トヨタSAI S(FF/CVT)【ブリーフテスト】
トヨタSAI S(FF/CVT) 2010.01.28 試乗記 ……359万3150円総合評価……★★★★
ハイブリッドセダン「レクサスHS250h」の“トヨタ版”たる、「SAI」に試乗。キモとなる環境性能からセダンとしての実力までチェックした。
磨けば今後も武器になる
「プリウス」ほど徹底して経済性を追求しなくとも、より上級の快適性と見た目の豪華さを狙って商品性を向上させたクルマ――そういう意味で、企画は成功している。
惜しむらくは、その乗り心地が、諸手を挙げて上級とまでは言いがたい点だ。ブルブルと振動が絶えない部分だけでも改善の必要がある。思うに、サスペンションはプリウスのコンポをそのまま使用しているのではないだろうか。ここはプリウスでも“いっぱいいっぱい”のところだから、SAIでは完全に無理をしている印象が拭えない。どうせやるなら、全体のバランスを考えてカサ上げしないと、最少量の法則に従って評価は下がってしまう。
エコという課題に対して皆が邁進する時期が一段落すれば、こうした上級指向が求められるのは世の常。この分野で一歩も二歩も他を引き離したトヨタとしては、後続組につけいる隙を与えないほうがいい。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
2009年12月7日に発売された「SAI」は、「プリウス」に続く、トヨタブランド2台目のハイブリッド専用車。その正体は、レクサス初となるFFのハイブリッドセダン「HS250h」と基本コンポーネンツを共有しつつ、“トヨタ車”としてデザインや機能をリニューアルさせたクルマである。
トヨタブランド内での立ち位置は、「クラウン」「マークX」と「プレミオ」「カローラアクシオ」の中間で、小さな高級車として扱われる。
2.4リッターエンジン+モーターを組み合わせるハイブリッドシステムも、「レクサスHS250h」と同じもの。レクサス車では全車に付随するサービス「ヘルプネット」もトヨタ車として初めて標準装備され、ボタンひとつで救急車などの助けを呼ぶことができる。
(グレード概要)
今回のテスト車は、エントリーグレードの「S」。2インチ大きな18インチホイールやLEDのヘッドランプ、プラズマクラスター付きエアコンなどの装備が追加された上級グレード「G」との2本立てとなっており、そのそれぞれにエアロパーツやレーダークルーズコントロールを備える「ASパッケージ」が用意される。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★★
ちょっとオマケして星5つ。情報の量は多い方だが、表示は比較的シンプル。センターコンソールの造りはやや大袈裟ながら、立体感あり。その上に備わるマウスのようなノブでナビやオーディオの操作ができる「リモートタッチ」は便利。ハイブリッド車の運転に必要な情報が表示される「エネルギーモニター」は大きくて良い。
中央下部にある物入れには、フタが欲しい。置いた荷物が転げ落ちてブレーキペダルの下にでも入ったら大変だ。足踏み式のサイドブレーキとパーキングスイッチのリリース部分は一元化できないものか。
(前席)……★★★★
シートそのものはサイズも十分で座り心地もよろしい。
ただ、独特なセンターコンソールの存在は、室内をややせせこましく見せているし、横席方向への移動も困難だ。
視界の点では、ダッシュの見切りが高く前方直下は見えないが、ノーズは短くさほど気にはならない。三角窓後方のドアサッシュが太めで、斜め前方はやや見にくい。ヘッドレストの前方下端が前に出る調節機構はいいが、調整量はもう少し欲しい。
(後席)……★★★★
前席の背もたれを不必要に分厚くせず、カドも削いであるため、膝のまわりには余裕がある。いわく、この前後方向のスペースは、クラウンより広いとか。
外から見ると頭の後方がリアウィンドウに迫っているが、目前の空間そのものは広く、ルーフも結構高く感じられる。靴先もシート下に入るため余裕があり、センタートンネルが低いおかげで、FRの高級車より3人掛けが楽だ。リアウィンドウの電動サンシェードは、背後からの直射を効果的に遮ってくれる。
(荷室)……★★★
ハイブリッド車は、その宿命として、バッテリー格納のためにラゲッジスペースが限られることを納得しなければならない。しかしながら、SAIの場合は特別小さな感じもなく、フロアは、並みのハッチバック車以上の面積が確保されている。そのフロアレベルは、バンパー高よりも低く、思いのほか深い。リアウィンドウ直後から開くリッドは開口部が大きいから、荷物の積み込みに便利だ。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★★
ガソリンエンジンの排気量を2.4リッターに増やした分、1.8リッターのプリウスより加速は有利。モーター駆動まで加わると、豪快と言える。無段変速ゆえ加速の段差がないまま高速域に達するのは、ちょっと不気味なくらいだが、“よく伸びるセカンドギア”的な快感がある。クルーズに入ると電気式オーバードライブなんかあればいいなと思う。
登りのきつい高速道路などでの追い越しでも不満はなさそうだが、重量もそれなりに増加しているから、そのぶん数字上の“恩恵”は差し引かれる。
発進時にEVで走り出せるのはいい。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
この項目はSAIの不得意科目だ。上級グレードに採用されている、見た目を気にした18インチタイヤは不適。バネ下の重さにサスペンション剛性がついていけない。205/60R16サイズのタイヤを履く今回テスト車でも、感覚的に華奢な印象がつきまとう。径を大きくするのは賛成できるが、太くするのはエコカーの主旨に反する。ただし、操舵感だけを好意的にとらえるならば、グリップが向上した分手応えは増したといえる。
(写真=峰昌宏)
【テストデータ】
報告者:笹目二朗
テスト日:2009年12月9日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2009年型
テスト車の走行距離:1337km
タイヤ:(前)205/60R16(後)同じ(いずれも、ダンロップSPスポーツ230)
オプション装備:ボディカラー(3万1500円)/インテリジェントAFS(3万1500円)/フロントフォグランプ(1万500円)/SRSリアサイドエアバック+後左右席プリテンショナー&フォースリミッター機構付きシートベルト(3万450円)/電動リアサンシェード(3万1500円)/G-BOOK mx Pro専用DCM(6万7200円)/ETCユニット(1万500円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3):高速道路(7)
テスト距離:659km
使用燃料:37.7リッター
参考燃費:17.48km/リッター

笹目 二朗
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】 2025.11.25 インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。
-
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。 -
NEW
あの多田哲哉の自動車放談――ロータス・エメヤR編
2025.12.3webCG Movies往年のピュアスポーツカーとはまるでイメージの異なる、新生ロータスの意欲作「エメヤR」。電動化時代のハイパフォーマンスモデルを、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんはどう見るのか、動画でリポートします。 -
タイで見てきた聞いてきた 新型「トヨタ・ハイラックス」の真相
2025.12.3デイリーコラムトヨタが2025年11月10日に新型「ハイラックス」を発表した。タイで生産されるのはこれまでどおりだが、新型は開発の拠点もタイに移されているのが特徴だ。現地のモーターショーで実車を見物し、開発関係者に話を聞いてきた。 -
第94回:ジャパンモビリティショー大総括!(その3) ―刮目せよ! これが日本のカーデザインの最前線だ―
2025.12.3カーデザイン曼荼羅100万人以上の来場者を集め、晴れやかに終幕した「ジャパンモビリティショー2025」。しかし、ショーの本質である“展示”そのものを観察すると、これは本当に成功だったのか? カーデザインの識者とともに、モビリティーの祭典を(3回目にしてホントに)総括する! -
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】
2025.12.3試乗記「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。

































