第390回:チーフエンジニアに直撃!
「ソーラーパワープリウス」は、なぜ無理なのか?
2009.07.02
小沢コージの勢いまかせ!
第390回:チーフエンジニアに直撃!「ソーラーパワープリウス」は、なぜ無理なのか?
フル充電に20時間
はてさて、いまだギョーカイの話題の中心は怪物「プリウス」。発売1週間で受注10万台というオバケ人気で盛り上がったのに続き、すでに1ヶ月で18万台、今から予約を入れても納車は年明けだという。しかしこの盛り上がりとは裏腹に、意外と知れられていないネタもある。
それはプリウスの屋根が生み出すソーラーパワーが、走行には直接関与しないという点。太陽電池を満載した「ソーラーベンチレーションシステム」がオプション装着可能だが、これは、あくまでも停車中に専用のベンチレーションシステム、つまり換気装置を動かし、ルーフを動かし、車内を涼しくするだけで、走行用バッテリーには直接接続できない。
でもひょっとして、やり方次第でソーラーパワーでの走行用バッテリー充電が可能では……と思ったがそれは無理な様子。晴れた夏の日、いくら太陽電池で発電しても、それで走るのはいまのところ不可能らしいのだ。
いったいなぜ? 材料は揃ってるのに……。プリウスチーフエンジニアの大塚明彦さんを直撃してみた。
小沢:なぜソーラー発電では走れないんですか?
大塚:問題は2つあって、最大の要因は安全性です。プリウスの走行バッテリーは高圧の201.6ボルト。それが万が一でも逆流する可能性を考えると、ソーラーパネルには繋げない。現在、バッテリー端子には出入力を管理するリレーが入っていますが、乗員がクルマを離れたとたん遮断されます。まだまだ外部接続は考えられないんです。
小沢:最悪の場合、漏電ということですね。
大塚:プリウスは、初代が登場した1997年以前から、役所のかたと一緒に繰り返し繰り返し電池の安全を確かめ、ここまで作り上げてきました。それは並大抵の苦労ではないんです。
小沢:まだまだ冒険はできないと。
大塚:もう1つ、現在のソーラーパネルの出力は最大56ワットです。これを多いと見るか、少ないと見るかは人それぞれですが、走行用バッテリーをフル充電させるとなると、最高の天候状態でもほぼ丸一日20時間はかかる。まだ現実的ではないかなと。
小沢:では当分可能性はない?
大塚:いや、実現できたら精神的満足感は高いと思っています。実際、子供に未来の絵を描かせると7、8割が太陽電池車になる(笑)。期待の高さは承知の上です。それに今のパネルの発電効率が17%で、一部開発中のものなら23%はいきます。それでルーフ全面ソーラーパネルにすると、うまくいけば150ワットはいく。となると真夏の海水浴場だったら、半日で走行バッテリーフル充電も夢じゃない。しかも、それが可能なら「バッテリー使い切りボタン」を付けて、ギリギリまでEV走行という発想までわいてくる。非常に魅力的じゃないですか!
万に一つも許されない
小沢:となると、残るハードルは安全とお役所?
大塚:まだまだあって、1つは見栄え品質です。ソーラーパネルって、今まで人目に付かない屋根に使われてたものですよね。だから色や質感がバラバラなんです。今は人力でクオリティを揃えている状態ですし。それとこれも大きな問題ですが、走行バッテリーに直結すると、ソーラーパネルがノイズを発生するんです。これまた解決できてない。
小沢:つまりソーラーパネル自体が巨大なアンテナになって、もの凄く強力な妨害電波を受信するようになると?
大塚:とにかく難題は山積みです(笑)。
小沢:うーむ、大電圧を使うクルマって、シロウトじゃ想像もつかない難問を抱えてるんですね。
大塚:パソコンをみてください。一度事故が起こったら、いままでの苦労が台無しになりますから。今までプリウスは細心の注意を払ってやってきたんです。
小沢:一時ノートブックパソコンなどにあったバッテリーの発火問題などですね。万が一そうなったら、プリウスブランドの崩壊もありえると。
大塚:いえ、“万が一”も許されません。だから難問なんです。
小沢:では諦めるんですか。
大塚:いや、断言はしませんが、次回モデルチェンジまでには何らかの回答は出したいと思ってます。動力とは別ループでもいいかもしれない。
小沢:がんばってください。
大塚:はい(笑)。
というわけで、意外なる技術的壁と政治的壁を露呈したプリウスのソーラーパワー化計画。同様に、それが怖くてプラグインハイブリッドも長引いているような気がしたが、さらに心配なのは外敵だ。具体的には、日本ほどコンプライアンスが厳しくなく、安全性についてもからきしいい加減なあの国、中国。BYDあたりが、トヨタより早く“実用ソーラーハイブリッドカー”なんてのを作って、一応カタチだけ世界一早く実用化してしまうような気がするが、ソイツはハイブリッド先進国を誇る日本人としてはヒジョーに嬉しくない話だ。
とりあえず駐車場に置いとくだけで、都内の短距離ぐらい走れる“ソーラープリウス”が出るといいんだけどね。大塚さん、期待しておりますっ!!
(文と写真=小沢コージ)
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小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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