ポルシェ・パナメーラ【海外試乗記】
納得の4シータースポーツカー 2009.07.15 試乗記 ポルシェ・パナメーラポルシェ久々の新カテゴリーモデル「パナメーラ」がついに登場。本国ドイツでのテストドライブで、4ドアグランツーリスモの実力を試す。その走りはポルシェの名に恥じないものなのか?
ポルシェの夢の実現
「4ドア・グランツーリスモ」に「4シーター・スポーツカー」、さらには「4ドア4シーター・スポーツクーペ」……と、当のポルシェがかくも複数のフレーズを用いてこのモデルのキャラクターを紹介するのは、要はそれが「どこにも前例を持たない新カテゴリーの開拓者」ということを、より象徴的に印象付けたいからであるかもしれない。
なるほど、全長が5mになんなんとするファストバック調プロポーションを備えた4ドア+テールゲート(=5ドア)の持ち主とは、従来手法のマーケティングに則れば、それ自体が常識的には“禁じ手”とさえ受け取られても仕方のないもの。しかし、そんな新境地へと敢えて舵を切ったのが「パナメーラ」というモデル。そして、そんなちょっとばかり風変わりなパッケージを持つこのモデルのボディは、実は「ポルシェの夢」の実現でもあるという。
VWビートルの設計者として知られるフェルディナンド・ポルシェの長男で、後に自らも「356」を設計したフェリー・ポルシェ。まさに“スポーツカー・メーカー”としての礎を築いたかに思える、そんな氏の憧れは、しかし「実用的なスポーツカー」にこそあったという。実際、そうしたヒストリーの証は2009年1月にオープンをしたばかりの、新しいポルシェ・ミュージアムに足を運べば確認する事ができる。
そこには、ホイールベースを延長して後席足元空間の拡大を図った「911」や、ルーフを水平に後方へと伸ばしてやはり後席用のヘッドスペース確保を狙った「911」。さらには「マツダRX-8」ばりに、後席用の観音開き式アクセスドアを加えた「928」など、試行錯誤の末に、結局は市販に至らなかった、数々の試作車の姿を見ることができるからである。
プライベートな空間
と、そんな話題を思い浮かべつつ、まずはパナメーラの後席へと乗り込んでみれば、「なるほど、これはたしかに“フェリーの夢”の実現だナ」と納得がいく。低い全高ゆえに、比較的足を投げ出し気味に座っても、足元には大人が長時間を過ごして苦痛ではないスペースが確保されるし、テールゲートのヒンジ部分が作り出す膨らみを巧みに回避したヘッドスペースにも、リポーターの場合は、こぶし1個半ほどのゆとりが残った。
なによりも興味深かったのはそんな後席での“居住感”で、ダッシュボードに始まってキャビンを縦に貫く幅広のセンターコンソールと、スリムで背の高いフロントのシートバック、そして、天地に薄いサイドウィンドウが描く高いベルトラインが、他の4ドアモデルでは経験した事のない個室感覚を生み出している。4座すべてがこれほどスポーティに、これほど高いプライベート感を持って過ごせる4ドア4シーターモデルは、間違いなくこのパナメーラが世界で初めてだ!
さて、いよいよドライバーズシートへポジションを移すことにしよう。
ドライバーズシートでも個室感覚が色濃いのは、高く幅広のセンターコンソールによって、隣のパッセンジャーシートとの距離感がしっかり保たれている影響が大きい。ちなみに、センターコンソールがダッシュボード中央部からスラントして後方へと伸びるのは、アルミニウムやマグネシウムなど様々な材質を、適材適所に用いて構築されたパナメーラの骨格フロア部分が、そもそもかような形状の持ち主であるゆえ。
ただし、そこに整然と並べられたスイッチ類は、あまりに多過ぎという感が否めず。サスペンションの切り替えやスポイラーの操作スイッチなど、さほど使用頻度の高くないものがレイアウトされているとはいえ、それらがシートヒーターのスイッチと隣接している点などは、人間工学的にも疑問符を付けざるを得ない。
911用をモチーフとしたことが明らかな、目前の“5連メーター”に目をやりつつエンジンに火を入れる。と、「S」「4S」用の自然吸気ユニットも「ターボ」用のツインターボ付きユニットも、派手なエンジン始動音と共に、直ちに目覚める。そんな初期の始動時とPDK付きモデルが採用するアイドリングストップ機構による再始動時とでは、この音にも差を与えているという。たしかに、交差点からのスタートの度にあの派手なサウンドが耳に届いては、いくらポルシェ車好きといえども、ちょっとばかり興ざめとなってしまうかもしれない。
サウンドはまさにスポーツカーそのもの
走りのテイストは、いずれのモデルも予想通りの満足度であった。
実は数ヶ月前に同乗試乗を済ませているのだが、その時点でも、凝った構造のボディがもたらす際立つ剛性感に注目していたのだ。さらに、スペックから予想される強力な加速や、昨今の911やボクスター/ケイマンから予感された、しなやかな乗り味も、自分が思ったとおりのものだったのである。
加速の余裕度は、自然吸気モデルでも十二分。「ターボ」になるとそうしたゆとりある加速のシーンを、感覚的には自然吸気モデルのさらに半分ほどのアクセル開度で味わえる。
そしていずれのエンジンも、3000rpm付近から上では、いかにもポルシェ車らしい迫力を発散させるという点で共通する。ピュアなスポーツカーそのものというエグゾーストノートを放ちつつ、PDKとのコンビネーションが実現させるダイレクトなアクセルレスポンスを味わっていると、冒頭で記したように、このモデルを“4シーター・スポーツカー”と紹介したくなるのも、さもありなんと納得だ。
テストドライブを行った「S」と「4S」は、いずれもオプション設定のエアサスペンションを採用したPASM(ポルシェ・アクティブサスペンション・マネージメントシステム)装着車。従って、標準装着されるターボとともに、今回のフットワークのテイスティングは同仕様で行ったことになる。
20インチのオプションシューズを履いた「ターボ」を含めて、まずそのコンフォート性に高得点が与えられる。その上で、アクティブ・スタビライザー「PDCC」をオプション装着していた「ターボ」では、それが威力を発揮しての“ロールレス”のコーナリング感覚が新鮮だった。
カイエン、そしてこのパナメーラと、ポルシェ社が後方にエンジンを載せたスポーツカー以外のモデルに触手を伸ばす事に抵抗がある、という人の気持ちはボクにもわかる。しかし、カイエンによって得られた莫大な利益が、今の“ポルシェスポーツカー”の有用な軍資金になったという事実を知れば……実際の出来栄えに安心をするとともに、そんな下心も踏まえて、一層の期待が高まるパナメーラなのである。
(文=河村康彦/写真=ポルシェ・ジャパン)
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河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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