トヨタ・クラウンマジェスタ(FR/CVT)/SAI(FF/CVT)/カローラ アクシオ ハイブリッド(FF/CVT)
変わった良さ、変わらない良さ 2013.10.11 試乗記 フルモデルチェンジでモーターアシストを得た「クラウンマジェスタ」など、タイプの異なるトヨタの最新ハイブリッドセダン、3モデルに試乗。それぞれの仕上がりを報告する。クラウンマジェスタ:かつての美点はどこへ?
「クラウンマジェスタ」は、今回の試乗会で一番楽しみにしていたクルマ。なぜなら、マジェスタは「センチュリー」を除くトヨタ車のトップに君臨する存在だから。つまり、これよりよくできたトヨタ車はないはずで、あったら構成としておかしいことになる。
けれど、新型にちょい乗りして、あれっと思った。期待をふくらませ過ぎたパターンか。内外装のデザインやセンスについては、狙った層、すなわち横文字職業や外資系エリートあたりではない、ジャパニーズ超保守層に向けられたのだろうから文句はない。メルセデス・ベンツやBMWと直接戦うのはレクサスであり、マジェスタがバタ臭くなる必要はないのだ。「クラウン」シリーズはフォードにとっての「リンカーン・コンチネンタル」のように、これまで乗ってきた人に永遠に乗り続けてもらうための商品だ。
不満なのはそこではない。昔のマジェスタは、その姿から想像する通りの、日本的価値観から見る高級感にあふれていて、“E”や“5”じゃなく、あえてマジェスタを選ぶ理由がもっと明確だったはずだ。例えば、スタートからせいぜい80km/hあたりまでの極低速域での静粛性や柔らかい乗り心地、振動のなさにおいて優れていた。ステアリングをはじめ、ペダルやシフトレバー、それに各種スイッチの操作性もよかった。そうした美点に、丁寧な接客態度や充実したアフターサービスといったソフト面がのっかって、日本に君臨する高級車だったはずだ。
だが、ソフト面こそ買って使わないと確認できないものの、プロダクトからはさっき言ったような昔ながらの美点を見つけることができなかった。“演歌だろうがなんだろうがいい歌はいい”的な要素を感じることができなかった。
なにより、3.5リッターV6+THS(トヨタ・ハイブリッド・システム)の音が車内に結構入ってくる。入ってくること自体は悪いことではないが、心地よく入ってこない。ハイブリッドは機構上、走行中にしばしばエンジンが始動するが、そのたびにブーンとうなるし、負荷をかけて吹け上がる際のエンジンの回転フィーリングに、直4ハイブリッドとは決定的に異なるスムーズさもない。これなら2.5リッター直4+THSで燃費がいいほうがいいんじゃないか。しかし、それだとクラウンを少しストレッチしただけのクルマになってしまう。ここはやっぱり伝統の低速極上体験を提供するため、V8を残しておいたほうがよかったのではないかと思う。
カタログ燃費18.2km/リッターは決して悪い数値ではないけれど、前からある「フーガハイブリッド」並みだし、欧州からはディーゼルがやってき始め、 それらは安い燃料で15km/リッターくらい走るわけで、特別ありがたいわけでもない。THSは依然として素晴らしいシステムだが、他社の効率の高いエンジンと組み合わせられたワンモーター・ハイブリッドとの燃費差は確実に縮まっている。THSは「プリウス」のような小さすぎず大きすぎないクルマに使って、どえらい燃費をたたき出すのが得策ではないだろうか。
レクサス何するものぞ、と開発が続けられるマジェスタだが、結果的に「レクサスLS」が何世代かかけてマジェスタの役目を終了させつつあるのかもしれない。トヨタとレクサスの両方にフラッグシップは不要ということか。
SAI:イメチェンしてもまじめなコ
「SAI」は「レクサスHS250h」のトヨタ版。これまで、とてつもなく地味な見た目をしていたが、今回のマイナーチェンジでガラリと変わり、エグみを感じさせる大胆なルックスとなった。クラスで一番地味だったメガネの女子が夏休み明けにコンタクトにして髪型も変えて登校し隣のクラスの男子が休み時間にわざわざ見にくる、レベルの変わりようだ。
「夏休み中、いったいあいつに何があったのか!」的な興味をもって、SAIに接してみたが、乗ったらこれまでと一緒だった。見た目は激変したものの、席に着くと1学期と同じように関ジャニ∞の話題で無邪気に友達と盛り上がっていて、中身まで変わったわけじゃなかったんだという印象。
変わっていないというのは別に悪い意味ではない。必要十分にトルキーだし、重いものが低い位置にあるなと感じさせるものの、スポーティーともまた違う普通のセダンで、こういうクルマがあってよい。クルマは必要だし、燃費がいいほうがありがたいが、しょっちゅう考えるほどの興味はないという人が、この世はほとんど。そういう人が買って不満の出ない仕上がり。
そうそう、気に入った点をふたつ。駆動用バッテリーを搭載するにもかかわらず、トランク容量は429リッターあり、形もスクエアなので使いやすいし、室内も十分に広い。また、レザーであってもファブリックであっても、シートのショルダー部分に差し色が入っていて、なんかよかった。
カローラ アクシオ ハイブリッド:ベストセラーのさらなる“受け皿”
実質的には、現代の「ホンダ・シビック」が「フィット」であるように、現代の「カローラ」は「プリウス」だ。けれど、日本ではシビックをやめてしまったホンダと違って、トヨタはカローラも残している。おそらく、何十年もベストセラーを続け、クルマはずーっとカローラできたので、次もカローラに決めているという人の数が、まだまだ商売できるだけ残っているからだ。
2012年5月にカローラがモデルチェンジして現行型に切り替わった際、ハイブリッドシステムは搭載されなかった。また、これまでよりもひとつ小さい「ヴィッツ」などと共通のプラットフォームを用いて開発された。このことから、トヨタはカローラをプリウスや「アクア」とも戦うベストセラー返り咲き狙いではなく、コンパクトで安価な方向へシフトし、ずっとカローラできた人の受け皿としてそれなりに商売するのだなと感じた。
