三菱ミラージュM(FF/CVT)【試乗記】
効率、実用、その次は? 2012.10.31 試乗記 三菱ミラージュM(FF/CVT)……118万8000円
低燃費と低価格が自慢の新型「ミラージュ」。効率を極めたコンパクトカーが、次に目指すべきはなに? 湘南の海沿いを走りながら考えた。
軽量化はすべてに勝る
「先行販売しているタイでは、大変好調でして……」と、インタビューさせてもらったエンジニアの方は顔をほころばせた。近年、いまひとつ景気のいい話に欠ける三菱自動車にとって、新工場を作ってまで生産を海外に移した新型コンパクトカーの売れ行きは、大いに気になるところだったろう。久方ぶりに車名が復活した「三菱ミラージュ」のことである。
かの地のモータリゼーションは、ちょうど庶民が最初の1台を購入する段階にあるそうで、その熱気たるや、想像に難くない。ちょっとおもしろいのは、ユーザーレベルではまだまだ「環境より走り」のようだが、今後の国内所有台数爆発を見越した政府が、「リーズナブルなコストで提供される燃費のよさ」を強く求めたことだ。「ハイブリッドはまだ早いけど、なんとかエネルギーの消費量を抑えなきゃ」という、国としての切実な事情がある。
そのために三菱がとった手段は、ボディーの軽量化。「エンジンとモーターの併用」「燃費向上のための過給機搭載」「高速巡航時のエンジン休止」……といったさまざまな新機軸を尻目に、「なぁ〜んだ」な回答である。コルトと比較して、ボディーを小型化。イチから設計した骨格には、高張力鋼板が多用された。クルマの性能向上の手段として、「軽量化はすべてに勝る」というわけだ。
さらに興味深いのは、東南アジアを中心とした新興国向けには、1.2リッターエンジンが提供され、日本、欧州といった先進諸国には、アイドリングストップ機能を備えた1リッターモデルが広告塔になるということ。
クルマの本格普及はこれからの国でも、「リッターカーのマニュアルで我慢しろ!」と押しつけるわけにいかず、一方、自動車社会が成熟した国には、「これだけやってます!」と努力をアピールしないといけないわけだ。「環境問題の偽善性」というと角が立つが、今回のミラージュの例は、商品としての自動車の難しさと、クルマという存在のおもしろさを、端的に表していると思う。
空力性能を磨く
街に出たミラージュは、ツルリン! とした印象。試乗車は、松竹梅の竹にあたる売れ筋「M」グレードで、素のお値段は118万8000円。同じ3気筒でも、1リッターのミラージュに対し、1.2リッターを積む「日産マーチX」が120万1200円と肉薄する。しかしマーチのカタログ燃費23.0km/リッターと比較して、ミラージュは驚異の27.2km/リッター(いずれもJC08モード)! かつてはパワーや最高速度を比べて口角泡を飛ばしたものだが(やや大げさ)、昨今の、カタログ燃費の競り合いも、その気になればなかなかエキサイティングである。
丸みを帯びたフロントバンパーの角。平らになったリアフェンダー後半。後ろ下がりのルーフラインに、やや絞られたキャビン後部。そして、立派なルーフエンドスポイラー。870kgという軽量ボディーの次にミラージュが繰り出した必殺技が、空気抵抗の軽減である。ミラージュのCd値は、かつてのスーパーカーもビックリの0.27! 「オオォォォ!」と(無理やり)盛り上がりながらドアを開けると、しかしそこにはグレー一色の、少々事務的な内装が待っている。センター上部に設けられた、造形的に凝ったエアコン吹き出し口が、なんだか浮いている。
プレーンニットの生地を用いたシートは、小ぶりなうえ座面が平板で、滑りやすい。お尻が落ち着かないのは気になるが、上下に調整できるハンドルと、やはり上下にアジャスト可能なシートの恩恵で、好みの運転姿勢は取りやすい。着座位置は高め。しっかり背筋を伸ばして運転する感じが、堅実な実用コンパクトらしい。
例えば「ミラージュ スポーツ」が欲しい
ミラージュのエンジンは、“まじめ、まじめ、まじめ”の「コルト」で初採用された4気筒「4A90型」ユニットから1気筒を削った3気筒ツインカム。999ccの排気量から、69ps/6000rpmの最高出力と、8.8kgm/5000rpmの最大トルクを発生する。吸気側カムの可変タイミング機構を持つが、燃料噴射はコンベンショナルなポート噴射。コストさえ許せば、技術的にもう一歩進められる“伸びしろ”を持つ。トランスミッションは、ライバルのマーチと同じ、コンパクトな副変速機付きCVTだ。
3気筒エンジンの常で、ミラージュの999ccも、スムーズに回るが力感が伴わない、“のれんに腕押し”的なフィールがつきまとう。実際には、過不足ない動力性能なのだが。
気になったのは、ややスローで軽いステアリングを切ったあと、キャスターアクションことハンドルの戻りが悪いこと。時には意識的に戻してやる必要がある。高速巡航での直進性に不満を感じることはなかったから、ちょっと不思議なセッティングだ。
新型ミラージュに乗って「惜しいなァ」と感じるのは、せっかくの軽量化が“縁の下の力持ち”に徹していて、積極的に評価する対象になりにくいこと。せっかくお客さまに「乗ってミラ〜ジュ!」してもらっても、ドライブフィールが薄味で、購入の後押しをする要因になりにくそう。「これなら軽でも……」と思われたら、元も子もない。
それぞれの国や地域に特徴があるように、日本の市場では、リッターカーが実用面だけで軽自動車を押しのけるのは難しい。「低燃費」「低価格」「コンパクト」だけでなく、例えば足まわりにスタビライザーをおごった3ペダルMTモデルを「ミラージュ スポーツ」と称して投入する。数は出ないかもしれないが、そうした「実用+α」の施策をとる必要があると思う。さもないとミラージュは、早晩、次々と投入される新しい実用車のなかで埋もれてしまうだろう。
(文=青木禎之/写真=荒川正幸)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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