スバル・レガシィB4 2.5GT Sパッケージ(4WD/6MT)【試乗記】
見ると乗るとじゃ大違い 2009.08.03 試乗記 スバル・レガシィB4 2.5GT Sパッケージ(4WD/6MT)……370万6500円
ファンの意見が賛否両論の新型「スバル・レガシィ」だが、B4のMTモデルに試乗したリポーターは、広さと走りには大満足。しかし、一つだけどうしても気になるところがあるという。それは……。
みんなレガシィが好き
盛り上がるよなぁ、レガシィ論争。ここ最近、賛否をめぐる議論がここまで白熱したニューモデルはなかった。「コンパクトなサイズがよかったのに」「ツーリングワゴンの独特の後ろ姿が好きだった」「いやいや、大きくなったけれど“走り”は健在」などなど、みんながみんな、「オレのレガシィ」を熱く語る。実際にレガシィを所有した経験があろうとなかろうと、10人いれば10通りの「レガシィ論」がある。そんな日本車、なかなかない。
今回試乗した「レガシィB4 2.5GT」(ちなみに6段MT)を前に、僭越ながら自分もレガシィに関する印象を述べさせていただきます。従来型より幅が50mm広くなったことで取り回しは悪くなっているけれど、それでもサイズが大きくなったことを悪く言うつもりはない。個人的に残念なのは、大型化よりもカッコ悪いことに尽きる。これでもし、かつての「シトロエンXM」みたいに未来的なフォルムだったら、これぐらいのサイズでも全然OKなのだ。
需要の5割を占めるアメリカ市場に向けて、「レガシィB4」も「レガシィ・ツーリングワゴン」も、従来型より約10cm長くなった。とはいえ「日産スカイライン」より25mm短いから、目くじらを立てるほど巨大だとは思わない。「狭い道で苦労するけどカッコいいから我慢しよう」と思えるようなデザインをまとっていたら、あるいは「メジャーリーグで戦うためにはそれぐらいのボディが必要だ」と、大型化を積極的に支持したかもしれない。
ま、歴代レガシィだって、ごちゃごちゃと飾り立てないという美点はあったものの、それほどの色男だったわけじゃない。技術を丁寧に磨いて、真面目にクルマ作りをしています、という姿勢が外観に表れていたから、歴代レガシィのシンプルさは清々しかったし、知的にも見えた。
より大きなモデルよりも、広い室内空間
ドライバーズシートに腰掛けてムムっと思うのは、雰囲気が開放的だったこと。しばらく理由を考えて、インパネがドライバー側ではなく正面を向いているからだ、ということに気付く。運転席の位置を身長180cmの筆者に合わせた状態で後席にまわり、新型レガシィのウリのひとつになっているリアシートに腰掛けてびっくり。余裕をもって足を組むことができるのだ。
運転席まわりには、もうひとつおまけが付く。パーキングブレーキが電動のスイッチ式になったおかげで、シフトレバー周辺の“土地”が広くなり、従来型では縦に並んでいたドリンクホルダーが横並びになった。これで助手席に座る人が間違うことなく飲み物を手にできるというけれど、運転席からタイト感はなくなるし、後席は広くなっちゃうし、ピュアなドライビングマシンはどこへ行った!? ……と声を荒げようとしてハッとする。
われわれクルマ好きは、歴代レガシィの実直なクルマ作りを支持してきた。そして新型のもっさりとしたカッコと広々としたキャビンの組み合わせもまた、スバルのクソ真面目な姿勢から生まれたのだ。つまり、「キャビンを広く」という目標ありきで、それを達成するためのデザインなのだ。スバルのエンジニアたちの奮闘は、レガシィより大きな「日産スカイライン」や「レクサスGS」を凌駕する広い室内スペースを生み出した。
クラッチペダルの踏み応えはばっちり。6MTのシフトフィールも繊細かつ確実で、1速に入れてクラッチをつないでタイヤが転がった瞬間、「来た!」と思う。2000rpmで最大トルクを発生するというエンジンスペックはダテじゃない。ひとたび走り出せば、ぴたっと体にフィットするようなスポーティセダンだ。ステアリングフィールも爽やかで、気持ちがいい。
自動的に「インテリジェント・モード」へ
エンジンの特性を変えるSI-DRIVEは全車標準となるが、エンジンを停止して始動するたびに、自動的に温和な「Intelligent」モードに入る。個人的な好みは一番シャープな「Sport#」モードに入れて、ジェントルに走る時にはやわらかなアクセルワークを心がけるなど、状況に応じてアクセルの踏み方を工夫すること。だからエンジンをスタートするたびに「Sport#」モードに入れることになる。ちょっとメンドい。
6MTを駆使して、アクセルワークに気を遣いながら乗ると、2.5リッターの水平対向4気筒ターボはパワフル&シャープからジェントル&スムーズまで自由自在だ。振動とノイズの少なさは、水平対向ユニット特有のバランスのよさに加えて、サブフレームを介してエンジンを搭載する方式に改めたことの効果でもある。
フラットな乗り心地とピタッと安定したハンドリングは、もともとレガシィの得意技。新型ではそれに加えてサスペンションのストローク感がたっぷりと感じられる。大きな段差を乗り越えるような場面や、うねりのあるコーナーを突破する時に、4本の脚が“いい仕事”をしている様子がドライバーに伝わってくる。
市街地でもトルクのあるエンジンと扱いやすい6MTのおかげで涼しい顔で走ることができるし、山道では大人っぽいスポーツドライビングを堪能できる。また、静かで乗り心地がいいし室内は広々としているから、4名乗車でのロングドライブでも大活躍する。四駆だから、タイヤさえ準備すれば、季節を問わず地の果てまでカッ飛ばせる。
「スバルのファン」と「レガシィのファン」
「レガシィB4 2.5GT」は、これ1台ですべてをまかなえる、まさに万能車だ。細部にいたるまで隙なく作られていて、実にお買い得だ。値段を考えると、日本車、輸入車を問わず競争力はかなり高い。バリュー・フォー・マネーであることや、代わりがいないクルマというポジションは、新型でも引き継がれている。
と、思いつつも、やはりクルマを降りてしげしげ見つめると、自分がこのクルマに乗っているところを人に見られたくないと思うくらいカッコ悪い。惜しい。しかもこのクルマをいいものにしようと、丹念に性能を磨いた人たちの顔が浮かぶくらい中身はいいから、タチが悪い。
今回の“レガシィ論争”で面白かったのは、「スバルのファン」と「レガシィのファン」がちょっと違うことがわかったこと。「スバル・ファン」と「レガシィ・ファン」は、「巨人ファン」と「小笠原ファン」のようにビミョーに違う。そして「スバル好き」は、意外と今回の「新型レガシィ」を悪く言わないように感じた。
「スバル・ファン」の視点だと、「レガシィ」はアメリカで稼いでくれればそれでいい、コンパクトなボディでキュッキュッ走るのは「インプレッサ」の担当だから、ということになるのかもしれない。でもなぁ、20年前にデビューした時の鮮烈な印象を覚えている「レガシィ・ファン」としてはなかなかそこまで割り切れない……。新型レガシィへの思いは、複雑だ。
(文=サトータケシ/写真=岡村昌宏)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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