アウディQ7 4.2 FSI クワトロ(4WD/6AT)【ブリーフテスト】
アウディQ7 4.2 FSI クワトロ(4WD/6AT) 2009.11.27 試乗記 ……1189.0万円総合評価……★★★★
内外装をリファイン、さらに燃費・安全性の向上も謳うアウディ「Q7」に試乗。走りのフィーリングには満足したリポーターだったが……。
都会派にこそディーゼルを!?
都会的な雰囲気とラクシャリーセダン顔負けの存在感、そして、スポーティな走りが評判の「アウディQ7」がマイナーチェンジを実施した。そこかしこにLEDを散りばめ、ハイテックでシャープな印象を強めたのが新型の見どころである一方、中身はおおむねマイナーチェンジ前と同じで、パワートレインやサスペンションの熟成を進めるとともに、装備のバージョンアップを図ったというのが、新型Q7の特徴だろう。
それだけに、走りにも装備にも、取り立てて文句をいうところはないが、見過ごせないのはQ7 4.2の燃費。マイナーチェンジにより10・15モード燃費が向上したのは評価すべき点だが、それでもドライブコンピューターを見ているかぎり、都内中心の使い方だと5〜6km/リッターの数字は、財布だけでなく、心まで痛む。
4.2リッターV8のスポーティなフィーリングや余裕あるパワーは魅力的だけれど、CO2排出に気遣うという意味からも、1日も早くアウディご自慢のTDIが日本に上陸することを願う。厳しい日本の排ガス規制をクリアするクリーンディーゼルこそ、都会派のQ7にふさわしいモデルではないだろうか。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
2005年9月のフランクフルトショーでお披露目された、アウディ初の大型SUV。日本では2006年10月に発売された。
SUVの多様性と高級車のプレミアム性を融合させたというQ7は、本格オフローダーの老舗ランドローバーが扱う「レンジローバー」、ポルシェ初のSUV「カイエン」をも上まわる5m超のボディに、3列7人乗りのパッケージングとしたのが特徴。アウディの4WDシステム「クワトロ」を採用し、オンロードではスポーツカー並みの運動性能を、オフロードでも高い走破性を発揮すると謳われる。
2009年9月のマイナーチェンジで、ヘッドランプやホイールをはじめとする、内外装が若干変更された。ブレーキには運動エネルギーを回収する回生システムが追加され、3.6リッターV6が7%、4.2リッターV8で7.5%それぞれ燃費が向上したとされる。
あわせて、車線変更時や車線逸脱時の危険を知らせるシステムやクルーズコントロールなど、高級車ならではの安全技術も盛り込まれた。
(グレード概要)
試乗車は、上級グレードの「4.2 FSI クワトロ」。V6エンジンを搭載する下位グレードの「3.6 FSI クワトロ」もラインナップするが、エンジンのほか、4ゾーン独立温度調節式のエアコンや、アドバンスドキーシステム、オートマチックテールゲートといった快適装備が差のつくところ。外観では、4.2 FSI クワトロの、ひとまわり大きな19インチホイールが識別点となっている。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
“カム”のような形状のリングに速度計と回転計が収まるユニークなメーターパネルは以前と同じデザインだが、さっぱりとしていたダッシュボードにウッドパネルを追加したり、スイッチ類にクロームメッキを施すことなどによって、着実に質感は向上している。
うれしいのは、MMIと呼ばれるインフォテインメントシステムのバージョンアップだ。DVDタイプのナビゲーションシステムがHDDに変わるとともに、モニターがQVGAからVGAの高精細タイプに変更されたおかげで、地図は見やすくなり高級感もアップ、目的地検索もこれまでより便利になった。
オプション設定の「バング&オルフセン・アドバンスドサウンドシステム」はスイッチオンと同時に、ダッシュボードの両端から“アコースティックレンズ”なるツィーターがせり上がる、見た目にもスペシャルなサウンドシステム。その透明感のあるサウンドには聴き惚れたが、84万円という価格には、さすがに尻込みしてしまった。
(前席)……★★★★
セダンと比べて明らかに高い位置にあるシートは、乗り降りに少し手間取るが、ゆったりとしたシートに収まってしまえば、視界も良く、実に快適だ。
試乗車はオプションの「アウディサイドアシスト」を装着。これは、レーダーを使って並走車の存在を感知し、車線変更などの際の接触事故を防ぐシステムだが、ついうっかり並走車を見落としていたときなどには、実にありがたい。車線逸脱防止の「アウディレーンアシスト」、「アダプティブクルーズコントロール」とのセットオプション(ドライブアシストパッケージ)は、価格が45万円と決して安くはないが、できれば装着しておきたいオプションである。
(2列目シート)……★★★
