第116回:「ヨン様人形」に、日本の未来を考えた!
2009.11.07 マッキナ あらモーダ!第116回:「ヨン様人形」に、日本の未来を考えた!
アニメ・冬のソナタ展
先日、東京出張の折、銀座を歩いていると松坂屋に差し掛かった。銀座好きのボクであるが、正直なところ幼少期以来訪れた回数が最も少ないデパートである。だが、そこにあったイベント告知に目が止まった。ずばり、「アニメ『冬のソナタ』展」だ。
オリジナル「冬のソナタ」といえば、主演の「ヨン様」こと、ペ・ヨンジュンである。ヨン様は遡ること4年前の2005年に、日本で「ヒュンダイ・ソナタ」のコマーシャルに出演して話題を呼んだ。
「冬のソナタ」に「ヒュンダイ・ソナタ」という、「もっと早く気がつけよ」的組み合わせであった。まあ、日本におけるヒュンダイの売れ行きが限られている手前、高額の出演料を出すのに、それなりの勇気が必要だったに違いない。
意地悪なボクは当時、「あれ、ヨン様は以前、ダイハツでイメキャラやってなかったっけ?」などと思ったもの。ヒュンダイのディーラーには、そのブランドをまったく知らなかったであろうヨン様ファンの奥様方が続々訪れたらしい。その頃ボクもちょうど東京に出張していて、そのとき販売店でもらったヨン様記念ポストカードを今も保管している。
いやー、今回はアニメになって再登場か。屋上には、なんと「ヨン様」の等身大模型が置いてあった。隣に期間限定でしつらえられた「アニソナ(アニメ冬のソナタ)カフェ」でお茶をするマダムたちは、もうヒュンダイもソナタも忘れてしまっているんだろうな。
ボクはヨン様に、ヒュンダイが東京ショーに出展を取りやめたことや、都内でヒュンダイの個人タクシーが目立つようになってきたことなどを報告した。彼は黙って聞いていた。
イタリアと同じ道をたどる?
そういえば前の週に訪れた東京モーターショー会場では、韓国の新興電気自動車メーカー「CT&T」が、人気歌手&俳優「Rain」をPR大使として登場させた。
案の定、ゲストとして招待された女性ファンに大好評だった。いやはや、スバル販売店に昨年いたエビちゃんポスターは消えたが、韓流のほうは根強く継続していることを、まざまざと見せ付けられた。
それで思い出したのは、イタリアのテレビだ。イタリアでは、昼の連続ドラマが安定した人気を誇っている。その横綱的存在は「ビューティフル」という奥様向け昼ドラだ。ファッション業界に生きる人たちのラブロマンスで、月曜日から金曜日の毎日放送している。
なにがスゴいかというと、1990年から今日まで、ひたすら放送されていることだ。毎日少しずつ具を足しては煮詰めているため、何十年前に作り始めたのかわからない、老舗のうなぎ屋のタレみたいなものである。ドラマの結末を知らずに、この世を去ってゆくお年寄りの数は、毎日更新されているのだろう。
実はこの「ビューティフル」、アメリカから輸入しているドラマである。ついでにいうと、そうしたドラマのイメージを模倣したイタリア製ドラマまで作られるようになってきた。日本のテレビも、やがて人気ドラマは輸入依存という時代が来るのかもしれない。
ここでボクの大予言である。日本でも、いつか韓国車が売れる時代が来る。ボクが日本の友人にそう言うと、
「なんだかんだ言って、いまだクルマがステイタスシンボルである日本で、アジア諸国のブランド普及は無理」というのが、大方の反応である。
しかし日本では、すでに携帯電話の世界で、韓国メーカーが急速にバリエーションを増やしている。先に他国で発表されていた「サムソン製アルマーニ携帯」も販売されるようになった。
次にくるのは、少々時間はかかるかもしれないが「クルマ」であろう。ブランドに対する既成概念にとらわれない新しい世代の日本人が、韓国車を抵抗なく買う時代がやってくる気がする。
実は、携帯の世界でもクルマの世界でも、韓国ブランド普及は、イタリアが先に歩んできた道である。そのイタリアでは、今や中国車もピックアップトラックなどから上陸しているのだ。
そういうボクは、スモークのかかったサングラスにちょいと派手な衣装で韓国メーカーの周辺をうろつけば、アラサー、アラフォー夫人たちの注目を浴びるのではないか? という、不純なことを考えている。そのためにも、再来年もぜひモーターショーをやりましょう!
