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第397回:トヨタF1撤退で一言!
「涙は打ち込んだもののためにだけ流される」

2009.11.06 小沢コージの勢いまかせ! 小沢 コージ
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第397回:トヨタF1撤退で一言!「涙は打ち込んだもののためにだけ流される」

自動車産業は「ビジネス」だけにあらず!

トヨタがF1から撤退するそうな。
それ自体は俺が言うのもナンだが、まあいい、というか仕方ないだろう。以前からウワサされていたし、去年、ホンダが撤退した時には「先を越された」という話まであったほどだ。
基本的な構図はどちらも一緒で、単純にお金の問題。本業が赤字続きでそれどころじゃない。もっと早くやめたかったとも言う。

わかる気がする。そもそも最低でもン100億円はかかるという年間活動資金。素人目に観たって、どうせならお金のかかる量産車用新型エンジンや電気自動車を開発した方がいい。自動車作り=ビジネスという観点に立てば当然の結論なのだ。
利益の出ない市場からは素早く撤退、いち早く退却。志が低いとか言われようが、無い袖は振れぬ。慈善事業じゃないのだから当然の結論だ。

ただし、それは自動車産業が、単なる「ビジネス」だった時の話だ。自動車産業には実は「夢」という側面がある。それは物作りという点と、西洋に追いつけ追い越せという民族的なプライドの2点だ。
物作りはビジネスだけでは語れない。一種の自己実現である。故・本田宗一郎を観ればわかるように、好きな乗り物を作りたい、速いクルマを作りたい、カッコいいのを作りたいはそれ自体、人生の目標となり得る。カネを稼ぐためだけならもっと別の方法がある。
欧米に追いつきたい、よりよい技術をモノにしたい、アイツを打ち負かしたい! も金儲けとは違う。シンプルな勝利願望だ。人間が持つ、最もプリミティブな欲望と言ってもいい。

流す涙は本物

実はF1界ではこの2つの感情が大きな原動力となる。ただし、近年のトヨタにもホンダにも問題があった。まずはやってる人がほとんど外国人スタッフという点だ。

トヨタはたしかに自腹でF1活動をしていたし、エンジンもシャシーも自前だった。が、ケルンのTMGはトップ数人こそ日本人だが、ほとんどが外国人。「ありとあらゆる分野から優秀な人たちを集めた“ドリームチーム”」いわば「傭兵的職人集団」だったという。そういう意味で、トヨタは一部を除き、実質的な物作りをしてこなかったらしいのだ。

もう1つの「勝とう」という意思もそうかもしれない。実はF1を最初に企画した当時のトップは、それほどF1が好きでなかったという話がある。昔から好きで好きでしょうがないとか、一目見てハマったというよりもしや「ホンダに勝ちたい」という意欲の方が強かったのではないか? と、言う人もいる。

ただし、例外もいる。たとえば会見で涙した、チーム代表の山科忠専務だ。トヨタチームで彼ほど情熱を感じる人はいなかったし、インタビューでの「あと少しで……」のコメントには真実味があった。
俺自身、自分を恥じるが、スポーツをやっていて終わって泣いたことはない。正直、それほどのめり込んでなかったのだろう。それよりももっと別のこと、好きだった人と別れることの方が辛かったし、たとえばアイルトン・セナが死んだ時の方が悲しかった。

涙はつくづく正直だ。自分が心底打ち込まなかったものには流れない。そこに自分の感情をどれだけ詰め込んだか、どれだけ汗を流したか、努力したかが問われるのだ。費やしたお金の量とは全く関係ない。そういう場合もあるかもしれないが、それは露骨に汗と涙が詰まったお金のことで、会社を通じてレースに使ったお金に涙は出ないはず。せいぜい出たとして「もったいない……」「悔しい……」ぐらいの感情ではないだろうか。

トヨタ自動車の豊田章男社長。
トヨタ自動車の豊田章男社長。 拡大

「やめた甲斐」に期待

特にここ数年、自動車メーカーが稼いだお金はほとんどが外国市場で、あぶく銭という感覚もあったかもしれない。国内で身銭を切った感覚はなかっただろう。外国で稼いだカネを外国に還元する、ぐらいの感覚がなかったとは言いきれない。想像ではあるが……。

涙は本当に正直だ。山科専務は心底悔しかったに違いない。たしかにトゥルーリは幾度となく勝てそうだったし、小林可夢偉には将来に期待が持てるパフォーマンスをしていたし。中嶋一貴の今後、ひいてはF1の今後も気になるだろう。

おそらくあと何人かのトヨタ関係者は涙しただろうし、熱烈ファンで涙を流す人もいただろう。あの古舘伊知郎キャスターですら、会見当日のオンエアでは今後のF1界を憂い、涙がにじんでいたともいう。だが、勝手な想像だがほとんどのトヨタ社員、そしてF1ファンは涙を流さなかったのではないだろうか。
繰り返すが悲しみの涙は、自分の分身なり、情熱が奪われた時に初めて流すのである。

最後に切なる希望だが、せっかく志半ばでF1から撤退したのだ。何年後かにはなにかしらの“やめた甲斐”を見せてほしい。それが若者向けスポーツカーなのか、1人乗り自動車なのかはわからないが、とにかく別の分野で新たな種を芽吹かせてほしい。それもグローバルな視点でだ。
でなければこの撤退で、日本自動車界のガラパゴス化がさらに進行するのは明らかだし、それを決定づけたのがトヨタってことになったら浮かばれないでしょう。

そもそも俺個人としては、F1みたいな魑魅魍魎の世界にトヨタは向いてない気がしていた。そういう意味でやめたのは正解だし、トヨタはもっと別の、他メーカーが絶対目を付けないところで、唯我独尊頑張る方が向いている気がするんだよね。
とにかく問題はこの後。ここでどういう種を蒔くか、何を生むかじゃないんでしょうか。

(文=小沢コージ/写真=webCG)

トヨタF1チームの代表、山科忠専務。
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小沢 コージ

小沢 コージ

神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』

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