フォルクスワーゲンup! GTI(FF/6MT)
ホットハッチの正道を歩む 2018.02.16 試乗記 フォルクスワーゲン(以下、VW)のエントリーモデル「up!」に、待望の高性能グレード「GTI」が登場。全長3.6mの新しいホットハッチは、どんなドライブフィールの持ち主なのか? その走りの陰に見た、スポーツモデル受難の時代の兆しとは?手のひらサイズのGTI
先ごろ日本市場でもマイナーチェンジが加えられたup!が発売されたが、そのモデルライフ後半を支えるに心強いバリエーションが登場した。それは伝統のスポーツハッチである「GTI」の称号を携えている。
と、ここで多くのクルマ好きが思い浮かべるのは初代「ゴルフGTI」にも相通じるであろうドライバーとの距離感だ。ちなみに初代ゴルフGTIの三寸は全長×全幅×全高=3725×1610×1410mmでホイールベースは2400mmとなっている。対するup! GTIの三寸は3600×1645×1478mmでホイールベースは2410mm。著しく違うのは今日的アップライトパッケージからなる車高くらいだろうか。残念ながら車重は260kgも違うが、そこは約40年相当ぶんのクルマ作りのもろもろの変化と捉えるほかない。あるいは、その車重を含めて鑑みれば、同様な手応えのものとして思い浮かぶのは「ルポGTI」だ。
いずれにせよup! GTIは、それらと並ぶ歴代最小クラスのGTIであることが欧州市場でも重要なファクターとなっているようで、VWの側も初代GTIからのレジェンダリーとひも付けることに重きを置いている。300psオーバーがホットハッチのホットたるゆえんとされる中、手のひらサイズの懐かしさが財布のひもを緩めさせるのは、何も日本だけの話ではないのだろう。
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ガソリン車にも“排ガス規制”の波が
up! GTIのエンジンは、基準車にも搭載される1リッターの3気筒直噴ユニットをベースにターボ化されたもので、今やそれは新型「ポロ」や「アウディQ2」といったMQBファミリーのボトムを支えるVWグループの主力ユニットといっても過言ではない。もちろん専用のチューニングを受けたそれは115psの最高出力、そして200Nmの最大トルクを小排気量にして2000rpmの低回転域から発生することが特徴となっている。
加えて注目すべきは、新型車については2017年9月から、その他のモデルも2019年9月から規制対象となるユーロ6d規格に適応した低エミッションを実現していることで、そのためにup! GTIは、VWブランドで初めてGPF、つまりガソリンエンジン用のパティキュレートフィルターを標準装着した量産車ということになるわけだ。
このエンジンに組み合わされるトランスミッションは、基準車の5段シングルクラッチ式ATをチューンしての展開ではなく、専用設定の6段MTのみ。動力性能に関しては最高速が196km/h、0-100km/h加速が8.8秒と、やはり初代ゴルフGTIとルポGTIとの中間値付近ということになるだろうか。
夜間の間接イルミネーションも含め、端々に赤い差し色が彩るup! GTIの内装では、Dシェイプのステアリングやクラークと呼ばれる格子柄のファブリックをあしらったセミバケットタイプのハイバックシートなど、走りを支える要所にも独自のしつらえがおごられている。個人的には基準車に用いられる細リムの真円ステアリングの方が繊細な入力に対応しやすかったのではとも思うが、シートの出来は相変わらず素晴らしく、あらゆるVW車の中でも出色といえるだろう。
高いシャシー性能と快適な乗り心地の両立
試乗車は左ハンドル仕様なので、参考までに……という話になるが、3ペダルの左右ピッチやハイト、操作感などはごくごく素直にまとめられており、日常使いで気を遣うこともなければヒール&トウを妨げるような癖もない。かかとの厚いバッシュのような履物でも、スッとなじめる人当たりの良さが印象的だ。大径タイヤに合わせてアシスト量を再調整した電動パワステの操舵フィールは停止からごく低速域では情感に乏しいが、速度が上がるにつれて過剰ではなく適切なインフォメーションをもたらしてくれる。総じて、インターフェイスの作り込みはしっかりしている。
そしてこのクルマの最大の驚きは、素晴らしいシャシー能力を備えながらも乗り心地面での損失が最小限に抑えられていることではないだろうか。十二分な剛性を備えるというボディーはそのままに、足まわりにはバネやダンパー、スタビ径のみならず前後サスアームの剛性強化も施されており、そこに17インチの大径タイヤを履いて……となると、このクラスのモデルならば小入力での足の動きはある程度割り切られてしまうのが普通だ。が、up! GTIは微小入力でもダンパーの減衰力が立ち上がり、ガツガツやビリビリといった雑味成分をしっかりと吸収している。速度域が上がれば不意の大入力でも余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)で受け止めるup!の美点はそのままに、横力の高い状況でもしっかり踏ん張りぬく四肢、特に後輪の粘りが異様な安定感をこのクルマにもたらしていることが伝わるだろう。
低回転域の“ダルさ”に見る受難の兆し
車格からして破格の敏しょう性を備えるかと思いきや、むしろ小さいからこそまずはスタビリティーをきっちり立てた上で安定した旋回性能を実現する、このあたりの味付けは僕が以前乗っていたルポGTIにとてもよく似ているし、VWのGTI作りにおける基本姿勢ではないかと思う。
それすなわち、実用車としての日常性を犠牲にすることなくどこまでスポーツ性を両立できるかということ。ホットハッチの代名詞として、時に好戦的な“R.S.”や“タイプR”との対峙(たいじ)を求められては、「クラブスポーツ」などと銘打って代紋戦争を繰り広げることもあったが、それでもGTIの立ち位置はあくまで実用本位である。その点においてup! GTIは本筋にいたって忠実なホットハッチだ。
唯一残念だったのは、低圧縮の小排気量ターボにありがちな低回転域でのピックアップのだるさがシフトダウンの回転合わせを難しくしていることだろうか。中高回転域での吹け上がりやパワーの乗りに違和感はなくとも、この癖がエンジン全体の印象をネムいものにしてしまっている。あるいは、VWのエンジニアはその関連を言下に否定したが、小さな排気量に対するGPFの影響が話をややこしくしているとすれば、こういった身近なスポーツモデルもいよいよ受難の時が近づきつつあるのかもしれない。
(文=渡辺敏史/写真=フォルクスワーゲン/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲンup! GTI
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3600×1650×1495mm
ホイールベース:2420mm
車重:1070kg
駆動方式:FF
エンジン:1リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:115ps(85kW)/5000-5500rpm
最大トルク:200Nm(20.4kgm)/2000-3500rpm
タイヤ:(前)195/40R17 81V/(後)195/40R17 81V(グッドイヤー・エフィシエントグリップ パフォーマンス)
燃費:5.6-5.7リッター/100km(約17.5-17.9km/リッター、WLTCモード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
※数値は欧州仕様のもの。
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(プレミアムガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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