばパワーアップ代とそれにともなう足腰の強化費、フルタイム四駆のお代である。
「ゴルフR」の外観の特徴は、イバリがないことだ。フロントグリルをはじめ、各部がR専用デザインとなっているけれど、威圧感や豪華さの演出が目的ではないようだ。どちらかといえば、ぜい肉を削ぎ落としたソリッドなたたずまいを狙っているようにお見受けする。インテリアもiPodのような鏡面加工(?)が施された前席シートの裏側以外、実直な印象だ。ただし、ひとたび走りだせば、「フツーのやつとは違う……」と納得させられる。
安全に味わうスリル
最近の高性能車の例に漏れず、「ゴルフR」は市街地でのトロトロ走りでも扱いやすい。「ゴルフGTI」よりやや高回転型のエンジン特性になっているとはいえ、それでも2400rpmで最大トルクを発生するエンジン特性は街なかでのストップ&ゴーを苦にしない。6段DSGの仕事っぷりも、その存在を忘れてしまうぐらいスムーズだ。乗り心地だって硬いには硬いけれど、路面に凸凹があれば、その形状にあわせてサスペンションは精密にストロークするから決して不快ではない。
とはいうものの、「実用性も問題ないんですよ」みたいな話だったらゴルフGTIと大差ない。違いを明確に感じるのは“本気”を出した時で、たとえば高速道路の料金所からのフル加速だ。5000rpmから上ではタコメーターの針が上昇するスピードが一段と鋭さを増し、いかにもハイチューンエンジンらしい手応えが伝わってくる。そして同時に、体がシートに押しつけられる。ゴルフGTIの加速が「これぐらい速ければ十分」だと感じさせたのに対して、ゴルフRは「こんなに速いとヤバい」と感じさせる。
これだけ速いのに野蛮さのかけらもないのは、フルタイム四駆システムの恩恵だろう。強大なパワーは4輪に振り分けられ、一滴のトルクもムダにすることなく路面に叩きつけている感触がある。だからドライバーは、緻密(ちみつ)に作動するメカニズムに囲まれながら豪快な加速を操ることになる。安全に味わうスリルというか、空調完備の装甲車で肉食獣が闊歩(かっぽ)するサファリを行くような、不思議なぜいたくさを感じる。
新世代のクルマ好きに
コーナリングも同様で、四駆のスタビリティと軽快なターンインがとてつもなく高いレベルで両立している。自分程度の腕前だと、一般道では確認できないくらい限界は高い。単に速いだけでなく、路面の情報をしっかり伝えるステアリングフィールや、ハードブレーキングを繰り返してもタッチが変わらないブレーキなど、ドライバーと直に触れる部分のフィーリングの質が高いのもうれしい。
「ゴルフR」の先代にあたる3.2リッターV型6気筒エンジン搭載の「ゴルフR32」は、速いには速いけれど、どこかどっしりとした印象のある高性能車だった。ゴルフシリーズの最高性能バージョンであるとともに、最高級仕様という側面もあった。ところが世のダウンサイジング化にならって2リッター直4ターボで武装するゴルフRは、従来の高級化路線とは違う道を進んでいるように見える。ゴージャスに着飾るのではなく、削ぎ落としてシャープさを極める方向というか。手触りとしては、「実用車の高性能バージョン」というよりも「実用車の形を借りたスポーツカー」だ。
とかなんとか書きつつ、個人的には500万円超という値段などに腹の底からはなじめないことも事実だ。アタマが古い。あるいはこのクルマを理解するのは、「実用車のかがみとしてのゴルフ」や「昭和軽薄体」や「嵐山光三郎が笑っていいとも増刊号の編集長だった」ことなんか知らなくて、さらに6気筒が4気筒よりエライなんてことも思わない、新世代のクルマ好きなのかもしれない。
(文=サトータケシ/写真=郡大二郎)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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