マツダ・アテンザ プロトタイプ試乗会【試乗記】
正統派な二枚目 2012.10.06 試乗記 マツダ・アテンザ プロトタイプ(SKYACTIV-D 2.2搭載車/SKYACTIV-G 2.5搭載車/SKYACTIV-G 2.0搭載車)
コンセプトカーの「マツダ雄(TAKERI)」がそのまま道に降り立ったかのような新型「アテンザ」。その走りを箱根で試す。
ディーゼルには6段MT搭載車も
まだ国内で正式な発表を済ませていない新型「アテンザ」だが、そのプロトタイプに乗りませんかというお誘いがあった。試乗会場はマツダのテストコースでもサーキットでもなく、箱根のターンパイクなのだという。発売前のクルマを公道で試させるとはなんと大胆な! と思ったら、ご心配なく、全線貸し切りです、とのこと。もっと大胆だった。
当日、ターンパイクを上りきったところにある大観山駐車場には、アテンザのプロトタイプが惜しげもなくずらりと並べられた。もちろんいずれも右ハンドル車である。
ボディータイプはセダンとワゴン。エンジンは2リッター直4ガソリンと、今回のアテンザが初搭載となる2.5リッター直4ガソリン、および2.2リッターのクリーンディーゼル。そしてトランスミッションは6段ATで、ディーゼルには6段MTを搭載したものまで用意されていた。
「ソウルレッドプレミアムメタリック」と呼ばれる、深みのある赤メタで塗られたセダンのスタイリングは、箱根の空の下でとても伸び伸びとしているように見えた。格好よさの分類としては、いわゆる二枚目。それも正統派だ。まるでコンセプトカーの「マツダ雄(TAKERI)」がそのまま公道に現れたかのようでハッとさせられた。
マセラティやジャガーのような高価格車ではなく、200万〜300万円台で売られるセダン、それも日本車のセダンでこうした高揚した気分にさせられるのは久しぶりのこと。乗る前からワクワクし、なぜだか同時にとても誇らしい気持ちになった。
ど真ん中のセダンパッケージ
アテンザ セダンのスリーサイズは全長×全幅×全高=4860×1840×1450mmである。旧型(4735×1795×1440mm)に比べてずいぶん大きくなった。マツダのフラッグシップサルーンを名乗るのに十分な、堂々たるサイズである。また新型では、おもしろいことにワゴンのホイールベースが80mmも短縮されており、それにともない全長も60mm短くなっている。ちなみに、旧型にはあった5ドアハッチバック仕様(アテンザスポーツ)は用意されない。
ドアを開けて運転席に着く。すると水平基調の堂々とした造形のダッシュボードが目の前に広がった。基本的に室内は広々としているのだが、運転席にかぎってはそれなりにタイトさが演出されているようだ。ドライバーズセダンとして、どちらかといえば新奇な冒険は避け、オーソドックスな手法を採っているように思える。
もっとも、それは退屈という意味ではない。一見ウッドのようなパネルは、よく見れば金属的な質感を持ったワインレッドのプレートだったりと、新しさもある。造形や素材の質感にしても、旧型と比べてぐっと向上した。優雅なエクステリアにつり合った、オトナがちゃんと向き合えるインテリアだ。
後席の居住性に不満はない。これだけのボディーサイズであれば、それは当然と言うべきなのかもしれないが、頭まわりにしても膝まわりにしても、とても広々している。ホイールベースが短いワゴンだと若干膝まわりが狭まっているように感じられたが、大人4人が広々乗れることに変わりはない。
最近は「4ドアクーペ」を名乗るヨーロッパ車が増えてきたが、そういったクルマたちとアテンザを一緒にすべきではないだろう。
本命は2.2リッターディーゼルか
大観山駐車場をベースとし、まずはセダンの2.2リッターディーゼル搭載車で、1周(1往復)約10分の試乗コースに出た。トランスミッションは6段MTである。
わずか2000rpmで、2リッターガソリンの倍以上の42.8kgmというトルクを生み出すエンジンだけに、とにかく低回転からやたらと力強い。全長4.9m近いセダンボディーがふわーっと浮き上がるかのように加速する。しかもリミットの5700rpm付近まで、ガソリンユニットのように軽々と吹け上がるものだから、運転する楽しさまである。
ターンパイクのような道だとついついエンジンを回しがちになるが、日常的なディーゼルの美点は、むしろ回さないで済むところにあると言えそう。太いトルクにまかせてエンジン回転を抑えて走っていると、とにかく室内が静かなのだ。
それに比べると、ガソリンの2リッターユニットはよく回って、ターンパイクの上り坂でもなかなか生きのいい走りを見せるが、どうしても高回転を維持しがちになるので騒々しい印象をまぬがれない。これが2.5リッターになるとそれ相応に力強くなって、エンジン音も心なしか硬質でスポーティーなものに変わる。トランスミッションについては、6段MTはダイレクトなレスポンスが魅力的ではあるが、ロックアップ領域が広く、変速スピードが速い6段ATでも、クルマを自らの手で操っている感覚は十分に味わえた。
ハンドリングは、操舵(そうだ)に対してコーナリングフォースがごく自然に立ち上がり、軽快感も高い、とても気持ちがいいものだ。ロールを拒まず、じわじわっと漸進的に姿勢を変えていく一連のマナーには“上質感”がある。コラムアシストの電動パワーステアリングもフィールがいい。ブレーキは踏力(とうりょく)の増減によってコントロールしやすく、走りに対するマツダのこだわりがひしひしと感じられた。
乗り心地については、ターンパイクの路面は平滑でコンディションがおおむねよく、十分なチェックができたとは思えないが、この日、しなやかで一番快適だったのは2.2リッターディーゼル搭載車だった。2リッターガソリン搭載車は、唯一17インチタイヤを履く仕様(他はすべて19インチ)だったが、突っ張るような硬さが感じられた。2.5リッターガソリン搭載車は、両者の中間的な印象だった。
短時間ながらプロトタイプに試乗してみて、新型アテンザにはとても確かな手応えを得た。早く量産仕様を試してみたいものである。
(文=webCG 竹下元太郎/写真=マツダ)
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竹下 元太郎
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