(文=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA/写真=大矢アキオ、HYUNDAI Motor)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
第932回:参加者9000人! レトロ自転車イベントが教えてくれるもの 2025.10.16 イタリア・シエナで9000人もの愛好家が集うレトロ自転車の走行会「Eroica(エロイカ)」が開催された。未舗装路も走るこの過酷なイベントが、人々を引きつけてやまない理由とは? 最新のモデルにはないレトロな自転車の魅力とは? 大矢アキオがリポートする。
-
第931回:幻ですカー 主要ブランド製なのにめったに見ないあのクルマ 2025.10.9 確かにラインナップされているはずなのに、路上でほとんど見かけない! そんな不思議な「幻ですカー」を、イタリア在住の大矢アキオ氏が紹介。幻のクルマが誕生する背景を考察しつつ、人気車種にはない風情に思いをはせた。
-
第930回:日本未上陸ブランドも見逃すな! 追報「IAAモビリティー2025」 2025.10.2 コラムニストの大矢アキオが、欧州最大規模の自動車ショー「IAAモビリティー2025」をリポート。そこで感じた、欧州の、世界の自動車マーケットの趨勢(すうせい)とは? 新興の電気自動車メーカーの勢いを肌で感じ、日本の自動車メーカーに警鐘を鳴らす。
-
第929回:販売終了後も大人気! 「あのアルファ・ロメオ」が暗示するもの 2025.9.25 何年も前に生産を終えているのに、今でも人気は健在! ちょっと古い“あのアルファ・ロメオ”が、依然イタリアで愛されている理由とは? ちょっと不思議な人気の理由と、それが暗示する今日のクルマづくりの難しさを、イタリア在住の大矢アキオが考察する。
-
第928回:「IAAモビリティー2025」見聞録 ―新デザイン言語、現実派、そしてチャイナパワー― 2025.9.18 ドイツ・ミュンヘンで開催された「IAAモビリティー」を、コラムニストの大矢アキオが取材。欧州屈指の規模を誇る自動車ショーで感じた、トレンドの変化と新たな潮流とは? 進出を強める中国勢の動向は? 会場で感じた欧州の今をリポートする。
-
NEW
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】
2025.10.18試乗記「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。 -
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】
2025.10.17試乗記「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。 -
スバルのBEV戦略を大解剖! 4台の次世代モデルの全容と日本導入予定を解説する
2025.10.17デイリーコラム改良型「ソルテラ」に新型車「トレイルシーカー」と、ジャパンモビリティショーに2台の電気自動車(BEV)を出展すると発表したスバル。しかし、彼らの次世代BEVはこれだけではない。4台を数える将来のラインナップと、日本導入予定モデルの概要を解説する。 -
アウディQ5 TDIクワトロ150kWアドバンスト(4WD/7AT)【試乗記】
2025.10.16試乗記今やアウディの基幹車種の一台となっているミドルサイズSUV「Q5」が、新型にフルモデルチェンジ。新たな車台と新たなハイブリッドシステムを得た3代目は、過去のモデルからいかなる進化を遂げているのか? 4WDのディーゼルエンジン搭載車で確かめた。 -
第932回:参加者9000人! レトロ自転車イベントが教えてくれるもの
2025.10.16マッキナ あらモーダ!イタリア・シエナで9000人もの愛好家が集うレトロ自転車の走行会「Eroica(エロイカ)」が開催された。未舗装路も走るこの過酷なイベントが、人々を引きつけてやまない理由とは? 最新のモデルにはないレトロな自転車の魅力とは? 大矢アキオがリポートする。 -
ミシュランもオールシーズンタイヤに本腰 全天候型タイヤは次代のスタンダードになるか?
2025.10.16デイリーコラム季節や天候を問わず、多くの道を走れるオールシーズンタイヤ。かつての「雪道も走れる」から、いまや快適性や低燃費性能がセリングポイントになるほどに進化を遂げている。注目のニューフェイスとオールシーズンタイヤの最新トレンドをリポートする。