ルノー・カングー1.6(FF/5MT)【試乗記】
旨味をしっかり味わえる 2010.02.01 試乗記 ルノー・カングー1.6……265万4440円
日本におけるルノー車イチの人気モデル「カングー」。ウケてる理由は「走りっぷり」の良さ。ということは、マニュアルで操ればもっと楽しい! はず。
車重なんと260kgアップ
先代(=初代)カングーは日本でカルト的人気を博した。確かに私の周囲にも3名のオーナーがいるし、少なくとも東京では本当によく見かける。これはなにも私がカングーを意識して見ている……というだけではないと思う。
ルノージャポンによれば、この新型カングーが日本導入された昨2009年9月時点で、日本だけで累計9000台が販売されたという。先代の最終期には、駆け込み需要をねらってルノージャポンが大量輸入したので、先代の累計台数は9月以降も少し伸びているはずである。しかも、現在もルノージャポンの某ショールームでは新車が置いてあったりするから、残りわずかではあるものの、まだ先代も新車を購入するチャンスはあるようだ。
そんな先代カングーだけに、この新型の全貌が明らかになったとき、先代オーナーあるいは「いつかはカングー」と思っていた予備軍の多くは面食らったことだろう。デカくなったからだ。モデルチェンジでのサイズアップはよくあることだが、カングーの場合はその巨大化の度合いがハンパではない。
まあ、欧州の同クラス商用車のサイズを見ると、もはやカングーは特別大きくもないのだが、あらためて新旧カングーを比較すると、新型は全長で18cm、全幅で15.5cm、全高で2cmも拡大しているから、ほとんど別物。先代は全長わずか4mそこそこで、全幅も5ナンバー枠におさまる日本にドンピシャのコンパクトサイズだったのに、新型は全幅がなんと1.8m超(!)である。巨大化したボディを支えるプラットフォームも先代が旧ルーテシア系だったのに対して、新型は1クラス上のメガーヌ系。1.6リッターという排気量は変わらないのに、車重もなんと260kg(AT)も増えたのだ!
重くなったぶん遅くなった!?
もっとも、いかにも商用車然として簡素だった先代に対して、新型は200万円台の輸入車としてあるべき装備はほぼフルに揃ったし(たとえばフルオートエアコンやオンボードコンピュータ、電動可倒式ミラーなどが新しい)、内外装の質感も確実に高級化したし、リアシート可倒機構もいかにも便利なワンタッチダイブダウン式となって、当たり前だが室内空間は大幅に広くなり、そしてシャシー能力はそりゃもう明確に大幅キャパシティアップした。それで価格は先代比で数万円しか違わないわけだから、実質的な値下げといっていい。
「カングーは小さいからよかった」といわれてしまうと私も反論しようもないが、少なくともある一点を除けば、新型カングーは文句なしに優秀なクルマであることは太鼓判を押していい。いや、積極的にバンバン推したい。
ここでいう「ある一点」とは動力性能である。先代カングーは、そのスタイルやスペックから舐めてかかるとビックリするくらい、速かった。市街地でも高速でも山道でも。その速さの最大の源泉はシャシーの良さだったが、意外と軽い車重もあってパワートレインのパンチ力も十分。4ATでもじつに小気味よく走ったものだ。
しかし、新型カングーはいかに改良されてパワーアップしたとはいっても、排気量が変わらないのに260kgも重くなったわけで、確実に遅くなった。本国発表の最高速はほとんど変わりないが、加速力はハッキリと鈍っている。とくに4ATは平坦路ではまあ不足ない動力性能を発揮してくれるものの、高速道路の上り勾配などでは明確なアンダーパワーを感じさせることも多く、いかんせんギアが4つだけではカバーしきれずに、フルスロットルでも変速を繰り返しながら失速……なんてケースもめずらしくない。
ネバリはまるでディーゼル
