フォルクスワーゲンmove up!/スズキ・ワゴンRスティングレー T【試乗記(前編)】
スモールカー頂上決戦!(前編) 2012.10.24 試乗記 フォルクスワーゲンmove up!(FF/5AT)/スズキ・ワゴンRスティングレー T(FF/CVT)……149万円/158万250円
ほぼ価格を同じくする、今注目のスモールカー「フォルクスワーゲンup!(アップ!)」と軽自動車「スズキ・ワゴンR」を乗り比べ。秋の日光へ向かった。
149万円 vs. 149万6250円
異種格闘技戦である。「フォルクスワーゲンup!」と「スズキ・ワゴンR」を比較テストするのだ。輸入車と日本車、小型車と軽自動車、全然ジャンルが違うし顧客層も異なるだろう。それでも比較してみようと考えたのは、up!の広報資料にあった記述のせいだ。“up!のライバルにあたるクルマはなにでしょう?”というクエスチョンに対し、「MINI」や「フィアット500」と並べて“価格帯が近い軽自動車の上級モデル”と書かれている。up!のベーシックモデルmove up!の2ドア版は、149万円という戦略的な価格がつけられている。これは、新型「ワゴンRスティングレー」のターボモデルの149万6250円とほぼ同じではないか。
貨幣というものさしで測れば差がないということになるが、クルマの価値にはさまざまな側面がある。動力性能、乗り心地、デザイン、高級感、積載能力など、人がクルマに求める要素は多岐にわたる。あえてガチンコ対決を試みれば、クルマ作りの考え方が浮き彫りになってくるはずだ。
1日かけて2台を乗り比べ、各項目について違いを見ることにする。東京都心を出発して東北自動車道を北上し、宇都宮から日光宇都宮道路で清滝ICまで走る。高速道路を降りて西へ向かい、赤城山を越えて関越自動車道に至り、渋川伊香保ICから都心に戻るというコースだ。
ハイスピードの高速道路と山道を組み合わせたルートは、クルマをテストするには都合がよさそうだ。そう考えたのだが、実はこのコース設定はキャラクターの違う2台にとってはあまりフェアではない選択だったことがあとでわかった。クルマは、想定される使用状況に合うように作られる。得意な道と苦手な道があるのだ。猪木vs.アリ戦に見られたように、異種格闘技戦ではルールが試合を決めることがある。
開放感と軽やかさ
まずはワゴンRに乗って出発した。マスコミ向け試乗会で乗っているから、勝手はわかっている。ちょい乗りしかできない試乗会では燃費を計測するのは不可能だったが、今回は十分な時間がある。乗り込むと、前方に開けた視界の広さをあらためて実感する。柔らかな当たりのシートに収まり、高めの視点から眺めるパノラマは開放感にあふれている。大きなドアミラーのおかげで、後方視認性も優秀だ。ダッシュボードの質感は、一昔前の小型車以上だ。
スタートボタンを押してエンジンをかければ、快適なドライブが始まる。軽量を利して、軽やかな加速感だ。エコエンジンだからといって、特に気になるアラがあるわけではない。CVTのスムーズさはエンジンとの相性もよく、高速道路ではトランスミッションの存在を忘れる。シフトレバーを「M」レンジにすれば7段マニュアルモードに切り替わり、パドルでシフト操作をすることもできるが、急に加速しなくてはならない時はアクセルを踏み込むだけで事足りる。ただ、いきなり回転が上がってノイズが高まるのが興を削がないでもない。
箱型の大きなボディーゆえか、巡航中の風切り音は大きめだ。エンジン音もそれなりに響いている。シートの柔らかさも相まって、乗り心地はソフトである。流れに乗って、ごく普通の運転を心がけた。無駄な急加速はしないが、周りに迷惑なほどの自分勝手なエコ運転もしない。
途中でup!に乗り換えた。3人で移動しているので、条件を公平にするためになるべく1人乗車と2人乗車の距離を等しくするよう努めた。運転席に座った途端に、居心地がまったく違うことを感じる。着座位置は明らかに低く、シートが薄くて硬い。前方視界は十分なのだけれど、視野がグッと前に絞られる感じがする。ツルツルした質感のダッシュパッドが、ポップさとスポーティーさの両面を主張しているようだ。
自然になったロボタイズドMT
エンジンはクラシカルにキーをひねって始動するのだが、セルが回るのに一瞬のタイムラグがある。シフトノブを横に倒すとDモードになり、アクセルを踏めば前に動き出す。ロボタイズドMTの「ASG」が、このクルマに対する好悪を決定づけるカギとなるのは間違いない。この手のトランスミッションを持つクルマに乗るのが久しぶりだったので、最初はお決まりのギクシャク運転をしてしまった。初めての人は驚くだろうし、何度乗っても嫌だという人がいるのも理解できる。
でも、ほんの2、3分走れば体が慣れてくる。要は機械との対話なのだ。まだまだ完成されたとは言えないまでも、10年ほど前にロボタイズドMTが初めて導入された頃のことを思えば、ずいぶん自然な反応になった。いったんスピードに乗ってしまえば、もちろん何も気にならない。少々アクセルを踏んでもシフトダウンはしないので、追い越しの際などにはシフトノブを操る必要がある。ギアを落として加速し、巡航に戻ると自動的にDモードに復帰する。
乗り心地は、ワゴンRに比べるとはっきりと硬い。段差を越すときなどは、コツンとストレートに衝撃が伝わってくる。ただし、収まりは早い。エンジン音は静かだが、ロードノイズはそれなりにある。エアコンはちょっと懐かしいマニュアル式だ。オートでなくては嫌と言ったらぜいたくだが、ダイヤルを回す感触がよくないのは気にかかった。こういう細かいところが高級感をスポイルすることがあるから、もったいない。
横倒しにすると同じ!?
高速道路を降りて、撮影のために山あいの広場に2台を並べて置いてみた。全長はup!の3545mmに対してワゴンRが3395mmで、150mmの差がある。どちらもタイヤは四隅にあるが、up!のほうが少し鼻先が長い。面白いのは、全幅と全高の関係である。up!が1650×1495mmで、ワゴンRが1475×1660mmなのだ。どちらかを横倒しにすると、ほとんど同じプロポーションになる。
やはり軽自動車の枠に収めるのは大変な苦労があるわけで、その中で精いっぱい工夫したのがワゴンRの形なのだ。無駄なんてどこにもなくて、いさぎよい箱型。スペースを稼ぐためには上に伸びていくしかなく、必然が産んだ形状なのである。それでも面に表情をつけるために、厳しい制約の中で涙ぐましい努力をしているのだ。
up!だってミニマムなことには違いがないのだが、規制がないだけあってどことなく余裕が感じられる。フォルクスワーゲンの新たなデザインの方向を示すスタイルは、内装も含めてガジェット感が強い。よくiPhoneとの類似性が言われるが、確かに触ってみたくなるような趣がある。1999年の東京モーターショーに出品されたマーク・ニューソンがデザインしたフォードのコンセプトカー「021C」が現実的な姿になったみたいだ。あれを見た時にははるか未来のクルマだと感じていたから、わずか10年で似姿を目の当たりにしようとは思ってもいなかった。(後編につづく)
(文=鈴木真人/写真=荒川正幸)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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