レクサスLS600hL バージョンUZ(5人乗り)(4WD/CVT)【試乗記】
レクサスだったらできるはず 2010.03.10 試乗記 レクサスLS600hL バージョンUZ(5人乗り)(4WD/CVT)……1794万2550円
レクサスブランドのフラッグシップサルーン「レクサスLS600h」がマイナーチェンジ。ハイブリッド化の波が押し寄せるこのクラスで勝ち抜くために必要なものとは?
先進性を演出
2009年秋に行われた初のマイナーチェンジで、「レクサスLS460」は大幅な進化を果たしていた。とは言っても、見た目が大胆に変わったとか、スペック表の数値が目に見えて大きくなったというわけではなく、そういう意味では変更点はむしろ目立つものではない。しかし乗れば明らかに、クルマとしての質の高まりを実感できる。そんな進化を遂げていたのである。
では、その時には試すことのできなかった「LS600h」については進化の度合いはどれほどのものなのか。今回じっくり試すことができたので報告したい。
まず目を引くのはエクステリアの変化だ。今度のモデルはハイブリッドであることをアピールするべくフロントマスクのデザインをLS460と違えている。3連LEDのヘッドランプやグリル、バンパーなどを専用デザインとしているのだ。ただし、これについては評価は難しい。たしかに空気を思い切り吸い込みそうには見えないという意味で違いはアピールできている。しかし特にそのグリルは、近寄ると安っぽく見えてガッカリさせられる。
インテリアでは、カラーTFT液晶を使ったファイングラフィックメーターの採用がトピックである。中心に置かれた280kmスケールの速度計の中に、ハイブリッドシステムの動作状況やナビの案内表示、ナイトビューなどを鮮やかに映し込むこのメーターは、個人的には回転計が隅っこに追いやられてドライバーズカー的なムードが後退してしまったことが気にはなるが、機能としては時代の先端を走るモデルにふさわしい雰囲気を演出するものだと言えるだろう。
一体感を削いでいる
あるいはもっとも注目を集めるのは、ラゲッジスペースの容量拡大かもしれない。これまで平面に積まれてスペースを侵食していたバッテリーを小型化し2段重ねとするレイアウトの変更を実施し、さらにスペアタイヤの代わりにパンク修理キットを標準設定とすることで、容量は330リッターから420リッターまで大幅に拡大。ゴルフバッグを指標にすれば9.5インチのそれを4個積めるというから、ようやくこのクラスにふさわしい広さを得たと言えるだろう。
走りに関する部分については、特に変更はアナウンスされていない。しかし実は、磨きがかけられたその洗練度こそ、今回のマイナーチェンジの一番のポイントだ。
たとえば乗り心地。従来のLS600hはエアサスペンションに、ややブルブルとした振動感があり快適性を損ねていたが、今回はそのあたりが俄然滑らかさを増し、よりしなやかなストローク感を得ている。特に減衰力可変ダンパーの「AVS」をコンフォートにセットすれば、乗り心地は快適そのもの。標準モデルに対して200kg以上もかさむ車重を、とりあえず乗り心地の面では支配下に置けるようになったという印象である。
一方でステアリングフィールは褒められたものではない。全般に手応えが薄く操舵の実感を得にくいし、据え切りすると妙に重くなったりもする。車重の重さに合わせて操舵力の設定を違えているのかもしれないが、思い通りに動いてくれない感覚は、かえってクルマとの一体感を削いでいる。
パワーフィールは絶品
しかしながら洗練されたパワー感と吹け上がりによるハイブリッドパワートレインの他では味わえない感動は、今もまったく色褪せていない。停止中のアイドリングストップがもたらす、おごそかな静寂感、モーター走行時の極上の滑らかさ、そこからエンジンが始動した時の振動、騒音の違和感の無さ、段付き感とは無縁にどこまでも伸びていくような加速感など、その魅力は挙げていけばキリが無い。回転計をないがしろにしてほしくなかったのは、この感動を視覚的にも味わいたかったからだ。
ハイブリッドシステム、そして空調の制御を変更するエコドライブモードスイッチも備わる。空調に関しては真夏に試してみないとなんとも言えないが、少なくとも動力性能については、エコドライブモードでまったく問題は無かった。今の時代、これが標準モードでもいいのに、とすら思えたほどである。
2007年のデビュー当時はこのクラスのハイブリッド車が他には無く、LS600hの独壇場といえる状況だった。しかし今やメルセデス・ベンツが参入し、BMWも投入秒読み段階と、競争は激化している。狙っている動力性能と燃費のバランスはそれぞれ違っているとはいえ、価格も含めて直接比較されると考えれば、LS600hにはまだ、特にフットワークと乗り心地の面で改善の余地は少なくない。
とはいえ、その絶品のパワーフィール、あるいは回生ブレーキを協調させたブレーキのタッチなどは、今もって大きなアドバンテージである。その魅力を一層生かすべく、さらなる進化、熟成を期待したい。レクサスにはできるはずだ。
(文=島下泰久/写真=高橋信宏)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。
