そこでマニア筋が期待すべきは5MTである。さすがはルノージャポン、新型カングーにもしっかりとMTを用意している。カングーの5MTはATに対してギアがひとつ多いだけでなく、全体にローギアードとなっている。トップの5速はATの4速より1割ほど低く、MTの4速とATの3速がほぼ同等、そして残る3つのギアがクロスしている。シフトレバーがインパネ上にあって、ステアリングから自然に手を伸ばせばそこにノブがあるのも嬉しい。メガーヌゆずりのCプラットフォームは右ハンドル仕様も丁寧に作りこまれており、カングーの3ペダルもその配置はほぼ完璧で、実用的な左足フットレストもきちんとある。しかも、その気になればヒール&トウもドンピシャと決められる絶妙な設計だ。
というわけで待望の新型カングー5MTで走り出すと、なにより印象的なのは、エンジンの驚異的なネバっこさである。少しばかり乱暴にクラッチミートしてもなにごともなく受け止めて、タイヤが少しでも転がっていれば、どのギアでも1000rpmから確実に加速していくから驚く。そこから遠慮なく踏み込んでいけば、5500rpmくらいまでしっかりとトルクを積み増していき、最終的には6500rpmまできっちりと回る。最も力感のあるパワーバンドは4000〜5500rpmくらいだ。しかしパワーバンドの訪れとともにノイズも高まる。しかも、これは試乗した個体だけの問題かもしれないが、インテリアのあちこちが共振してかなり騒がしい。
……というわけで、結局のところ、エンジンの柔軟さにかまけて市街地では無意識のうちに2000〜3000rpmでポンポンとシフトアップしてしまうのだが、それでもまったくフツーに力強く走ってくれるのだから大したものだ。まるでディーゼル。とびきり滑らかで静かなエンジンも、超高回転で炸裂するエンジンも気持ちいいが、こうして低回転で健気に仕事をするエンジンもまた快感。
「欧州の最新鋭ディーゼルを日本で乗りたい」とお考えのマニアの方々も多いだろうが、このカングー5MTはおそらく、今の日本で乗れる最もディーゼルっぽいガソリン車といっていい。もちろんガソリンエンジンなので、前記のようにムチを入れれば6500rpmまで回るし、アイドリングもガソリンらしい滑らかさである。
|
まさにルノー、さすがルノー
それにしても、新型カングーのハンドリングの素晴らしいことよ。当たり前だが、ここは4ATと同様だ。先代のように俊敏な小気味よさこそ望めないが、65扁平のミシュラン・エナジーという、まったくどうってことないタイヤを執拗に路面に吸いつかせる足さばきはさすがルノー。ロール量は少なくないが、ロールスピードも適切だし、四輪のグリップ情報は濃厚そのもの、そしてロールが深まりきってからいよいよ本領を発揮する接地感はまさにルノー。
|
メガーヌ用を移植したというブレーキも強力だし、電動パワステもすっかり板について、操舵タッチも情報伝達性ももはや文句はない。こりゃフランス車方面の好事家にはたまらないはず……なのだが、考えてみれば、欧州ではこれをパン屋さんや電気屋さんが日常的にコキ使っているわけである。トレビアーン。
新型カングーが気になっていて、免許や家族その他の条件でATが絶対というわけでもない……というのであれば、ぜひともMTに乗っていただきたいと、私は思う。もちろんATに比較して飛躍的に速く力強いわけではないけれど、新型カングーの動力性能に関するストレスはかなり低減されるのは確かだ。
|
それはなにも山道をブッ飛ばすようなシーンにかぎらない。ちょっとしたアップダウンやごく普通の高速追い越しだけでもギアがひとつ多く、それを自在に選べる効果は大きい。そしてなにより、この超フレキシブルなエンジンのコシの強い低速トルクを味わうには、ダイレクトなMTがいい。いい素材に余計な味つけはいらない。
(文=佐野弘宗/写真=本池邦雄)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。








