だが、ここへきて、カローラにもハイブリッドが搭載された。1.5リッター直4エンジン+ハイブリッドシステムというアクアのコンポーネンツが流用される。車両重量はアクアよりも少し重いようだが、乗った感覚は似たようなもの。燃費も33.0km/リッター(JC08モード)と、アクアがオプションを装備して重くなった場合と同じ。走りの印象は特にない。コストが許す範囲で、ただひたすらに年配層から文句の出ないソフトな乗り心地や安楽な操作系を目指して開発されたはずだ。目をひんむいて乗り、ハイブリッドじゃないカローラやアクアとの微妙な乗り味の違いを見つけることも、できないことはないと思うが、ほとんど意味はないだろう。カローラ登場から程なく登場したのは、当初よりハイブリッド化も視野に入れて開発していて、要望が多かったのですぐに対応したということだろう。
最初に言ったように、トヨタにとって実質的なカローラは随分前からプリウスに切り替わっているので、現在のカローラに対してはさして興味がわかない。セダンのアクアが欲しいという人はどうぞ。
(文=塩見 智/写真=高橋信宏)
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テスト車のデータ
トヨタ・クラウンマジェスタ“Fバージョン”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4970×1800×1460mm
ホイールベース:2925mm
車重:1860kg
駆動方式:FR
エンジン:3.5リッターV6 DOHC 24バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:292ps(215kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:36.1kgm(354Nm)/4500rpm
モーター最高出力:200ps(147kW)
モーター最大トルク:28.0kgm(275Nm)
タイヤ:(前)225/45R18(後)225/45R18(ダンロップSPスポーツ2050)
燃費:18.2km/リッター(JC08モード)
価格:670万円/テスト車=700万5550円
オプション装備:ボディーカラー<プレシャスシルバー>(5万2500円)/225/45R18 91Wタイヤ+18×8Jアルミホイール<ダイヤモンドカット+グレーメタリック>&センターオーナメント(2万1000円)/マイコン制御チルト&スライド電動ムーンルーフ(10万5000円)/ITSスポット対応DSRユニット<ETC機能付き>(2万2050円)/HDDナビゲーションシステム(10万5000円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--
トヨタSAI G
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4695×1770×1485mm
ホイールベース:2700mm
車重:1590kg
駆動方式:FF
エンジン:2.4リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:150ps(110kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:19.1kgm(187Nm)/4400rpm
モーター最高出力:143ps(105kW)
モーター最大トルク:27.5kgm(270Nm)
タイヤ:(前)215/45R18(後)215/45R18(ブリヂストン・ポテンザRE050A)
燃費:22.4km/リッター(JC08モード)
価格:382万円/テスト車=429万2658円
オプション装備:215/45R18タイヤ+7Jアルミホイール<センターオーナメント付き>+パフォーマンスダンパー<フロント・リア>(13万2300円)/リアスポイラー<ラゲッジ>(3万1500円)/ワイドビューフロントモニター+クリアランスソナー&バックソナー(8万4000円)/SRSリアサイドエアバッグ+後左右席プリテンショナー&フォースリミッター機構付きシートベルト(3万450円)/快適温熱シート(1万5750円)/電動リアサンシェード(3万1500円)/G-Book mX Pro専用DCM+ヘルプネット<エアバッグ連動タイプ>(6万7200円)/アクセサリーコンセント+パンク修理キット(6万3000円)/ETC車載器ビルトインタイプ<ボイス・ナビ連動タイプ>(1万6958円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--
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トヨタ・カローラ アクシオ ハイブリッドG
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4360×1695×1460mm
ホイールベース:2600mm
車重:1140kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:74ps(54kW)/4800rpm
エンジン最大トルク:11.3kgm(111Nm)/3600-4400rpm
モーター最高出力:61ps(45kW)
モーター最大トルク:17.2kgm(169Nm)
タイヤ:(前)185/60R15 84H/(後)185/60R15 84H(ブリヂストンB250)
燃費:33.0km/リッター(JC08モード)
価格:207万5000円/テスト車=252万4873円
オプション装備:185/60R15 84Hタイヤ&15×5.5Jアルミホイール<センターオーナメント付き>(4万7250円)/プロジェクター式ディスチャージヘッドランプ<ロービーム・オートレベリング機能付き>+オートマチックハイビーム+自動防眩(ぼうげん)インナーミラー+コンライト<ライト自動点灯・消灯システム>(9万2400円)/ウオッシャー連動リア間欠ワイパー(1万4700円)/スマートエントリー<運転席・助手席・バックドア/アンサーバック機能付き、スマートキー2個>&スタートシステム+盗難防止システム<エンジンイモビライザーシステム>(4万5150円)/エクセレントナビG-Book mX Proモデル(23万9925円)/ETC車載器ビルトインタイプ<ベーシックタイプ>(1万448円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--

塩見 智
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