ホンダCR-Z α(FF/6MT)/β(FF/CVT)【試乗速報】
アラフォーの春 2010.03.17 試乗記 ホンダCR-Z α(FF/6MT)/β(FF/CVT)……310万9500円/255万4000円
「ハイブリッドカーなのにスポーツカー!?」 一見支離滅裂な新型車「ホンダCR-Z」にムチあてて、その“ホントのところ”をチェックしてみた。
懐かしい先進モデル
「ホンダCR-Z」は、タイムマシンみたいなクルマだった。小柄ながらカタマリ感のあるスタイルや清々しい乗り味は、1980年代後半の2代目“サイバー・スポーツ”「ホンダCR-X」を思い出させる。一方、インパネに表示されるエンジンとモーターの関係を意識しながら走らせると、新しいモノにふれる喜びを味わうことができる。だからCR-Zのステアリングホイールを握っていると、過去と未来を行ったり来たり。
もうひとつ面白かったのは、編集担当、カメラマン、ライターとも、“お買い物モード”になっていたことだ。取材班全員がこれだけ熱心にカタログを読み込む新型車は、ここ最近記憶にない。
パワートレインは1.5リッターのi-VTECエンジン+IMA(インテグレーテッド・モーター・アシスト)のみ。トランスミッションは6段MTとCVTが用意される。まずは豪華グレードの「α」(6MT)から試乗をスタート。
シート位置を合わせ、十分な調整幅を持つテレスコピック&チルト機構でステアリングホイールの位置を決めると、ドライビングポジションがビシッと決まる。着座位置はかなり低い。ちなみに、ドライバーのヒップポジションは「シビック タイプR」よりさらに30mm低いという。
削り出しのアルミにレザーを巻いたαのシフトノブは手触りがよく、コクンと入る手応えもいい。6段MTは、1.8リッターの欧州仕様のシビック用をベースにしたもの。ただしスターターの位置が違うため、設計はほぼ全面的に見直されている。
飛ばすだけが能じゃない
クラッチは軽すぎもせず、重すぎもせず、作動もスムーズ。ミートするポイントも適切だ。アクセルペダルを踏まずに、アイドリング状態からクラッチ操作だけでスタートを試みても気を遣わないですむ。もちろん、スムーズな発進は低回転域からトルキーなパワートレインのおかげでもある。「フィットRS」用の1.5リッターエンジンを主役にしたハイブリッドシステムは、アイドリング回転付近から力持ちなのだ。同条件で比較したわけではないので無責任なことは言えないけれど、1.3リッターエンジンを軸にするインサイトの発進加速はここまで力強くなかったと記憶している。車重は「CR-Z」のほうが30〜40kg軽い。
インパネには「SPORT」「NORMAL」「ECON」という3つのモードのスイッチが並ぶ。モードによって、「CR-Z」の性格はがらりと変わる。たとえば「SPORT」を選ぶと、アクセル操作に対するレスポンスが鋭くなり、加速時にはモーターががっつりアシストするようになる。また、EPS(電動パワーステアリング)もグッと手応えのある設定に変化する。ちなみにCVTの場合だと変速比の制御マップが変わり、「SPORT」ではより高回転を保つセッティングとなる。
「SPORT」モードに入れるとカーンと走るので、ついカーンと走らせたくなる。それもいいけれど、人間、カーンばかりだと飽きる。そんな時は「ECON」モードに入れて、省燃費ドライブにチャレンジだ。
インパネ右下のマルチインフォメーション・ディスプレイの小窓をエネルギーフロー画面にすると、エンジンとバッテリーがどんな関係で働いているかが図示される。その関係性を意識しつつ、タコメーターを取り囲むアンビエントメーターの色に注意して運転する。エコドライブが出来ているとグリーン、燃費の悪い運転だとブルーになるのだ。インパネがなるべくグリーンに輝くように気をつけてアクセルやシフトを操作していると、我慢や辛抱をするツラさよりも、工夫を凝らしたり知恵を絞ったりすることの面白さを感じるようになるから不思議だ。この楽しさは、線香花火を長持ちさせる楽しさに似ている。
細かい工夫で出した味
続いてシンプル仕様のβ(CVT)を試す。CVTでも動力性能には不満はない。というか、パワートレインとの相性でいえばCVTのほうがフィットしているかもしれない。「NORMAL」か「ECON」モードに入れている限り、温和にアクセルペダルを扱っていると特に意識しなくとも効率のよい回転域で走ってくれるからだ。ステアリングホイールにはパドルシフト(右がアップ、左がダウン)が備わり、7段のマニュアル操作をすることもできる。けれど、CVTをDレンジに入れっぱなしで走るほうが、新しい乗り物だという感じがする。
6MT、CVTに共通しているのがステアリングフィールのよさだ。このEPS(電動パワーステアリング)は、路面の状況やタイヤの向きといった情報をドライバーにクリアに伝えてくれる。シャシー担当のエンジニアにうかがったところ、インサイト用のEPSのモーターが60アンペアなのに対し、CR-Z用はたくさん人が乗って重くなることを想定したフリード用と同じ77アンペア。出力が約3割上がって余裕ができたぶんだけ、セッティングの幅が広くなったという。また、当初は三角形に近かったステアリングホイール断面の形状を円に変更したことも、ステアリングフィール向上に貢献したそうだ。
乗り心地は、硬い。特に段差を乗り越えた時の一発目、「カツーン」という入力はかなりダイレクトに伝わる。けれどもそれが不快に感じないのは、ボディがガッチリしているから。カツーンときても、ほかの場所が振動しないですっきり収束するから、辛口だけど後味が爽やかなのだ。インサイトとの乗り心地の比較で言うと、タイヤ空気圧の差がかなり影響を与えていると前出のエンジニア氏は語っていた(インサイトは前後230kPa、対するCR-Zは前が210kPaで後が200kPa)。特にリアの空気圧の違いが大きく、「CR-Z」のほうがしっとり落ち着く傾向にあるようだ。
気軽に、しっかり楽しめる
素直なハンドリングは、街中の交差点でも楽しめる。短いストロークを踏力でコントロールするタイプのブレーキもイイ感じだ。ただ、タイトコーナーでぴぴっと向きを変えるタイプではないから、ピュアなスポーツカーとして見ると不安を覚えるかもしれない。けれども日常で使う領域での快適性とファン・トゥ・ドライブを狙ったセッティングは、これはこれで見識だ。フルマラソンで3時間切りを狙う本格派アスリートではなく、肩の力を抜いて自分のペースで走るジョガーの趣。
発表後約20日間で約8000台の受注と、スタートはなかなか好調の様子。このクルマに「若者のクルマ離れ」だとか「冷え込む自動車産業の救世主」といった重荷を背負わせるのも酷だけれど、こういうクルマを待っていた人も少なからずいたのである。
試乗会からの帰りの車中、「なぜβの6MT仕様だとカーテンエアバッグが選べないんだ!」などなど、会話が弾む弾む。正直、この手のクルマがイマドキの若者の心に響くかどうかはわからない。けれども、アラフォーおじさんたちのハートを鷲づかみにしたのは間違いない。
(文=サトータケシ/写真=峰昌宏)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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