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【スペック】全長×全幅×全高=4880×1855×1455mm/ホイールベース=2875mm/車重=1890kg/駆動方式=FR/5.5リッターV8DOHC32バルブ(387ps/6000rpm、54.0kgm/2800-4800rpm)/価格=1080.0万円(テスト車=1099.5万円/ガラススライディングルーフ=19.5万円)

メルセデス・ベンツE550アバンギャルド(FR/7AT)【試乗記】

良いクルマというより良い機械 2009.07.31 試乗記 大川 悠 メルセデス・ベンツE550アバンギャルド(FR/7AT)
……1099.5万円

プラットフォームを一新、「メルセデス・ベンツEクラス」が7年ぶりにフルモデルチェンジした。最近のメルセデスにやや抵抗感を持っていたリポーターだが、5.5リッターエンジン搭載の最上級グレードに試乗して感じたのは……。

写真の印象は良くなかったけれど

「新しく、しかもいい機械と過ごしたな」。メルセデスの新しいEクラスで一日箱根に行った後での感想は、一言でいうならこうだった。体内に規則正しい鼓動のリズムが残り、遠くから常に全身をマッサージし、耳を軽く刺激していたような振動とノートがまだ残っていた。それを思い出していると、圧倒的な信頼感に包まれて過ごした時間がよみがえってきた。

最近のメルセデスは個人的には抵抗がある。クソマジメなエンジニアと遊びを知らないデザイナーが、よりよき製品を目指して努力したような一昔前のメルセデスに比べると、どうも近年のモデルはちょっと商売気が目についてしまう。特にスタイリングはややえぐい。若いデザイナーに押されてしまって、流行のモードを選んだのはいいものの、元々持っていたヤボ臭いテイストが却って強調された感じで、それほどクールでもなければシャープでもマジメでもないように目に映る。
乗っても昔のような鷹揚さというか大人(たいじん)の感覚は消えて、良く走るし速いけれど、しっとりとした情感が失われているように感じるクルマも少なくない。

新型Eクラスも、写真だけではあまり印象が良くなかった。挑戦的な面構え、鋭くて折り目が強調されたキャラクターライン、そして昔のモデルの引用というよりは、あきらかにマッチョに見せたいから採用したようなリアフェンダーラインなど、どうも品格が悪くなったように思えたのだ。しかも試乗車は、これをさらにAMGルックで武装し、でかいV8を与えられたE550アバンギャルドなのだという。

だがクルマはやはり乗ってみてナンボのもの。一日付き合ったら、これが予想外にマジメな機械だった。

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メルセデス流儀を守ったインテリア

E550アバンギャルドは、梅雨の到来を示す大雨の朝、我が家の前にやってきた。白い色だったためか、それとも分厚い水滴のフィルターが間に入っていたためか、写真ほどアグレッシブには見えない。テールからの眺めなんて、むしろ日本のクルマよりも控えめだ。

車内に乗り込んで、腰を落ち着けた瞬間に背筋がビシッとなった。シートが良くなったとすぐに気がついたからだ。近年のメルセデスのシートは、クッションもバックレストも妙に中央が落ち込んでいるというか平板で、身体が分厚い人間以外はかなり合いにくいものが多いのだが、このEクラスは一昔前の「メルセデス・シート」が戻ってきた感じだ。中央部がしっかりと身体を支えてくれるから、サイズが大きいわりにはしっくりと馴染むし、体格を問わずにサポートがいい。

ダッシュの光景も従来に比べると多少色気は演出しているが、基本的に明瞭な情報伝達優先で、相変わらず古典的な時計がタコメーターと同格に扱われている。ドイツ人というのは周囲の環境を数字で知るのが好きで、家の中にも時計に加えて温度計は無論、湿度計、気圧計などを並べている人が多いが、なんとなくそんなドイツの家を思わせる風景がドライバーの前に広がる。

こういうところも含めて、メルセデスというのは骨の髄までドイツ人的で、こんなところからも好き嫌いがはっきりするのだろう。そう考えながらSクラスと同様にコラムに移されたATセレクターをDに入れて動き出すと、AMGルックには似つかわしくない落ち着きと静かさとともに、大分でかくなったボディはのんびりと腰を上げた。

機械に身を任せたとき真価が分かる

人でもクルマでも、底力があるものはそれをあからさまに誇ったりしないものだが、このE550もそんな感じだ。その気になってスロットルを踏み込んで、387psのパワーと54.0kgmのトルクを暴力的に目覚めさせることができるし、エアサスをスポーツモードに入れて突進すれば、大抵のクルマは道を譲る。

でもそれをわきまえた上で、のんびり流している方が似つかわしい。V8を1500rpmぐらいでゆるゆる回しながら100km/hで雨の東名をクルーズしているとき、車内は退屈するほど平和で穏やかだが、多分アウトバーンの巡航速度でも、この穏やかな雰囲気は基本的に変わらないはずだ。

良いのはどんな路面でも、急な操舵や加減速を繰り返してもクルマの姿勢が乱れず、常に安定性が確保されていることと、乗り心地の変化が少ないことで、むろんそれは550に採用されているAIRマティックの効果である。このプログラミングはとても良くできていて、ドライバーの気持をそのまま理解するかのようだ。特にこの種の装置としては珍しく、Sモードを選んでいるときの応答がとてもいい。単に乗り心地が硬くなるというような単純なものではなく、しっとりとして腰が落ち着き、懐が深くなったような感覚を与え、それゆえに乗る人間の気持ちの中に絶対的な信頼感が生まれてくる。相当に人間を研究しているなと改めて感心した
これに加えて速度プラス舵角感応式ステアリングも備わっているから、高速道路ではナーバスにならず、一方で山道を飛ばすときは期待どおりの手応えが返ってくる。そんなときにはV8も結構猛々しく反応する。

ようするにハイウェイでは圧倒的なスタビリティにすべてを任せ、ワインディングロードではAMGルックに相応しい豪快な走りを誇示することができるというクルマなのだが、考えてみればそれもほとんど最新テクノロジーが与えてくれたものだ。
E550はドライバーの努力に期待なんぞせず、機械がかなりの部分をサポートしてくれるクルマと理解すればいい。高速時に運転が乱れたときに警告するアテンションアシストも、走行車線の逸脱を注意するレーンキーピングアシストも、同じ目的から生まれている。

機械をとことん信頼して、それに身も心も委ね、現代のハイテク世界の中をさまよう心地よさ。それが間違いなく新しいEクラスが与えようとしている、魅力と価値である。その魅力や価値には、神話に出てくるヤーヌスのごとく、猛々しさと柔らかさの二つの貌を併せ持つV8が、いつの間にかドライバーの気持ちを鼓舞しているということも大きな要素になっている。
個人的な好き嫌いは別にして、強い機械に支配されているというのは、それなりに気持ちが良かった。新しい自動車移動の世界を垣間見たような一日だった。

(文=大川悠/写真=高橋信宏)


メルセデス・ベンツE550アバンギャルド(FR/7AT)【試乗記】の画像 拡大
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クリックすると、シートアレンジによる荷室の変化が見られます。
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大川 悠

大川 悠

1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。

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