Q7 4.2は3列シートが標準であり、この場合、セカンドシートにスライド機構がつく。さすがに一番前のポジションでは膝が立って窮屈だが、少しうしろにスライドさせれば、自然な姿勢を取ることができる。一番うしろのポジションなら、足が組めるほどのスペースに恵まれる。しかし、後輪に近づくためか、オプションの20インチタイヤが拾うショックが伝わってくる。オプションのパノラマサンルーフのおかげもあり、開放感は実に高い。
(3列目シート)……★★★
ルーフがうしろ下がりで、いかにも狭そうに見えるサードシート。しかし、身長167cmの私の場合、髪が天井に触れることはなく、クーペの後席に押し込められるのに比べたら、はるかに居心地はいい。セカンドシートを一番うしろまでスライドさせると、足の置き場に困るものの、2〜3段前に出せば、窮屈とはいえ、なんとかガマンできそうだ。子供なら十分な広さだろう。
心配した乗り心地だが、前席やセカンドシートに比べると多少上下動が大きめとはいえ、決して不快ではなくひと安心。セカンドシートで気になった、後輪が拾うショックは、むしろこのサードシートのほうが小さいほどだ。
(荷室)……★★★★
リモコンキーでテールゲートを開けると、広い開口部が印象的なQ7のラゲッジスペース。バンパーレベルが高く、重い荷物や大きい荷物の積み下ろしには気を遣いそうだが、エアサスペンション装着車ならリアエンドが下げられるから、とても助かる。
荷室は、サードシートを立てた状態だと手荷物が置ける程度のスペース。一方、サードシートを床下に収納してしまえば、ステーションワゴン並みの奥行きになり、天井の高さも十分あるから、大きな荷物も難なく飲み込みそうだ。もちろんいざというときにはセカンドシートを倒して、さらに荷室を拡大できる。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
動力性能は3.6リッターV6でも必要十分だが、あらゆる場面でストレスなく走らせたいなら、やはりこの4.2リッターV8を選びたい。低回転でトルクに余裕があり、スムーズかつ静かに発進できるのは、大排気量エンジンの強み。アクセルペダルに対するエンジンの反応も良好で、街なかで流れに合わせて速度を加減する場面でも、後れを取ることがない。
一方、高速道路の合流などで加速を試みれば、V8らしいサウンドを響かせながら6500rpmあたりまで気持ちよく回転を上げていく。6段ATもスムーズで、気になるような癖も見あたらなかった。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
Q7 4.2では、コイルスプリング付きサスペンションと265/50R19タイヤが標準だが、この試乗車にはオプションの「アダプティブエアサスペンション」と275/45R20タイヤが装着されていた。街なかでは20インチタイヤが路面のショックを拾うこともあったが、乗り心地はおおむね良好。オールマイティな「オート」モードを選んでおけば、SUV特有の揺れを抑えて、落ち着いた動きを見せる。乗り心地も快適だ。首都高速で路面の継ぎ目を通過するようなときでも、ショックの遮断はまずまずである。
高速道路では、オートのままでも十分なフラットさを示すが、さらにピシッとした動きがお好みなら「ダイナミック」モードを選ぶといい。ダイナミックモードではオートよりも多少乗り心地がハードな味付けになるものの、快適さは削がれない。通常よりも15mm車高が下がるので、空力の面でも有利。ということは、燃費にも効くわけで、高速ではできるだけダイナミックを選びたい。
今回は山道に連れ出すことができなかったが、街なかや首都高速のカーブなどを通過するような場面でもハンドリングに軽快さが感じられた。SUVらしからぬ走りも、Q7の魅力である。
(写真=荒川正幸)
【テストデータ】
報告者:生方聡
テスト日:2009年10月18日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2009年型
テスト車の走行距離:1977km
タイヤ:(前)275/45R20(後)同じ(いずれも、ヨコハマADVAN Sport)
オプション装備:10スポークVデザインアルミホイール+275/45R20タイヤ(20.0万円)/アダプティブエアサスペンション(40.0万円)/パノラマサンルーフ(30.0万円)/バング&オルフセン アドバンストサウンドシステム(84.0万円)/ドライブアシストパッケージ(45.0万円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3):高速道路(7)
テスト距離:311.8km
使用燃料:60.08リッター
参考燃費:5.19km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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